アメリカ政界を舞台にした『ハウス・オブ・カード 野望の階段』。続きが気になって睡眠不足に陥る人が続出し社会現象を巻き起こしたドラマですが、その魅力はストーリー構成だけに止まりません。珍しいほどに大の大人しか出てこないこの作品。緊張感漂う登場人物たちのセリフに耳をすませると、そんな言い回しをするのか!と膝を打つ、工夫が凝らされた表現の宝庫なのです。改めてじっくり見直してみましょう!
1『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のあらすじ
Netflixオリジナルシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』シーズン1~6独占配信中
主人公のフランクは下院議員を20年以上務めるベテラン政治家。就任した暁には国務長官のポストを与えるとの約束で大統領候補を応援するも、当選後にその約束は反故にされてしまいます。もともと目的のためなら手段を選ばない冷酷な性格のフランクは復讐を決意。策をめぐらし、ときには犯罪行為もいとわずに、のし上がっていきます。さらにドラマに深みをもたらすのが、フランクの妻でNPO法人の代表を務めるクレアの存在。クレアもフランク同様、権力に取り憑かれた非情な人物です。シーズンを追うごとにクレアの存在感が増して、面白くなっていきます。
2まずはパワーゲームに欠かせないフレーズを確認!「力になってくれる?」はどう表現する?
第1話の冒頭、大統領の首席補佐官リンダがフランクを国務長官にしないことを告げる、フランクにとって屈辱のシーン。このリンダという人物もそれはそれはタフな女性で、フランクの反論をはねつけたうえで「それでも力になってくれるよね?」と一言。
Will you stand beside us or not?
直訳すると「私たちの隣に立ってくれるよね?」これが「味方だよね?」という意味になります。
急な裏切りに納得できないフランクは数秒間をおきますが、その間も「絶対にNoとは言わせないわよ」というジリジリとした圧が…。さすがのフランクも「もちろん、それが大統領のお望みなら」と答えるしかありませんでした。
ちなみに、beside と似た「横に」という意味の by に置き換えて、stand by〜にしてもほとんど同じ意味ですし、
「後ろに」という意味の behind とセットにして、stand behind〜にすると「~をバックアップする」という意味に。
反対に、stand against〜なら「〜に対抗する」、
stand apart なら「かかわらない」となるなど、
stand と前置詞・副詞のセットで立場を表すことができます!
3表現の巧みさを味わう「私の生存に必要な女だ」というセリフ
第1話の前半、フランクがモノローグのなかで妻クレアについてこう語ります。
I love her more than sharks love blood.
そのまま訳すなら「サメが血を求めるよりも強く、彼女を愛している」ということ。脚本の言葉選びが巧すぎる…!
日本語字幕の「愛してる。私の生存に必要な女だ」という訳も限られた文字数のなかでそのニュアンスを上手く捉えていますが、実際のセリフからはより深くドラマの世界観が伝わってきますよね。
一般的な愛し合う男女の夫婦関係というよりは、権力獲得のための協力者同士という感じのふたりの関係、そしてサメのように恐ろしいふたりの冷血さを見事に表現しています。
4「私に任せてくれ」を簡単な英語で表現するなら?
正解は、
I can deliver.
「配達する」という意味の deliver には、「(約束などを)果たす」という意味があるのを知っていましたか?第1話の中盤で、大統領の首席補佐官リンダから重要な法案を100日で可決させてほしいと頼まれてのフランクの一言。仕事を頼まれたときにたった3ワードでこんな風に返せたら、一気に頼もしさを感じてもらえるはず。
ちなみに、第2話ではこんなセリフが。
We're counting on you.
「数える」という意味の count を使って「頼りにしてるよ」という意味。
この後、若きスタッフたちがフランクの指示で泊まり込みで法案作成に当たります。家族にも会えず、シャワーを浴びることすらできず、そのうえ「動物園みたいに臭い」とまで言われて少し可哀想なスタッフたち… 議会の仕事は大変です。
5 picture「写真」の意外な使い方
pictureという簡単な単語。でも、このセリフの意味、わかりますか?
I can't even picture it.
第3話で急遽問題が発生した自分の地元の選挙区に戻ったフランクが、ワシントンにいるクレアと電話するなかで言ったセリフです。ここでは picture が動詞で使われており、このセリフは「まったく想像できないな」という意味。近い意味の単語 imagine よりも、心のなかに写真のようにありありと情景を浮かべるときに使われます。
フランクは、名詞 picture を使ってこんな表現もしていました。
Take a step back. Look at the bigger picture.
「一歩下がって、広い視野で考えろ」
こちらは第1話で大統領の裏切りを知り、「ただの報復じゃ済まさないぞ」と炎がメラメラ燃え上がるフランクが発したセリフ。この後、策士ぶりを発揮していきます。
6大人の会話のなかで「私アートに疎くて…」は何と言う?
正解は第3話でフランクの妻でNPO代表のクレアと、クレアが新たにNPOに迎えた女性ジリアンの会話のなかでの一言。
I'm not up to date on the art world.
up to date は、最新の情報を取り入れている状態のこと。その状態にないと言うことで、「あまり詳しくないんです」ということを伝えられます。へんに知ったかぶるよりさらっとこう答えられたら大人の余裕を感じさせられそうですし、知らないことを素直に聞きやすくなります。
7お酒を注ぎながら「"ここまで"と言ってね」って英語で何?
第4話で、クレアが友人とキッチンでお酒を飲む際のやりとり。とてもシンプルに
Just say when. で「"ここまで"と言ってね」という意味になります。
それに対して注がれる方が言ったのが、And when. 「はい、そこまで」
whenというと、どうしても「いつ?」と尋ねる疑問文のイメージがあるので、なんだか不思議な感覚ですね。
8(番外編)秋にアメリカ大統領選挙が控える2020年。ここで、アメリカ政治の基本のキをおさらい!
アメリカの日本でいう国会にあたる連邦議会( congress )は、上院と下院に分かれています。上下という名前がついていますが、立法上の権限は対等です。アメリカ大統領( President of the United States of America )は4年に一度、選挙( election )で選ばれます。日本の首相は国会議員のなかから選ばれますが、アメリカ大統領は連邦議会議員( Congressman )をしながら務めることはできません。
アメリカの政党は、保守的な共和党( Republican Party )とリベラルな民主党( Democratic Party )の二大政党制。現在のトランプ大統領は共和党で、オバマ前大統領は民主党です。アメリカ大統領が住んでいる建物、ひいてはアメリカ政府のことをホワイトハウス( White House )と呼びます。ちなみに、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の主人公フランクは民主党の下院議員です。
以上の単語を知っておけば、英字新聞の見出しも理解できるかも!?
最後に
ここで、抜き打ち確認テスト!「私に任せて」は、3つの単語で何と表現するか覚えていますか?思い出せないという方はぜひもう一度上に戻って確認してみて。Netflixオリジナルシリーズ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はシーズン1~6をNetflixで独占配信中です。紹介した表現やセリフに、ぜひ物語のなかで出会ってみてください!
構成・文/松井友里〈BAILA〉