月経前に体調をくずしたり、メンタルが弱まったりするPMS(月経前症候群)。その定義と対処法がわかれば安心できるはず。そんなPMSの基本や症状を軽くする方法などを産婦人科医が解説します。
回答してくださったのは
イーク表参道 婦人科医 高尾美穂先生
東京慈恵会医科大学大学院修了。女性それぞれのライフステージに合った治療法を提案、よりよく年を重ねていけるようさまざまな角度からサポートしている。
はるねクリニック銀座 婦人科医 上田弥生先生
大阪市立大学医学部医学科卒業。デリケートゾーンのアンチエイジング治療、漢方治療、アロマセラピーやハーブにも精通している。
1.PMSの基本
PMSとは
月経前症候群。生理前だけ調子が悪くなり、生理がくるとよくなるもの。症状により日常生活に困難をきたすものをPMSと呼ぶ。症状はさまざまなので、いつも生理前に体調が悪化する=PMSととらえてOK。
PMDDとは
月経前不快気分障害。PMSの症状のうち特に精神的な症状が強く出ることをPMDDと呼びます。攻撃的になりすぎたり、ふさぎ込みすぎたりする人はPMDDかも。
Q そもそもPMSってなんですか?
A 月経前症候群と呼ばれるもので生理前の心身さまざまな不調を指します
なんとなく聞いたことはあるものの、定義がよくわからないPMS。「生理前に出る身体的、精神的な症状のこと。身体的症状には腹痛や頭痛、腰痛、眠気、不眠、めまい、肌荒れ、むくみなど。精神的症状には情緒不安定、イライラ、抑うつなどさまざまな症状があります。症状により、日常生活に困難をきたすとPMSです」(高尾先生)
Q 自分がPMSなのかよくわかりません
A 上記不調があり、生理になると楽になるという場合はPMSと考えられます
「症状のせいでつらく、生理がくると軽減されるならPMSです。また、自覚がない場合もありますね。PMSと気づかないまま生理前にイライラしてしまい、周りの人に指摘されて病院にいらっしゃる方もいます。生理前に怒りっぽさや落ち込みやすさがあればPMSかも」(上田先生)。わけもなくイライラするとき、生理前か考えてみるとよさそう!
Q なぜPMSが発生するのでしょうか?
A 10以上の複合的な要因があるといわれていますが、完全に解明はされていません
「原因については、10個以上の説が唱えられていますが、まだわからないことがたくさんあります。プロゲステロンだけでは説明がつかないことが多く、さまざまな要因が複雑に絡み合って症状が出ていると考えられています」(上田先生)、「生理前からおなかの痛みが出るのは、すでに子宮の収縮がスタートしているから。2日前くらいから痛みなどが始まる場合が多いですね」(高尾先生)
Q 生理後の不調は、PMSや月経困難症とは違うのでしょうか?
A 生理中の過度なストレスの影響や貧血症状の可能性があります
「生理前の不調をPMS、生理中の不調を月経困難症と呼びますので、生理後の不調は区別して考えるべきでしょう。生理中に無理をして動いた負荷が生理後に響いているのかもしれませんね。貧血の可能性もあると思います。貧血には、頭痛や気分の落ち込みイライラなどPMSによく似た症状もあるんですよ」(上田先生)
2.PMSの症状を軽くするには
Q PMSやPMDDの症状ごとに対策を教えてください
A 胸のハリ
「生理前は胸がサイズアップするもの。これはある程度仕方ないので、快適に過ごせるブラジャーを探すことが解決策です。生理前用に締めつけが少なく、ぴったりするブラジャーを買っておくといいですね」(上田先生)
A 吐き気
まずは食生活を正し、よくかんで食べること。生姜は吐き気を軽減する作用があるので、すりおろして生姜湯を作り、香りをかぎながらとってみて。ペパーミントの香りも制吐作用がありますよ」(上田先生)
A イライラ
「紙にひたすら書きなぐって捨てる、枕をなぐるなど、イライラをぶつける自分なりの対処法をいくつか持つといいでしょう。ヨガやランニングで体を動かしたり、カフェに行ったりひたすら寝たりしてリラックスしたり、自分が落ち着ける方法を探して」(上田先生)
A 膨満感
「下腹部が張ってくるのは体の中の水分が増えてくるから。かるく体を動かして、巡りをよくしてみましょう。冷えを感じる方は、腰から足先までを温めるのも効果的です。冷えによって、不調がさらにひどくなることも多いので、対策しましょう」(上田先生)
Q PMS症状を軽くするにはどうしたらいいですか?
