俳優の杉咲花さんにインタビュー。普段はすっぴんでいることが多いという杉咲さんが、メイクをする意味に絡めながら、仕事と向き合う気持ちを語ってくれました。
自分の中にある表現しようとする欲
「普段はほとんどメイクをしないんです。たまにするとしてもリップくらいで、メイク道具もほぼ持っていないんです」
自分で自分に何かを施していく作業が「小っ恥ずかしくて」と笑うほど、普段はすっぴんでいることが多いという杉咲さん。メイクをすることは、イコール仕事のスイッチが入る合図でもある。
「(中野)明海さんには5年ほどお世話になっているのですが、メイクテーマの撮影はこれが初めて。すごく楽しみにしていたんです。一筆入るだけで自分の顔がどんどん変わっていくのを実感して感動しましたし、ワクワクもしました。グリーンのアイメイクをしたときのリップの色が、個人的にすごく好みです」
バイラに登場するのは2020年9月号以来4年ぶり。NHK連続テレビ小説「おちょやん」、映画『市子』、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」「海に眠るダイヤモンド」など、フィルモグラフィに加わった作品はどれも強いインパクトを残すものばかり。「物語を通して自分を見つめ直す機会が増えたことで、気づきも多い4年でした。作品に携わっていると、『いいお芝居をしたい』という気持ちが出てきてしまうんです。そういった自分の中にある欲に気づいたことで、一度それを手放して、なにも求めずただそこにいることを心がけてみようと思うようになりました。出演作のプロモーションなどでは華やかな衣装を着させてもらう機会もありますが、最近は着飾ることも一度やめてみて、あえて情報の少ないシンプルなものを選んでみたり。『自分らしさってなんだっけ?』というところに一度立ち返ってみたかったんです」
余計な感情を削ぎ落として心をすっぴんに近づけたことで、見えた景色がある。
「少しだけ、一人の生活者として感じる悲しさや悔しさ、苦しさや楽しさを今までよりも客観視して、冷静に考えられるようになってきたかもしれません。日々感じたことがお芝居に落とし込まれていく気がしていますし、物語から学んだことが生活に反映されていくこともあると思っていて。私生活と仕事は密接しているし、それがどちらにも還元されていく感覚があります。自分では想像できなかったところに到達できたと感じられるような瞬間を呼び寄せられたらいいなって」
着飾ることを手放して見えてきた“自分らしさ”
作品の撮影中は恐怖がそばにある
深く深く思考を巡らせる成熟した態度に圧倒されていると、「稚拙だったなぁと反省してしまうようなこともたくさんありますし、人としてまだまだ拙いです」と杉咲さん。どんなときに感じるのかは「内緒です」とはにかむ笑顔に、等身大の27歳が顔を出した。30歳まではあと3年。表現者としての欲を手放した彼女には、手放さないと決めていることもあるそうで。
「作品の撮影に入っているときはいつも恐怖がそばにあって、逃げてしまおうかなと思うくらいプレッシャーを感じるんです。ですがそのようにして抱く感情は、出演する作品に自分なりの責任を取るという意味で必要な気がしますし、なくなったらきっと自分の表現に安心してしまうのではないかなって」
出演する作品に責任を取りたいから、恐怖を手放さない
ジャケット¥151800・シャツ¥79200・パンツ¥81400/スタジオ ニコルソン 青山(スタジオ ニコルソン) 靴¥85800/カチム
杉咲花
1997年10月2日生まれ、東京都出身。主な出演作に、NHK連続テレビ小説「おちょやん」、ドラマ「杉咲花の撮休」「アンメット ある脳外科医の日記」「海に眠るダイヤモンド」、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』『市子』『52ヘルツのクジラたち』『朽ちないサクラ』など話題作に多数出演。映画『片思い世界』が2025年に公開予定。
撮影/松岡一哲 ヘア&メイク/中野明海 スタイリスト/高橋茉優 モデル/杉咲 花 取材・原文/松山 梢 ※BAILA2025年2・3月合併号掲載