環境汚染問題をめぐる訴訟を描いた衝撃の実話『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』をレビュー【シネマナビ】

©2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

SDGs（持続可能な開発目標）という言葉を、よく見聞きするようになった昨今。中でも多くのハリウッドスターも声を上げている、気候変動や環境問題への意識が高まっている人も多いはず。これは遠い国の話ではなく、現実的に私たちの生活にも密接に関わる問題なのだ。

たとえば、キッチン用品として必須のフライパンによく使われているテフロン加工。映画『ダーク・ウォーターズ巨大企業が恐れた男』は、このテフロンが引き起こす恐ろしい環境汚染問題をめぐる訴訟を描いた衝撃の実話。テフロンを使って莫大な利益を上げている巨大企業を相手に、一人の弁護士が人々の命と健康を守るために、人生を懸けて現在も挑み続けている闘いの記録である。

始まりは1998年。米オハイオ州にある名門法律事務所に勤める弁護士ロブ・ビロットのもとにウィルバーという男性がやってきて、大手化学企業デュポン社によって農地が汚染され、190頭もの飼牛が病死したと訴える。荒れ果てた農場を訪れたロブは、突然狂ったように暴れ出す牛を目の当たりにし、ほかにも数々の異常事態を認めて訴訟を起こす。

1年後、デュポンの廃棄物に関する開示資料に記載されていたPFOAという謎めいたワードを調べるロブ。やがてそれが人体に極めて有害な化学物質であり、川や水道水に漏れ出したその物質が、地域一帯の住民の健康をむしばんでいる可能性に行き着く。

実はデュポンはこの化学物質の危険性を40年前に知りながら、利益のために隠蔽し大気や土壌に垂れ流していたのだ。さらに社内で人体実験まで行っていたという、おぞましい事実が明らかに……。

PFOAとは、フォーエバーケミカル（永遠の化学物質）と呼ばれるもので、一度自然界に出たら消滅することはない。それは人体でも同じで害を与え続ける。このPFOAの代表格＝テフロンを使った危険な製品は、今も各国で販売されている。便利な商品として日常的に使っている登場人物たちの姿は、私たちの日常に重なる。無知とはなんと恐ろしいことかと思わずにはいられない。

主演は、アメコミ大作でもおなじみで、『スポットライト世紀のスクープ』ほかで3度のオスカー候補になっているマーク・ラファロ。この映画により説得力があるのは、ラファロ自身が長年、環境に関するリーダーシップを発揮して多くの問題に取り組んできた背景があるから。本作の企画からプロデューサーも務めるラファロの入魂の演技は、今この瞬間にも深刻な事態が継続していることを伝えて胸に迫るものがある。

監督／トッド・ヘインズ　
出演／マーク・ラファロ、アン・ハサウェイ　
公開／12月17日（金）、TOHOシネマズ シャンテほかロードショー

©3B Productions

『ジャネット』『ジャンヌ』
15世紀フランスの英雄、ジャンヌ・ダルクを題材にした2部作。1部は幼年時代を奇想天外な歴史音楽劇として、2部はジャンヌの戦いと運命をスリリングに描く。フランスの鬼才が放つ個性が光る。

監督／ブリュノ・デュモン
出演／リーズ・ルプラ・プリュドム、ジャンヌ・ヴォワザン
公開／12月11日（土）より、渋谷ユーロスペースほかにて2作同時公開

©2021 KIDARI ENT, INC., SONY PICTURES ENTERTAINMENT KOREA INC. （BRANCH）, AZIT FILM CORP., AZIT PICTURES CORP. ALL RIGHTS RESERVED

『雨とあなたの物語』
韓国・ソウルで浪人生活を送る青年ヨンホと、記憶の中で大切にしてきた友人の手紙のやりとりをめぐるラブストーリー。詩的でロマンチックな語り口が魅力的！主演はカン・ハヌルとチョン・ウヒ。

監督／チョ・ジンモ
出演／カン・ハヌル、チョン・ウヒ
公開／12月17日（金）よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて