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大江麻理子キャスターと学ぶ!認知度1割・経験あり9割の「ナッジ」って何のこと?【働く30代のニュースゼミナール vol.5】

テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第5回目は、読者アンケートで言葉の認知度は約1割しかないものの、9割が経験ありと回答した「ナッジ」について大江さんレクチャーしていただきます。

今月のKeyword【ナッジ】

なっじ▶直訳すると「ひじでかるくつつく」という意味の英語(nudge)。行動経済学において、強制されたりインセンティブが伴ったりしなくても、人々が自発的に望ましい行動を選択するようにそっと後押しして促す工夫や手法を指す。ナッジを提唱した経済学者リチャード・セイラー氏は2017年にノーベル経済学賞を受賞。

大江麻理子キャスター

バイラ読者172人にアンケート

ナッジという言葉を知っていますか?


はい 9%

いいえ 91%

9割以上の読者が「知らない」と回答。一方で「ナッジの手法に興味がある」と答えた人は8割以上。「今まで無意識にナッジされていて気づかなかったので仕組みが知りたい」「知らない間に自分の行動が誰かの意図で決められているようで少し心配」との声も


お店のレジ前などの床に貼ってある足のマークによって、社会的距離を取ることを自然と思い出したという経験はありますか?


はい 87%

いいえ 13%

ナッジという言葉は知らなくても、読者の大半がナッジされた経験がある結果に。同じく約9割が「建物に入ってすぐの矢印の表示によって消毒を行った経験がある」と回答。「自ら行動しているつもりでも、いわれてみると促されていた」との気づきの声が多数

「人々の行動をそっと後押し。ナッジは生活の中にあふれている」

大江麻理子キャスター

今回、大江さんが「きっと皆さんが生活の中でふれているはず」とキーワードに挙げた“ナッジ”は、行動経済学の考え方のひとつ。読者アンケートで言葉の認知度は約1割でしたが、約9割がナッジされた経験ありと回答。


「最近よくお店などで、レジ前の床に一定の間隔を空けて足のマークが描かれていますよね。それを見て、無意識にその上に立ち止まって順番を待った経験はありませんか?実はあれもナッジを使った取り組み。足跡があるとそこに立ち止まりたくなる人間の習性を生かして、前の人と社会的距離を取るよう促しているのです。ほかには建物の入り口近くに設置された消毒液に向かうように足もとに引かれた矢印表示もナッジ。矢印を目で追った先に消毒液があると手を出しシュッとしてしまう。人の考え方のクセや行動パターンを生かした、ひじでかるくつつく程度のちょっとしたきっかけによって人々の行動を変えるのがナッジの特徴です」


新型コロナの感染拡大に伴い、新しい生活様式に行動を変容するためナッジが注目されていると大江さん。


「感染対策の行動が急速に浸透した背景には、なるべく人々に無理のないかたちで行動を変えてもらうために、行政や企業がナッジを活用したことがあるのではないかと思います。たとえば、手洗い場によく書かれている『あなたの手洗いがみんなの命を救います』という言葉。『あなたの命』ではなく『みんなの命』とすることで、人間の社会性に訴えかけ、『これは社会を守る大切な行為なのだ』と手洗いの重要性をより強く認識してもらうためのナッジなのです」


世界の公共政策でもナッジが活躍。


「ナッジのメリットは、強制や金銭的なインセンティブに頼らず、ちょっとした工夫で人々を望ましい選択へ導く点。財政の厳しい国が多いなか、コスト削減と満足度の高い公共サービスを両立させたい思いからナッジが選ばれているのだと思います」

「ときに不合理な人間らしさに基づいているから無理がない」

ナッジを生んだ行動経済学は比較的新しく、いつも合理的に行動するとは限らない人間の性質を前提とします。大江さんだってそれは同じ。


「自分を振り返ると、不合理の塊です(笑)。たとえば、『WBS』のオンエア後におなかがすいて、夜遅いからスープにしたほうがいいと頭では思っているのについお煎餅を一袋も食べてしまったり……。行動経済学より前の経済学は、人間は常に合理的な判断や行動をするという前提であることが多いですが、実際はそうじゃないこともありますよね。面白いなと思ったのが、ナッジを提唱した経済学者のセイラーさんは、『にんげんだもの』で知られる相田みつをさんの大ファンなんだそうです。まさにナッジは人間らしさに基づいた考え方なので無理がないんですね」


読者からは「気づかないうちに行動を誘導されるなんて心配」との声も。「確かに知らないうちに操られていると思うと怖いかもしれません。だからこそナッジの考え方を知って、すべてのものに対して『どういう意図が含まれているのかな?』と観察をしていくと、その不安は薄れると思います。ナッジは決して強制することなくひじでかるくつつく程度なので、最終的に意思決定するのは自分自身。そこで『誰かにこっちの方向に背中を押されたかもしれないな』と自分の決定を分析できるかどうか。私たちは日ごろの選択を自分一人で決めたと思いがちですが、実はさまざまな情報に左右されているんですよね。いろいろな人の思惑が世の中にはあふれていると知ることが大事なのだと思います」

大江麻理子(おおえ まりこ)

大江麻理子(おおえ まりこ)


テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。

撮影/フルフォード海 取材・原文/佐久間知子 構成/松井友里〈BAILA〉 ※BAILA2020年10月号掲載

【BAILA 10月号はこちらから!】

大江麻理子キャスターと学ぶ!認知度1割・経験あり9割の「ナッジ」って何のこと?【働く30代のニュースゼミナール vol.5】_3
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