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おうち時間を豊かに。心の免疫力を上げる小説&エッセイ10冊

家にいる時間が長くなった今、ゆっくり本と向き合い心の免疫力も上げていきたい。こんな時代だからこそ響く、珠玉の小説&エッセイ10冊を紹介。

『猫を棄てる』 村上春樹 文芸春秋 1200円

『猫を棄てる』 村上春樹 文芸春秋 1200円
村上春樹が家族を語る、ちいさなエッセイ
 
コンパクトで軽い造本で発表された、村上春樹の極私的エッセイ。2008年に亡くなった、これまであまり語ることのなかった父親について繊細に書き綴っている。小学校低学年のころ、父とともにもう大人だった雌の野良猫を浜まで自転車に乗って捨てにいったが、さよならして家に戻れば、その猫が迎え出てきたというささやかなエピソードから、本書は語りだされる。お寺の息子であり、徴兵されて九死に一生を得て、実直な国語教師をまっとうした父。〈自分が父をずっと落胆させてきた、その期待を裏切ってきた、という気持ちを抱き続けている〉。台湾の女性アーティストによる装画・挿画も味わい深く、どこか懐かしさと寂寥感のただよう一冊になっている。

『パリの砂漠、東京の蜃気楼』 金原ひとみ ホーム社 1700円

『パリの砂漠、東京の蜃気楼』 金原ひとみ ホーム社 1700円
ソリッドな文章、ひりひりした実感。いま読みたい1冊
 
世間というものが押し付けてくる「規範」「常識」のうざったさや、同調圧力の息苦しさを、デビュー以来、長年小説に書いてきた金原ひとみの、めずらしいエッセイ集。ふたりの小さな娘とともにパリに暮らしてそこにも慣れたとき、ふいに〈ただただ捻れを元に戻したい〉という欲求がわき、日本への帰国を決心する。失敗つづきのピアスの穴あけ、パリ最後の夜のフォアグラ、帰国後に行ったフェス……。なにかに追われるように生き、そして書きつづける彼女の鮮烈な言葉から、現代の世相が見えてくる。〈私は幼い頃、悲しみに共感してくれる人が欲しかったのだと。そして今、もはや私は悲しみに共感してくれる人を欲していないのだ〉

 

『のっけから失礼します』 三浦しをん 集英社 1600円

『のっけから失礼します』 三浦しをん 集英社 1600円
笑ってこの世の憂さを晴らしたいときにはこれ
 
暑さにうなされながら眠ると「もんだ眠」と呼ぶ素敵男子との恋愛模様を夢に見る。40歳を迎えて一週間立たぬうちに四十肩を発症する。ベランダで植木の世話をしていると眼下を真っ裸の子どもが走っていく。EXILEのライヴに命を懸ける……。どこにでも笑いのタネが潜んでいる三浦しをん的日常を、軽妙で味わいあるトーンで綴るエッセイ集。小説とはひと味番う、素のしをんさんが垣間見れる。「BAILA」連載時から人気を博するエッセイ5年ぶんに、書きおろしも付け足した一冊。笑いの誘発力は絶大なので、電車などでの読書はご注意を。

『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子 文春文庫 640円

『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子 文春文庫 640円
テーブル式のチェス盤に、無限の世界が広がる
 
天才的チェスプレイヤーにちなんでリトル・アリョーヒンと呼ばれた青年は、体が大きくなることに恐怖を抱き、7歳ぐらいの大きさのまま成長を止めた。廃バスに住み着いた心優しきマスターにチェスの手ほどきを受け、やがて“自動チェス人形”の台座の中から人形を操って、人びとと対戦をする。かたわらには手品師の娘、脳裏に浮かぶのは遠き日の思い出。〈チェス盤の上では、強いものより、善なるものの方が価値が高い〉。どことも、いつとも知れぬ不思議な世界観は、私たち読者に、幸せとは何なのかという普遍的な問いを投げかけてくる。長年、小川洋子ファンから愛されてきた、感動作。

『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 山田詠美 幻冬舎文庫 540円

『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 山田詠美 幻冬舎文庫 540円
震災の悲劇を想起させる、普遍的な家族小説
 
それぞれ子を持つ男女が再婚、新しく子どもも生まれて、完璧な幸せを手に入れる。趣味のいい一戸建てに住み、笑い声が絶えない日常。しかし母の連れ子である17歳の澄生が不慮の事故により命を落とし、事態は一転する。アルコール中毒に陥った母を支えながら、残された子たちは大きな喪失を抱えて大人になっていく……。恋愛体験を通し、誰もが誰かにとってかけがえない存在だと知ることで、兄の死を受け入れていくプロセスが繊細に描かれる。〈人生よ、私を楽しませてくれてありがとう〉。福音の鳴り響くラストが美しい。

