全身全霊で入り込み、望まれた以上のことをする
以前から、音楽を始め、ファッションに関心を持つきっかけになったアーティストとして、ことあるごとにデヴィッド・ボウイへの敬意を口にしていたガガ。ビジュアルに強く、歌も上手いし華も知名度もある。彼女こそが適役、と大役を任された。
舞台は一度きり。しかしガガは、何日も前から徹底的に気持ちを作り込んできた。SNSのアイコンをデヴィッド・ボウイの最新アルバム『★(ブラックスター)』に変え、脇腹にはボウイの象徴的なビジュアル“ジギー・スターダスト”のタトゥーを彫った。誰もそこまでやれとは期待していない。でも、ガガはやる。全身全霊のなりきり力と入り込み力で、プレッシャーさえも燃料にひた走るのだ。
パフォーマンスは、ボウイ風メイクを施したガガのアップから始まった。プロジェクションマッピングの蠢くメイクが、やがて蜘蛛に変わり顔中を這い回る。カメラが引くと、「出火吐暴威」と漢字で書かれた白いガウンをまとったガガが登場。山本寛斎がデザインした有名な衣装のレプリカだ。監督とギターを務める相棒は、ボウイのポップ路線への転向を成功させた『レッツ・ダンス』のプロデューサー、ナイル・ロジャース。ボウイ風メイクのダンサーを従えてモニターやステージをいっぱいに使い、歌って踊った8分間のパフォーマンスで披露したメドレーはめくるめく10曲。長いキャリアのハイライトをつなぎ、デヴィッド・ボウイを知らない人でも一曲は「聞いたことある!」と思えるセットリスト。エンターテイナー、レディ・ガガ全身全霊のトリビュートライブだった。
案の定、その後一部から批判もされた。それでも、ガガのアイコンには今も誇らしげにブラックスターが輝いている。
呼吸と間合いで、場を制する掌握力
歌い出しは声を張らずに、語りかけるように。徐々に昂り、会場から自然と歓声が湧き始める。周囲を見渡しながら歌うので、「あ、自分らに歌いかけてる」というムードも煽られる。曲中、ひと呼吸の間合いがいちいち絶妙で、徐々に世界のピントがガガに集約されるように場が掌握されてゆく。高らかに歌い上げるラストでは、ジェット機が飛び、この日戦うカロライナ・パンサーズとデンバー・ブロンコスの猛々しい男たちが雄叫びを上げる。それでも、ガガの声とパンチの効いた存在感はひとつも霞まず場を制していた。
実はど王道&ど正当派でも勝負できる
その前日譚として、こんな話がある。ある日突然、ガガがジュリーの元に電話をかけてきて、自分がメドレーを歌うことで気を悪くしないかと尋ねてきた。そして、ジュリーに敬意を表すため、原曲と同じキーにこだわり練習を重ねていることを伝えたのだそう。結構気にする繊細な性格と、オリジナルへの敬意が感じられるエピソードだ。
歩くだけで「本日の目玉」になる圧倒的な存在感
ひとつ期待を寄せられたら、それ以上のエネルギーをもって全身全霊で打ち返す。大舞台を任せたくなる魅力と努力の人、ガガ。今月28日に控えたアカデミー賞でも、パフォーマンスするという噂も。今度はどんな姿で楽しませてくれるのだろうか。