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道尾秀介、会心の長編ミステリ『雷神』をレビュー【30代におすすめの本】

書評家・ライターの江南亜美子が、アラサー女子におすすめの最新本をピックアップ! 今回は、ページをめくる手が止まらなくなる、道尾秀介『雷神』と岡田育『我は、おばさん 』をご紹介。ぜひ、サマー・リーディングのリストに加えて。

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江南亜美子

江南亜美子


文学の力を信じている書評家・ライター。新人発掘にも積極的。共著に『世界の8大文学賞』。

『雷神』雷撃が二人の子どもを襲った日、村の祭りで起きたある事件により、善良な一家は村を出た。それから長い時を経て、封印されていた真相が解き明かされる――。ミステリの醍醐味が味わえる一作。

冒頭からラストまで一気呵成のミステリで、夏の暑さを忘れたい。物語は、妻を亡くし一人で娘を育てる料理人の男に、ある脅迫電話がかかってくるところから始まる。娘にひた隠しにしてきた秘密を暴露するというのだ。男には、生まれ故郷を逃げるように出た過去がある。村の祭りの日に起きた毒殺事件と、母親の不慮の事故死。30年前のあの日にすべては回帰していく……。

テーマとなるのは記憶のあり方だ。繰り返し聞かされるうちに実体験のように感じたり、あとになって急に意味がわかったり。主人公が落雷事故により一部まだらになっている記憶を取り戻せるかが、物語の大きなカギとなる。さらには、自然の植物の生態系を人間がすべて掌握しようとする傲慢さへの警告も、本作のメッセージだ。野生の植物と共生すること。それは、雷をはじめとする自然の脅威を畏怖してきた人類の、生きる知恵ともつながるのだ。「神様はすべてを見ていた。罰を与えるべき人間が誰であるかも知っていた」

複雑な人間関係と、30年越しの記憶の空白がからみ合い、最後には真実が浮かび上がる見事な構成のこの一冊。道尾秀介の会心の長編作だ。

『雷神』

道尾秀介著

新潮社 1870円


日本海側は雷で冬到来。光の明滅に浮かぶものは

雷撃が二人の子どもを襲った日、村の祭りで起きたある事件により、善良な一家は村を出た。それから長い時を経て、封印されていた真相が解き明かされる――。ミステリの醍醐味が味わえる一作。


これも気になる!

『我は、おばさん 』詩人でもある著者の初小説集。児童養護施設に暮らす集は年下のひじりと亀を見るため淀川に行く。少年少女たちの息づかいや成長期の体の感覚を、やわらかな関西弁が響く筆致で。ほか一編収録『ここはとても速い川』

『我は、おばさん 』
岡田育著

集英社 1760円

連帯の要となる存在に。「おばさん」再定義の書
『マッドマックス怒りのデス・ロード』から『更級日記』まで古今東西の作品に描かれる中年女性像から、負の固定観念を引きはがす痛快エッセイ。自由に生きていいと全世代の女性を勇気づける一冊。

イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2021年9月号掲載

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