テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第25回目は、「トリガー条項」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【トリガー条項】
とりがーじょうこう▶トリガー(trigger)は英語で「引き金をひく」という意味で、一定条件を満たすと発動する条項のこと。具体的には、ガソリン価格が基準以上に高騰した場合に発動する、ガソリン税の一部を一時的に免除する仕組み。2010年に導入されたが、東日本大震災の復興財源確保のため凍結された。
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2010年4月
民主党政権の税制改正にてトリガー条項が施行された
公約として民主党が掲げていたガソリン税などの暫定税率廃止が財源悪化などの懸念により軌道修正され、燃料価格高騰対策としてトリガー条項が定められた
2011年4月
東日本大震災の発生によりトリガー条項が凍結措置に
3月に起きた東日本大震災の復興財源を確保するため、トリガー条項は一度も発動することがないまま、震災特例法という法律で発動を凍結する措置がとられた
2022年3月
原油価格高騰を受けトリガー条項凍結解除が協議される
ガソリン小売価格の全国平均が10週連続値上がりするなか、対策として政府与党は検討チームを立ち上げトリガー条項の凍結解除の協議を始めることで合意した
バイラ読者108人にアンケート
Q 「トリガー条項」という言葉の意味を知っていますか?
意味まで知っている人は少数だが、聞いたことがある人は4割。「トリガー条項と凍結解除という言葉をセットで聞くが理解が難しい」との声も。ガソリン価格の高騰を認識している人は9割以上いて関心が高く、解説してほしいという声が多数
Oeʼs eyes
ここ数カ月で急に取り上げられることが増えて、耳にしたことがあってもよくわからないというのが実情だと思います。トリガー条項とは?凍結とは?解除とは?と段階を踏んで理解しないと難しいですよね。私たちニュースを伝える側も、使う際には必ず説明が必要だと肝に銘じて使っている言葉です
Q あなたは車の運転をしますか?
約6割が「運転する」と回答。そのうち半数が「毎日」、約2割が「週に数回」運転するという結果に。地方に住んでいる人ほど車を使う頻度が高く、「年に1回」と答えた人のほとんどが東京都在住だった
Oeʼs eyes
地方に住んでいる多くの人にとって車が不可欠な存在だというのは重要なポイントです。都市部では車をそこまで使わない人もたくさんいますが、それ以外の地域は一人一台といわれるほどの車社会なので、ガソリン価格高騰の影響を大きく受けます。価格の変化に、より敏感にならざるを得ないでしょう
Q 昨今のガソリン価格高騰の影響を、生活するなかで感じますか?
運転をする人より多い割合で「生活のなかで影響を感じる」と回答。具体的には、「レギュラーガソリンを満タンで入れると以前との金額差に驚く」「輸送コスト高による製品の値上がりを感じる」という声が
Oeʼs eyes
自家用車のガソリン代がかさむだけでなく、車を使って荷物を運ぶ物流のコストも上昇します。また、ガソリンだけでなく石油を原料として作られる色々な製品の製造コストも上がりますし、石油を使う火力発電のコストも増えます。燃料価格の高騰は、様々な角度から物価を押し上げるのです
Q 「トリガー条項」の凍結解除に賛成ですか?
