婚活で頑張りすぎて疲れたら、読書で心をリフレッシュ。女性のリアルを描く作家・柚木麻子さんが選ぶ本には、涙と笑いと学びが詰まってます!
作家・柚木麻子
ゆずきあさこ●1981年、東京都生まれ。2010年、作家デビュー。『伊藤くんAtoE』『本屋さんのダイアナ』『ナイルパーチの女子会』『BUTTER』『マジカルグランマ』と、これまで5回の直木賞候補に。
ありのままを受け入れてくれる人でなきゃ、結婚生活はやっていけない。だから理想は高くて全然いいと思う
「婚活って、悩むことがいっぱいあると思うんですけれど、自己開示して、たくさんの人に会うという経験は、決して無駄ではないと思います。でも、そのつらさに耐えるには、心の中に“青い城”を持っているかどうかが重要で」と柚木さんが、まず紹介してくれたのが、『赤毛のアン』で有名なモンゴメリの『青い城』。
「主人公のヴァランシーは、29歳の冴えないヲタ女子。心の中に青い城があって、そこで夜な夜なイケメンと恋をしているんですね(笑)。そんな彼女が医者の誤診で余命1年と告げられて、『悔いのないように生きる!』と決意したことで、本来の魅力が輝きだして、恋も成就。でもヴァランシーは、青い城を最後まで捨てません。端から見たら痛いような夢の世界でも心に青い城を持ち続けることが、婚活の日々を乗り切る力になるのではないかと思います」

【サプリ:パワーをくれる】心の中の“青い城”が婚活の支えになるはず
『青い城』 モンゴメリ 谷口由美子訳 角川文庫 720円
持病で余命1年と宣告された、内気な独身女のヴァランシー、29歳。これからは自由に生きようと、以前から気になっていた男性にプロポーズ!! 自分らしくいることで、彼女が手に入れたものとは!?
同様に柚木さんの近著『デートクレンジング』でもヒロインの実花は、心の中に自由な砦を持つことで、婚活の厳しい現実から救われる。
「デートクレンジングというのは、アメリカの言葉で、デートをひと休みして、恋愛から一度離れることを意味します。今、みんながさまざまなリミットに追い立てられていますよね。だから時間が止まる場所を心の中に持つことはすごく大事。作品ではアイドルの“推し”を持つことが実花にとっての青い城になっていますが、婚活の枠外に目を向けることで、少しは気持ちがラクになるはずです。また実花は、婚活を通して、自分が本当は結婚や恋愛を求めていないことに気づきますが、それがわかったのも頑張って婚活していたから。結局、婚活は新しい自分を知ることでもあるんですよね」

【サプリ:自分を見直す】自分が本当に求めていることが何かを知ろう!
『デートクレンジング』 柚木麻子 祥伝社 1400円
仕事が行き詰まり、婚活にのめり込む元アイドルグループのマネージャー・実花。そんな彼女に違和感を覚える親友の佐和子も現在、妊活中。タイムリミットに追われる二人の女性がたどり着いた境地とは。
そういう意味で、氷室冴子さんの小説『ターン』も必読の書。自分が求めるのはどんな男性かという答えをヒロインの鞠子が探り当てる。
「鞠子はお見合い相手の祐一と、元カレの幹彦との間で揺れ動いているんですが、あるとき、久しぶりに再会した祐一に『最近、どうしてるの?』『何か面白い映画観た?』と聞かれてハッとします。幹彦からはそんな質問を一度もされたことがなかったと。そして鞠子は結婚するなら、自分に興味をもって、気づかってくれる人を選ぶべきなんじゃないかと気づくんですね。それは本当に正しくて、結婚って生活だから、自分を大事にしてくれる人を選ばないと、家庭と仕事との両立とか、育児とか絶対無理ですから。これはもう生存戦略として重要な視点です。よく『ありのままを受け入れてくれる王子さまなんて、少女漫画の世界しかいない』と言うけれど、ありのままを受け入れてくれる人じゃなきゃ、結婚生活はやっていけないんですよ。だから王子さまを待つことは正しいし、理想は高くて全然いいと私は思っています」

【サプリ:気づきがある】結婚相手にいちばん必要な条件がみえてくる!?
『ターン三番目に好き』 氷室冴子 集英社文庫 380円
平凡な生活を送る大学職員の鞠子。3歳上の見合い相手は好青年だが、ある日、元カレと再会。強引な彼に次第に心が傾いていく。30年前の作品ながら、二人の間で揺れ動く女心には現代女性も共感必至。
そしてそんな王子さまをゲットするために必要なのは「体力です」!?
「欲しいものを手に入れるには、体力は重要です。肉を食べて、よく寝ること。寝ると肌もメンタルも整ってきれいになります。それでも相手が見つからないのは、婚活のシステムが悪いからですね。殺伐としたシステムにのみ込まれて、多くの人が自分を見失っているけれど、今の婚活のシステムが社会の多様性に追いついていないんですよ。もうみんな充分頑張っているのだから、自分を責めるのはやめましょう!」
撮影/齊藤晴香 取材・文/佐藤裕美 構成/菅井麻衣子〈BAILA〉 ※BAILA2019年10月号掲載