テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第26回目は「Web3」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【Web3】
うぇぶすりー▶Web1.0、Web2.0に続く次世代のネットワークのあり方として提唱された、データ分散型のインターネットのこと。「web3.0」と表記されることもある。大手プラットフォーム企業が個人情報を含むデータの大半を管理する現状が、ネットワーク上でデータを分散管理する形態に変わると期待されている。
関連ニュースTopic
2014年4月
イーサリアムのギャビン・ウッド氏が「Web3」を提唱
暗号資産イーサリアムの共同創業者ギャビン・ウッド氏がブログの投稿にて「Web3」を初めて提唱。その後、Web3の実現を目指す財団「Web3 Foundation」を設立した
2021年10月
米フェイスブックが社名を「メタ」に変更したと発表
IT大手フェイスブックは、SNSの運営に加えてメタバースの開発を強化するため、正式社名を「メタ・プラットフォームズ」とし、対外的に「メタ」を使用すると発表
2022年5月
岸田首相が英国での講演でWeb3の推進について言及
ロンドンの金融街シティでの講演のなかで、「web3.0の推進のための環境整備を含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現する」という考えを示した
バイラ読者126人にアンケート
Q 「Web3」という言葉の意味を知っていますか?
認知度はかなり低め。約4分の3が「聞いたことはない」と回答。言葉の意味を説明した上で「Web3に興味がわくか」との質問には「はい」が半数弱。「わからないので知りたい」声が多数
Oeʼs eyes
私も最近聞くようになりました。表記方法や読み方もまだ固定されていないくらい、使われ始めてからそんなに時間がたっていない言葉です。まだ「Web3」の概念が浸透しておらず、実際のサービスとして普及し始めた段階なので、これくらいの認知度になるのかなという感じがします
Q 以下の企業のサービスや製品をどのくらい利用しますか?
【Google】
毎日利用 64%
週に数回利用 20%
たまに利用 10%
ほとんど利用しない 6%
【Apple】
毎日利用 54%
週に数回利用 10%
たまに利用 9%
ほとんど利用しない 27%
【Meta(旧Facebook)】
毎日利用 52%
週に数回利用 18%
たまに利用 7%
ほとんど利用しない 23%
【Amazon】
毎日利用 5%
週に数回利用 20%
たまに利用 59%
ほとんど利用しない 16%
半数以上の人が多くのサービスを「毎日利用する」と回答。やはり日々プラットフォーマーのサービスを利用している人が多いよう。「日常生活に欠かせない」「4社の検索や購買の履歴が自分の興味関心や経済活動のほぼすべて」との声も
Oeʼs eyes
Web3は、Web1.0、Web2.0に続く新しいウェブのあり方を表す言葉です。上記の企業のSNSに代表されるサービスはWeb2.0のカテゴリーとされていて、プラットフォーマーに富や権力が集中しすぎていることが問題視されています。皆さんの利用頻度がその現状の裏づけでもあると思います
Q メタバースの世界に参加してみたいですか?
約4分の1が「参加してみたい」と回答。「はい」と答えた人からは「実際に試して体験して自分に合うのか確認してみたい」、「いいえ」と答えた人からは「扱いが難しそう」「セキュリティが心配」との声が
Oeʼs eyes
Web3のサービスを使う舞台のひとつになるのがメタバースだと思います。私はメタバースを体験した際、その世界観は好きだと思いましたが、ヘッドマウントディスプレイを装着しているうちにかなりのVR酔いに。技術面の改善や今後への期待を含めて、今を表している数字だなと感じました
Q 巨大IT企業による個人情報や利用データの収集・利用・管理に不安を感じたことがありますか?