A いちばんのおすすめは低用量ピルを服用することです
「ピルを服用するのが最も効果があります!ピルは生理にかかわる女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンが含まれている薬です。毎日服用することで、排卵を抑制します。排卵をストップさせれば“生理前”に当たる期間がなくなり、PMSの症状も軽減またはなくなります」(高尾先生)
処方されるのは低用量ピルと呼ばれるもの。シートの順番どおりに、一日に1回、同じくらいの時間帯に飲む。飲み忘れはNG!
Q ピル以外に、PMSを緩和する方法は?
A セロトニンをつくる栄養素をサプリで摂取したり、ハーブティーなどを活用して
「最近ではセロトニンの関与も注目されているので、セロトニン生合成に必要なトリプトファン、ビタミンB6を摂取するといいですね。トリプトファンは肉や魚、卵、ナッツ、ビタミンB6は肉や魚、レバー、バナナなどからとれます。抑うつ傾向が強く出る方は、セントジョンズワートのハーブティーやサプリメントが有効かも」(上田先生)
ポジティブな気持ちに導くハーブをお茶として取り入れて。セントジョンズワート20g¥649/enherb 12種類のビタミンと6種のミネラルを配合。エレビット¥4167/バイエル薬品(エレビット)
Q どの程度の症状から病院に行くべきでしょうか?
A ちょっとでも悩んでいたら相談だけでいいから受診してみて
「“病院に行くべきかな?”と思うのであれば、相談だけでもいいので来院してみてください。正常か悩むより、はっきりさせたほうが安心ですよね。それに、健康なうちに来院しておくとそのデータが残るので、将来何かあったときにも診察しやすいです」(上田先生)。この程度で病院に行ってもいいの?と悩む必要はないとのこと。
3.ピルの服用について
Q ピルを飲んでいてもやめればすぐに妊娠できますか?
A 飲むのをやめたあと、2カ月で排卵が再開している人が3分の2
「ピルのせいで妊娠しにくくなるということはありません。ピルを服用している人の3分の2が2カ月以内に排卵が再開し、妊娠できる体に戻ります。実は、卵巣にとっては、必要なく排卵が起きているほうが負担。排卵では卵巣を突き破って卵子が放出されているため、卵巣にとっては毎月大ケガをしているようなもの。ピルの服用は卵巣を守り、病気のリスクを軽減することにつながるんです」(高尾先生)
Q ピルを飲むのがなんとなく不安です
A 喫煙と肥満の方以外、ほとんどの女性にリスクはないんですよ
「一日15本以上喫煙する方や肥満の方は血栓症になるリスクが大きいため処方できない場合もあります。しかし、その他の方はほとんどひどい副作用はありません。最も多いマイナートラブルはむくみと不正出血で、全体の15%程度。しかも2カ月程度服用を続けると慣れて収まります。心配するよりトライしてみて!」(高尾先生)
Q ピルを飲むことでいいことってほかに何かありますか?
A 生理周期が整い、生理痛も軽くなります
「避妊効果はもちろん、卵巣を守ることで卵巣系の病気になりにくくなることがメリット。安定して生理がくるようになるため、生理周期がバラバラ、経血の量が多いなどの悩みがある方にもおすすめ。“薬は怖い”という方もいるかもしれませんが、ピルは安全です。できることは薬でコントロールして、楽しく毎日を送ってくださいね」(高尾先生)
4.30代半ば以降の症状
Q PMSは年齢とともにひどくなるのでしょうか?
A 30代半ば以降がピークといわれています
「発症が30代半ば以降の方が多く、“30歳代中期症候群”という別名があるほどで、30代がピークともいえるかもしれません。ただし、この年代では、同じような症状のあるうつ病、甲状腺機能障害なども出てくる方がいるので、診断が重要になってきます。しつこいようですが、気になったら来院です!」(上田先生)
Q 閉経について今からちょっと知っておきたい
A 閉経が訪れるのは平均50歳。新たなステージの始まりです
「ほとんどの方は45歳から55歳までの間に閉経します。パタリとなくなる、徐々に間隔があくなど終わり方は人それぞれ。閉経にネガティブなイメージを持つ方もいますが、“閉経後が花!”という女性もいるんですよ。生理で体調を左右されなくなり、予定も立てやすくなります。妊娠もないので自由恋愛を楽しむ方も。ネクストステージが花開くと考えましょう!」(上田先生)
イラスト/mio.matsumoto 取材・原文/東 美希 構成/菅井麻衣子〈BAILA〉 ※BAILA2020年2月号掲載