暑い、疲れた、そんな夏バテ気味でも、食欲を増進させる美味しい本2冊をご紹介します。
『海と山のオムレツ』
■『海と山のオムレツ』
(カルミネ・アバーテ著 関口英子訳/新潮社)
南イタリア・カラブリア州の小さな村で、少数言語アルバレシュ語を母語に育った作家の自伝的短編小説集。人生の節目ごとの記憶と土地の味が、それはそれは美味しそうに描かれます。
腸詰めの大きな塊、オリーブオイルと大蒜、鰯の塩漬け、採れたてのスイカ。ページを捲るたび、生唾が止まりません。魅力的なタイトルにもなっている「海と山のオムレツ」は、作家が子どもの頃に食べた祖母の手料理。これに使われるサルデッラ(「青背の魚の稚魚に赤唐辛子を混ぜて練ったもの」。カラブリア州の名物)は、本を読む前は存在も知らなかったのに、文章だけで“いますぐワインと一緒に!”という欲求がむくむく湧いてくる。
読み終えると猛烈に美味しい料理が食べたくなること間違いなしの1冊です。
『世界のおばあちゃん料理』
■『世界のおばあちゃん料理』
(ガブリエーレ・ガリンベルティ著 小梨直訳/河出書房新社)
50ヵ国の料理上手のおばあちゃんが秘伝のレシピを公開。「世界の家庭料理ね、想像つくかも」なんて予想は見事に裏切られます。
まずは、掲載される料理の幅の広さ。「トルコのなすの挽肉野菜詰め」へー、このレシピは作れるかも、などと読み進めると突然、「材料(4人分)イグアナ…1匹または1.2kg前後のウサギ1羽」なんて書いてある。イグアナ!?
そして、表紙にも掲載されている写真の魅力。ドキュメンタリー風のスナップ写真ではなく、台所のテーブルの上に食材をシンメトリーに並べて、中央におばあちゃんが正面を向いてカメラ目線でいるという構図を守ってどの国も撮影されるのですが、これが、すごくいい。取材に協力したおばあちゃんは、“おやおや、不思議なことをするのね”なんて思いながら、“何を着ようかしら”、“笑ったほうがいいのかな“なんて非日常の体験をしたに違いない。著者とおばあちゃんとのやりとりが見えるようで、「旅行気分になれる」の先をいく読書体験がありました。
実は、この本は以前BAILAの企画で森岡書店の森岡督行さんに「未知のワクワクを知る本」としてご紹介いただき知ったのですが、まさに「未知」と「ワクワクがぎっしりと詰まっている美味しい本です。