不安を感じる人が6割。「欲しいと思っていた商品の広告が検索した覚えがないのに出てきて驚いた」「グーグルやメタのアカウント情報で利用できるサービスが多く、すべてがひもづけられていそう」との声も
Oeʼs eyes
プラットフォーマーにとって利用者の個人情報は、いわば富の源泉。最近は、個人情報を「トラッキング(追跡)しないように要求する」「許可する」の選択ができるようにはなっていますが、無料で利用する代わりに個人情報を提供していることやその利用方法に不安を感じる方も多いようです
「プラットフォーマーに富と力が集中せず、みんなで分散管理するウェブの世界へ」
「『Web3』は、最近インターネットのなかでかなりよく聞かれるようになっている言葉です。書店でも関連本が並び、そろそろ知っておいてもよいのではと選びました。ただ、私も勉強中ですので、今回は専門用語をあまり使わず、皆さんと一緒にWeb3の概念について学びたいと思います」と大江さん。
Web3の「3」とは何ですか。
「検索サイトなどのコンテンツをブラウザーで閲覧するのがメインだった初期のインターネットがWeb1.0。SNSに代表される双方向型サービスが普及した現状がWeb2.0。それに続くのがWeb3といわれています」
Web3になると何が変わるのですか。
「まず現状のWeb2.0からお話しすると、今ウェブの世界では、グーグル、アップル、メタ、アマゾンなどの巨大プラットフォーマーといわれるインターネットサービス提供会社がどんどん力をつけてきています。日常的にSNSを使う人がアンケートで多かったですが、無料で利用できて便利だなと思っている人もいると思います。ただその一方で、私たちは利用することで個人情報をプラットフォーマーに送っていて、その個人情報を広告の最適化などに利用することで、プラットフォーマーは効率的に利益を得ているんですね」
「しかも、個人情報といっても、氏名や年齢などの基本情報だけでなく、趣味やどんなサイトを閲覧したかなどの情報も集めているので、プライバシーをまるごとプラットフォーマーに渡しているような状況です。そして渡したあと個人情報がどう使われているのか、私たちにはよくわかりません。また、もうひとつの象徴的な出来事として、ツイッターが去年の1月、当時まだアメリカ大統領だったトランプ氏の個人アカウントを永久凍結したことが挙げられます。プラットフォーマーがその一存で一国の首脳のアカウントを排除できるほどの大きな力を持っていることがわかる事例だったと思います」
「情報が集まるところに権力とお金も集中するのが現状のウェブの世界。そのようななかで『個人情報は誰のものか?』といった疑問や、プラットフォーマーが『持ちすぎる』ことへの不満が生まれてきました。そこで生まれたのが、『情報・富・権力が一カ所に集中する中央集権型でない、みんなで分散して管理するウェブの仕組みを作ろう』という考え方です。それがまさにWeb3の概念の根本となっています」
「それを可能にするのが、ブロックチェーン(分散型台帳技術)です。これまでプラットフォーマーが情報管理を一元化していたのに対し、ブロックチェーンを使えば、参加する人たちがそれぞれで自らの情報を所有し、管理していきます。そうしてできた『非中央集権』で情報の改ざんなど不正にも強いシステムが基盤となるウェブの世界、それがWeb3なのです。ただ、まだ進化している途中ですので、ルールが定まっていないなどの問題があります。これからトライ&エラーを繰り返しながらルールが整備されていくことで、じわじわとサービスなどが増えていくことになると思います」
「Web3という言葉を知らなくても気がついたら、新しい世界に移行している」
Web3のサービスを一般の人が使う舞台のひとつが、インターネット上の仮想空間であるメタバースだと大江さん。
「たとえばゲーム『あつまれどうぶつの森』とメタバースを比較するとWeb3の世界がわかりやすくなるかもしれません。『あつまれどうぶつの森』は任天堂がすべてを管理し提供した世界のなかで参加者が遊びます。一方メタバースでは、参加者が世界をつくることができるんです。参加者の誰かがつくった世界に遊びに行き、そこでアバターに着せる服を別の参加者が作った店で買うことができる。メタバースの世界では参加者も何かを提供する側になれるんです」
読者からは、「ウェブの世界の進化に疎く、流れについていけるか不安」との声も。「Web3という言葉自体は知らなくていいと思うんです。Web2.0という言葉を知らなかった方がいるかもしれませんが、そういった方でもWeb2.0の実際のサービスとしてのSNSはさらっと使いこなしているように、気がついたら新しい世界移行してそのサービスを使うようになっていると思うんですよね。すでにアメリカでは今、Web3関連のベンチャー企業に皆がこぞって投資する動きが一段落したぐらいのフェーズなんです。日本でも政府・与党は、Web3の世界への移行に乗り遅れてはいけないという危機感を持っているようです。まずはインターネットの世界が新たな段階に入ろうとしていることを知っておくといいと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/木村 敦 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年8月号掲載