賛成 31%
どちらとも言えない 58%
反対 11%
賛成には「ガソリン価格を下げてほしい」、どちらとも言えないには「トリガー条項をよく知らないから」「政策としての効果を判断できない」、反対には「税収が減りほかで税金が上乗せされるのは困る」といった声が
Oeʼs eyes
「どちらとも言えない」には、トリガー条項を知らない人に加え、すでに政府が行っている補助金政策とトリガー条項の凍結解除のどちらがよいかわからない人もいるようですね。賛成の「ガソリン代が家計を圧迫して苦しい」という切実な声と税収が減る認識がある反対意見、どちらも考えさせられます
「ガソリンなどの高騰を抑える政策としてトリガー条項の凍結解除が議題に」
ガソリン価格の高止まりが続いている。
「アンケートの皆さんの声を読んで、地域によっては車が生活に欠かせない方が多くいらっしゃり、ガソリン価格の高騰が生活にかなりの影響を与えている現状をあらためて認識しました。政府は、石油の元売り会社に補助金を出して、ガソリン価格を抑えようとする政策をとっています。そうしたなか、今回は価格抑制のためのもうひとつの選択肢であるトリガー条項の凍結解除について取り上げます」と大江さん。
読者の間での言葉の認知度は低め。
「『トリガー条項の凍結解除』という言葉をニュースで耳にしたが意味がわからなかったという声がありましたが、おっしゃるとおりややこしいんです。トリガー条項、凍結、解除と3段階に分けて説明しますね。まず、トリガー条項とは、レギュラーガソリン価格の全国平均が1ℓ160円を3カ月連続で超えた場合に発動し、ガソリン税53・8円のうち25・1円分の上乗せ課税を止める仕組みのこと。2010年に導入されました。ただ、翌年東日本大震災が起き、復興財源を確保するために震災特例法という法律でトリガー条項の発動を凍結する措置がとられ、今に至っています。そして今年、ガソリン価格の高騰を受けて、このトリガー条項の凍結を解除して価格を抑制してはどうかという議論が起こったのです」
政府がすでに行っている補助金政策とトリガー条項の凍結解除にはどのような違いがあるのですか。
「ガソリン価格を抑える仕組みが異なります。補助金政策の場合は、国の予算のなかの予備費などを財源にして石油の元売り会社に補助金を出して価格を抑えます。一方、トリガー条項の凍結解除は、簡単にいうと減税です。減税される分私たちがガソリンを入れたときに払うお金が減ります。議論されている二つの政策には、国がお金(補助金)を出すのか、国に入ってくるお金(税収)を減らすのかという違いがあるのです。トリガー条項が発動されると安定的な財源がなくなることについて懸念を示す見方や、凍結解除には法改正が必要なためある程度時間がかかるとの指摘もありました。4月中旬、自民、公明、国民民主の3党が話し合った結果、現行の補助金を拡充する方策が選ばれました。トリガー条項の凍結解除は当面見送り、検討を続けることとなりました」
「コロナ禍の経済回復、ウクライナ侵攻、世界のパワーバランスなど高騰の要因は複雑」
そもそも、なぜガソリンの価格が高騰し続けているのでしょうか。
「世界の国々がwithコロナの政策に舵を切り、経済活動を正常化させていく流れのなかで、これまで抑えられていたエネルギー資源への需要が急増しているんですねりました。ロシアは主要な産油国のひとつであり、天然ガスの一大生産地。今後ロシアからの原油に頼れなくなるかもしれない上、天然ガスが輸入できなくなった場合、代替のエネルギーとして原油の需要がより高まるだろうと考えられることもあって、原油価格が高止まりしている状況です」
今後も上昇傾向は続く見通しですか。
「しばらく続くのではないかと見られています。様々な条件が重なって原油高騰が続いているなで、OPEC(石油輸出国機構)の国々が増産するかというと、実はあまり思い切った増産に動いていないのが現状なんですね。彼らは原油価格が高いほうが利益を得られる一方であまりにも高くなりすぎると需要が減るおそれもある。需要がありながら価格が高止まりする状況が産油国にとっては理想的であるのかもしれません。ただ、アメリカの動きによって変わるとの見方があります。アメリカは世界で最も多くシェールオイルやシェールガスを産出していますが、バイデン政権になってから脱炭素に舵を切っていて、それらの生産を抑えています。そのアメリカが今後どう動くか。もしもアメリカが増産し始めたら、OPECは自分たちの存在意義が薄れてしまわないよう増産に動く可能性もあります。そういった世界のパワーバランスも原油価格に絡んでいるんです」
読者からは、「ガソリン代が高いため、車での遠出を控えるようになった」との声も。
「日本では、今年3月、久しぶりに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置がどの地域にも出ていない状態になりました。ここから消費が盛り上がると思われたタイミングでのガソリン価格高騰は、景気の回復を妨げる要因になっていると思います。凍結解除は一旦見送られましたが、価格高騰が続き景気にブレーキがかかった場合、トリガー条項が本格議論されるかもしれません」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/木村 敦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年7月号掲載