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人類にとって「推し」とは何なのか?横川良明さんの「推し」理論から見えてくるもの【BAILAhomme2掲載】

『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』の横川さんに、改めて「推し」について語っていただいた。たっぷりの熱量を感じる横川さんの「推し」理論に、共感できるBAILA読者はきっと多いはず。

教えてくれたのは

文筆家

横川良明


よこがわ よしあき●1983年生まれ、大阪出身。ドラマ、映画、演劇を中心に、インタビューやコラムを執筆。下の著書は、推し活動時代を象徴する本として注目を集め、3刷を重ねる。サンマーク出版1540円

人類にとって「推し」とは何なのか

それにしても大人ってハードモードすぎません? 毎朝、寝不足の頭を叩き起こして朝ごはんの支度をし、鏡に映る疲れた顔は見ないふりして誤魔化す。家を一歩出れば臨戦態勢。上司は面倒な仕事を押しつけ、後輩は叱るとすぐに音を上げる。


中途半端に丈夫なせいで結局厄介事は全部自分にまわってきて、責任はどんどん増えるのに給与は一向に上がらない。駅のホームでぶつかってくるおじさん。狭い歩道をアルマゲドン歩きする中高生。ストレスを鞄いっぱいにつめて家に帰ると部屋は散らかったまま。


その瞬間、ふっとわからなくなるのです。いったい誰が僕をケアしてくれるのだろう、と。

子どものときは何かあったら庇ってくれる人がいたし、最悪泣けばなんとかなりました。でも大人になるとそうはいきません。泣いたところで「いい大人が人前で感情的になるのはみっともない」と冷ややかな目で見られて終了。


閻魔様、地獄はこの世にありました。自分の機嫌は自分でとるが世のルール。でもそれも大概暴力的な話だよなあとうんざりしてしまう毎日だからこそ、大人たちは求めるのです、推しという非常出口を。

心が決壊寸前になったとき、スマホの検索窓で推しの名前を叩き打つ。すると画面いっぱいに推しの顔が。それだけで水中から顔を出したみたいに、ぱーっと息ができるようになる。


YouTubeを立ち上げ、お気に入りの動画を引っ張り出す。推しがいつものように目元を綻ばせて笑っている。それだけでボロボロになった体の奥底からエネルギーが湧いてくる。


簡単に逃げたり丸投げしたりできなくなった大人たちにとって、推しは緊急避難先。こんなハードモードの人生を、それでも正気を保ってやっていけるのは、間違いなく推しがいてくれるからです。

しかも、そこに忘れかけていたときめきまでセットで与えてくれるから、推しは福利厚生が充実しすぎている。制作発表の現場でみんなから誕生日をお祝いされて恥ずかしそうにフリップで顔を隠すところとか。バラエティ番組で次々と3Pシュートを決めるところとか。何気なくシャツの袖をめくったら上腕二頭筋がめちゃくちゃがっしりしているところとか。


推しがゴルゴ13くらいの正確さでこちらの心臓を撃ち抜いてくるので、お墓が立ちすぎて僕の心が青山霊園になってる。


正直、ある程度年をとると、ときめきなんて無縁なものだと思っていたんですよ。ところが推しに出会ってからというもの、スマホのホーム画面を見るたび推しのはにかみ顔に胸が高鳴り、暗証番号を推しの誕生日にしたせいでお金をおろすのが楽しくてしょうがない。癒しとときめきを両方与えてくれるなんて、推しと猫動画ぐらいでは??

僕はまだ推しを推しはじめるようになって7年程度の若輩者ですが、それこそ長きにわたって同じ推しを推し続けている方なんて、もう推しは人生そのものだと思うんですよね。


パスケースに推しの写真を忍ばせ、いつか推しと結婚するんだと信じていた10代。社会の荒波に溺れそうになるたびに、推しの現場で生きる気力をもらっていた20代。過ごした歳月の分だけ推しへの感覚もどんどん変わっていって。


昔のような激しいときめきとは違うけれど、ただ推しが幸せであることを穏やかな気持ちで願えるようになったと思いきや、ある日突然初めて出会ったときの熱量が瞬時に甦ってくることもあるから、推し活はまさに一生をかけて楽しめるライフワーク。自分のことを誰かに紹介するとき、名前、年齢の次くらいに「×××のファンで...」と推しの名前が出てくる。もはや推しはプロフィール。僕たちの体の半分くらいは推しでできている。

当然その道のりは幸せなことばかりではなかったかもしれません。メンバーの脱退、グループの解散、結婚発表、エトセトラ。所詮こちとらただのしがない一介のオタク。推しの決断に物を申す権利などあるはずもなく、いつも大事なお知らせは事後報告です。


そのことに悲しくなったり、いよいよ担降りのときが来たかと買い占めたグッズをメルカリに放出する準備をするものの、長年推してきたなりの愛着もあって急には離れられなかったり。この世に永遠なんてないし、人はみな変わっていくもの。そう割り切り、少しずつ変わっていく推しを見ながら、その変化も含めて愛でられるようになったり。推し活は人生の縮図。祗園精舎の鐘の声よりも、推しによって諸行無常を学ぶのです。

僕もこれからも推しを推し続けることで、そんな気持ちを幾度となく味わうのかもしれません。でもそうやって推しと一緒に年をとっていける未来というのも、なんだかいとおしい。年を重ねるごとに少しずつ老眼が入り、雑誌のインタビューの文字が読みづらくてしょうがないと嘆くこともあるでしょう。


ただでさえ推しを拝むと膝に来るのに、その膝が一層痛む日も近いかもしれません。でも、自分が年をとるように、推しも少しずつ年をとっていく。シワが増え、肌のツヤを失い、なのに男の色気は反比例してどんどん増す。そうやって、いいおっちゃん、いいおじいちゃんになっていく推しを見られるのなら、年金の不安しかない老後にもほんの少し希望が見えるというもの。


友達だってずっと一緒というわけにはいかないし、子もいずれ親元を巣立つ。そう考えれば、自分の人生で最も付き合いが長いのが推しなのかもしれません。いつか還暦を迎えたあたりで推しのファンミーティングに行って、「お互い年をとったよね」と自嘲し合う。これぞオタクの夢の余生。それまではもうしばらく体に気をつけ、元気に長生きしたいと思います。

追伸、これだけ言って最後に個人的な我儘で恐縮ですが、今、推しに結婚されちゃうと本当にこの世の終わりなので、もうしばらくは夢を見させてください!(土下座)

※BAILAhomme vol.2掲載

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