雑誌BAILAで人気の長期連載『こちらアート探偵社』の@BAILAスペシャル編として、「こんな時だからこそ! 旅行解禁になったら、ぜひ行きたい美術館」をご紹介。徐々に県境をまたいだ移動もできるようになってきた昨今、心の免疫力アップのためにも、変化の波に乗りこなすタフなマインドを育てるためにも、知る人ぞ知る素晴らしいアート作品を抱える日本全国の美術館に行ってみませんか? まず第1回目は香川県にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館です。
猪熊弦一郎《宇宙都市休日》1991年 ©公益財団法人ミモカ美術振興財団
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は、名前のとおり、20世紀の日本を代表する現代美術画家・猪熊弦一郎さんの作品2万点を有する美術館で、年に約4回の常設展ではさまざまな角度から猪熊さんの作品を楽しむことができます。
さて「猪熊さんって誰?」と思った人は「三越伊勢丹 包装紙 華ひらく」「JR上野駅 猪熊」でググってみましょう。あの有名な赤い包装紙や、JR東日本上野駅中央改札の楽園風壁画(《自由》1951年)の作者が猪熊弦一郎。「猪熊 猫」で検索しても、きっと「ああ、これ知ってる!」に出会えるはず。
この猪熊弦一郎作品がなぜ今の時期におすすめかというと、彼自体が一生好奇心と人生を楽しむ気持ちを持ち続けた画家で、その作品もポジティブでワクワクするエナジーに満ちているから。例えば、この《宇宙都市休日》は90歳でお亡くなりになる2年前の作品なんだけど、「巨匠」と呼ばれるおじいさんが描いたとは思えないほど楽しそうじゃない?
猪熊弦一郎《妻と赤い服》1950年 ©公益財団法人ミモカ美術振興財団
だけど、猪熊さんも最初からこんなに軽やかな作品を描いていたわけではなく、日本で研鑽を積んでいた頃はピカソを彷彿とさせる具象画。30代でパリに渡りアンリ・マティスと出会ってからは上のようなマティス風。そうこうするうちに第二次世界大戦下では従軍画家としてビルマ(現・ミャンマー)へ派遣され、腎臓を傷め帰国し、九死に一生を得る大手術……。まさに、外出自粛程度では済まない時代の荒波に翻弄されたのに、戦地でもジャングルの美しさに見惚れて日々ニコニコしていたというから、マインドフルネスという言葉がない頃からマインドフルネスの実践者だったのですねー。
猪熊弦一郎《太陽は待って居る》1987年 ©公益財団法人ミモカ美術振興財団
そして戦後、パリに行く途中で立ち寄ったニューヨークが気に入り、そのまま移住。抽象表現主義が勢いづいていたN.Y.で、独特なリズムあふれる「猪熊弦一郎の抽象表現」を生み出したのだそうな。パリに代わるアートの中心地として、世界中からアーティストが集まってきていたN.Y.で最先端の匂いを嗅ぎとり、そのまま留まった判断力が的確だし、表現のブレイクスルーもすごいよね。
PART.2では同美術館の学芸員さんに、猪熊作品の魅力をたっぷり語っていただきます!
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 香川県丸亀市浜町80-1 10時~18時 休/月曜(祝休日の場合はその直後の平日)、年末12月25日から31日、および臨時休館日 観覧料/企画展:展覧会ごとに定めます 常設展:一般 300円
取材・文/KAORU