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【 #松本幸四郎 さんスペシャルインタビュー】松本幸四郎さんが語る歌舞伎の魅力とは?

濃厚なキャラクターで、テレビドラマでも圧倒的な存在感を見せる歌舞伎俳優。松本幸四郎さんもそんなユニークな輝きを放つ注目の一人。顔立ちは、正統派のイケメンだけど、実は革新的で、常識を超えた異能の人。そんな彼が語る歌舞伎の魅力とは?

道が二つあったら結果がどうなるかわからないほうを選ぶと思います

松本幸四郎

役者にとって劇場を閉めるのは、息の根を止められるのと同じ

この日、歌舞伎座での舞台を終えて撮影にやってきた幸四郎さん。出演していたのは、『荒川の佐吉』という江戸を舞台にした人情もの。大工の佐吉が、殺された親分に代わって、目の不自由な孫の卯之吉を我が子同然に育てるものの、やがてつらい別れが訪れる。それはもう身を引き裂かれるようで、客席のあちこちからすすり泣く声が……。佐吉演じる幸四郎さんもずっと大粒の涙を流していた。

「あんなに悲しい別れは、佐吉だって人生に一度しか経験しないのに、僕たちはひと月に20日も経験するんです(笑)。明日が千穐楽ですけれど、もう一日やれと言われてもつらくてできないですね」

この言葉からもわかるように、一年のほとんどを舞台で過ごす歌舞伎俳優にとって、演じることは日常で、まさに人生そのもの。それだけに3年前に始まったコロナ禍での日々は、とてもつらく苦しいものだったと振り返る。

「当初は公演がすべて中止になりましたが、劇場を閉めるというのは、僕たちにとっては息の根を止められるのと一緒。それは役者だけでなく、衣裳さん、床山さん(ヘア担当)、大道具さんなども同じです。アスリート同様、何カ月も休めば感覚が鈍って、床山さんが髷を結うのも難しくなる。彼らの手を止めてはいけないと思いました」

そこで幸四郎さんが考えたのは、おのおのがリモートで芝居をして配信するという「図夢歌舞伎」。エンタメ業界では、誰よりも早く現場を動かし、話題となった。もともとアイディアマンで、歌舞伎の隈取をモチーフにしたフェイスマスクを考案したり、歌舞伎とフィギュアスケートを融合させた舞台を作ったことも。歌舞伎の未来を常に見据える彼の歌舞伎愛がコロナ禍でも様々な奇跡を生み出した。

「今、劇場には活気が戻りつつありますけれど、明日、歌舞伎座がなくなるかもしれないという危機が去ったわけではありません。いつか『あのときは、大変だったよね』と話せるようになるには、とにかく僕たちが舞台に立ち続けることが大事だと思っています」

一方、プライベートでは、「コロナ禍で、いかに自分が平凡のど真ん中にいるか認識した」と笑う。

「コロナ自粛中に一般の人がやったことベスト3が、片づけをする、髪を染める、ペットを飼うだったそうですけれど、全部やってたんです(笑)。髪を染めて、渋谷のニトリで本棚を買って片づけをして。家族の希望でラブラドールレトリバー犬も飼うことになりました」

子どもの頃、小型犬を飼っていたものの、実は大型犬を飼うのは今回が初めて。

「大型犬といえば、車でいえばトラックでしょう?(笑)片手で抱き上げられる小型犬とは大違いで、甘がみで殺されるかと思いました。それでボクシングの練習用のグローブを買って、『ほら、甘がみしてみろよ。全然怖くないぞ!』って(笑)

息子の市川染五郎さんは、コロナ禍で休校になったときは料理を作っていたそうで、「手の込んだものを作っていましたね。グラム数をしっかり量って、調味料もそろえて本格的。僕は『本当はここでしょうゆだけど、みりんを入れたらどうなるんだろう?』って試して、家族に迷惑をかけています(笑)」

止まらない好奇心。何事も冒険せずにはいられないタイプなのだ。

「確かにそうですね。道が二つあったら、結果がわからないもの、どうなるかわからないほうを選んでいます」

松本幸四郎 2

江戸の職人と京都の芸妓、一人二役に挑戦します

7月には大阪松竹座で、3演目に出演するが、中でも注目は京都を舞台にしたラブコメディ『祇園恋づくし』。

「以前、京都の南座で、山城屋さん(故・坂田藤十郎)と中村屋のお兄さん(故・中村勘三郎)が演じたのを映像で観たら、これが芸術的に面白くて。京都と江戸の意地の張り合いや、京ことばと江戸ことばのかけ合いが本当に巧妙で楽しいんですね。また、二人の役者が一人二役をやるところも見どころのひとつです。今回、主役の(中村)鴈治郎のお兄さんは、夫婦二役を一人でやります。妻も夫もやるから、めちゃくちゃ忙しいんですよ(笑)。僕は、江戸から来た職人と、祇園の芸妓さんの二役をやります。だから江戸ことばと京ことばの両方を話しつつ、男性と女性、それも艶のある花街の女性を演じないといけない。自信は一切ないですけれど、『これができたらかっこいいな、僕!』って思っています(笑)」

さすがチャレンジの人、幸四郎さん!これは見逃すわけにはいきませんっ。

「鴈治郎のお兄さんとは、コメデイジャンルにおいては、ゴールデンコンビだと思っているので(笑)、ぜひ劇場に足を運んでください!!」

ジャケット¥231000・シャツ¥58300/コロネット(カナーリ) デニム¥113300/ヤコブ コーエン 東京ミッドタウン店(ヤコブ コーエン) その他/スタイリスト私物

『七月大歌舞伎』

『七月大歌舞伎』
2022年7月3日(日)~24日(日) 大阪松竹座にて上演
出演/片岡仁左衛門、中村扇雀、中村鴈治郎、片岡孝太郎、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助ほか
「関西・歌舞伎を愛する会 第三十回」となる本公演には、東西の人気俳優が勢ぞろい。昼の部は『八重桐廓噺 嫗山姥』『浮かれ心中』夜の部は、『堀川波の鼓』『祇園恋づくし』と夏の大阪ににピッタリの演目がずらり。これは必見!!

松本幸四郎

松本幸四郎


まつもと こうしろう●1973年東京生まれ。歌舞伎俳優。屋号は高麗屋。1979年、三代目松本金太郎として初舞台を踏む。1981年に七代目市川染五郎、2018年に十代目松本幸四郎を襲名。舞台のほか、テレビやCMなど幅広く活躍。

撮影/五十嵐隆裕〈SIGNO〉 楽屋写真/野村佐紀子 ヘア&メイク/林摩規子 スタイリスト/川田真梨子 取材・原文/佐藤裕美 撮影協力/AWABEES ※BAILA2022年8月号掲載

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