『百年の散歩』 多和田葉子 新潮文庫 590円

『百年の散歩』 多和田葉子 新潮文庫 590円
「散歩」は、かくも楽しく、かくも不思議なもの
 
ベルリンに実在する「カール・マルクス通り」「プーシキン並木通り」といった人名を冠した通りを、「わたし」がつれづれに歩き回る、10の短編連作で構成された本作。待ち合わせをしている「あの人」はなかなか来ないから、「わたし」は道に迷い、舞台を観劇し、茶を飲み、看板や記念碑を眺めては思索をつづけるのだ。ただ散歩するだけの小説が、なぜこれほどスリリングなのか。街や通りが持つ歴史性とは、消去可能なデータなどではなくて、地層のような堆積物だと読者が気づかされるからかも。喫茶店が「奇異茶店」になり、タクシーは「楽しー」になる、多和田らしい言葉遊びも炸裂。そぞろ歩き、というものの楽しさが再発見されるいま、散歩小説の決定版がこれ。

『すべて真夜中の恋人たち』 川上三映子 講談社文庫 680円

『すべて真夜中の恋人たち』 川上三映子 講談社文庫 680円
孤独の質の変わっていくさまを、繊細に文章化
 
校閲を生業とする冬子は30代半ば。無口で人づきあいもしないので、孤独にはなじんでいる。それまで口にしなかったアルコールに魅了され日本酒を魔法瓶に入れて持ち歩くようになったある日、冬子は三束さんと出会う。50代後半の高校の物理教師らしい。本書は、孤独の城壁を打ち破って押し寄せてくる、恋の強さを描き出す。〈たぶん、はじめて会ったときからわたしは三束さんのことがすきだった。そうはっきり言葉にしてしまうと、わたしは椅子に座っていることができないくらいに苦しくなり、机に突っ伏して顔を腕のなかに入れて目をつむった〉。不器用な恋の行方を、光の明滅のイメージでとらえた本作。生きることの厳しさや喜びが静かに降り積もるよう。

『チア男子!!』朝井リョウ 集英社文庫 760円

『チア男子!!』朝井リョウ 集英社文庫 760円
チアによって、元気づけられるのは読者かも
 
けがをきっかけに長年打ち込んできた柔道をやめた大学生が、親友と男子チア部を結成! ひと癖もふた癖もある仲間を集めて、いざ技の特訓が始まる……。成功に必要なのは体力、それとも結束力? 全国大会出場を目指す男子チア部の悲喜こもごもが、新鮮な驚きと感動をつれてくる読書体験が味わえる。王道の青春スポーツ物語も、『桐島、部活やめるってよ』という異色の部活小説でデビューした朝井リョウの手にかかれば、笑いと切なさとリアリティを盛り込んだ極上のエンタメ小説になると証明。当時、現役大学生作家だった著者の第二作で、のちに実写映画化&テレビアニメ化もされた。

『ブルックリン・フォリーズ』 ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮文庫 880円

『ブルックリン・フォリーズ』 ポール・オースター 柴田元幸訳 新潮文庫 880円
「すべてを私は思い出したい」 挫折からの幸福
 
60歳間近のネイサンは、妻と別れ、ほどほどの資産とともにブルックリンに帰ってきた。そこで7年ぶりに甥と再会。天才だったはずの甥は古本屋の店員になっていた……。伯父と甥、ゲイの古本屋店主の三人に、生意気な女の子が加わり、物語は思わぬ方向に展開していく。「愚行(フォリーズ)」とは何か? 諦めきれない夢に対し、真摯に愚直に行動を起こすことだと本書は教えてくれる。人と人との結びつきや、信頼できることの喜びを、現代アメリカ文学を代表する人気作家があたたかなまなざしで描く。ふたたび栄光を手に入れるまでの、再生の物語。

『マンゴー通り、ときどきさよなら』 サンドラ・シスネロス くぼたのぞみ訳 白水Uブックス1300円

『マンゴー通り、ときどきさよなら』 サンドラ・シスネロス くぼたのぞみ訳 白水Uブックス1300円
成功や自由はどこに? 移民たちの声の響く美しい小説
 
スペイン語で希望を意味する名前、エスペランサという少女の、軽やかな語りと感性を楽しもう。メキシコからアメリカの輝かしさを求めて国境を越えた移民である彼女の一家は、住人の入れ替わりが激しく、治安の悪いマンゴー通りのアパートからなかなか抜け出せない。ご近所さんは、ひとりで死んだハンサムな密入国者、ホームシックで泣く巨大な女、二人の子のシングルマザーなど。彼らにさまざまな幸福とそれを上回る数の不幸が訪れる。〈いつか、わたしは出ていくからね〉。本を読み、詩を綴りながら成長するエスペランサの、その後を予言して物語は終わる。あの通りに存在した「優しさ」について、抒情的に語る「声」が魅力の小説だ。

取材・文/江南亜美子 構成/中川友紀〈BAILA〉

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