1. BAILA TOP
  2. WORK
  3. 仕事スキル・雑学

なぜこんなに電力需給がひっ迫している? 大江麻理子さんが解説!【働く30代のニュースゼミナール vol.28】

テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第28回目は「電力不足」について大江さんと一緒に深堀りします。

今月のKeyword【電力不足】

でんりょくぶそく▶今年3月に東北地方で起きた地震による火力発電所の停止や、脱炭素の流れに伴う火力発電所の老朽化などにより、電力供給力が減少。2022年度の夏季と冬季、特に2023年の1月・2月に東京から九州まで幅広い範囲で電力の安定供給に必要な予備率3%を確保できず厳しい見通しとされている。

今月のKeyword【電力不足】

関連ニュースTopic

2002年3月

電力需給ひっ迫警報が東京・東北エリアで初めて発令
16日に東北で震度6強を観測した地震の影響で、複数の火力発電所が一時停止。その後、政府は電力需給がひっ迫するおそれがあるとして警報を初めて発令した
2022年6月

政府が電力需給に関する検討会合を開催。節電を要請
7日、電力需給のひっ迫に備えるための会合を開き、今年度に取り組む対策を取りまとめた。7~9月にかけて家庭や企業へ、7年ぶりに全国規模で節電を要請
2022年6月

電力需給ひっ迫注意報が東京エリアで継続して発令
猛暑により、東京エリアの電力の最大需要に対する供給の余力を示す予備率が5%を下回る見通しとなり、政府は26~30日に注意報を発令して節電を呼びかけた

バイラ読者106人にアンケート

Q 電力不足のニュースをどのくらい不安に感じますか?

非常に不安 27%

少し不安 57%

あまり不安はない 16%
電力需給ひっ迫注意報が継続して出された直後にアンケートを実施したこともあり、「非常に不安・少し不安」を合わせると8割以上に。「電気は生活に欠かせないから不安」「勤め先の電子化が進んでいて通信機器への影響が心配」といった声も

Oeʼs eyes

6月の終わりから注意報が出たことで「この先どうなるんだろう」と心配になっているときにアンケートを取った影響もあると思います。夏だけでなく冬はもっと大変という見通しのなか、電力について不安を感じながらの一年になるのかもしれないと感じている人が多いということが数字に表れていますね

Q 「電力需給ひっ迫注意報・警報」という言葉を知っていますか?

Q 「電力需給ひっ迫注意報・警報」という言葉を知っていますか?

知っている人が約8割。聞いたことがある人を含めると98%に。電力需要に対する供給の余力を示す予備率が翌日5%を下回る見通しの場合「注意報」、翌日3%を下回る見通しだと「警報」が発令される

Oeʼs eyes

やはり生活に直結することもあって皆さん関心が高いですね。3月に電力需給ひっ迫警報が初めて発令されました。より早めに節電の必要性を呼びかけることで企業も個人も対応がしやすく心の準備もできるため、警報よりも一段階早く知らせる電力需給ひっ迫注意報が新たに設けられました

Q 家庭で節電のための取り組みを行っていますか?

Q 家庭で節電のための取り組みを行っていますか?

8割以上が「はい」と回答。具体的には「エアコンの設定温度を高くして、サーキュレーターで室温を調整」「こまめに照明を消す」「使わない電化製品のコンセントを抜いて待機電力を減らす」などの声が

Oeʼs eyes

すでに省エネを意識して節電をしている方が大半ですね。それは言い換えれば家庭では節電をする余地があまりないということでもあると思います。節電要請による家庭での消費減がどこまで期待できるのか、ほかにどこを減らせるのか、どう電力供給を増やすか、政府は課題を抱え大変な状況だと思います

Q 今夏に続き、冬も電力需給が厳しくなりそうだと言われていることを知っていますか?

Q 今夏に続き、冬も電力需給が厳しくなりそうだと言われていることを知っていますか?

認知度は約半数。慢性的な電力不足に心配の声が多く、「オール電化住宅で子どももいるので冬にお湯が出なくなると困る」「病院など主要機関の電気は止まらないように対策を強化してほしい」などの声も

Oeʼs eyes

皆さんのニュース感度の高さをよく表していますね。6月の検討会合では、次の冬も電力需給バランスがより厳しい状況であるとの見通しが公表されました。夏の暑いなかでの節電もきついですが、凍えそうな冬の節電も命にかかわりますので、家庭での節電は、体調第一。無理のない範囲にしましょう

「日本の電力需給は今、近年で最もひっ迫。この夏に続いて、冬も厳しい見通し」

「アンケートでも関心が高かったですが、今年の一大テーマは電力需給がひっ迫していることだと思います。冬にも不足しそうだと予想されているので、このテーマを選びました」と大江さん。そもそも、なぜそんなに電力需給がひっ迫しているのですか。

「まず、今年3月に東北地方で起こった地震の影響で複数の火力発電所が停止したことが挙げられます。6月時点で、まだ稼働していないところがあり、今最も頼りにしている火力発電の供給が不安定となってしまったことが電力の需給ひっ迫につながりました。日本の電源構成は、東日本大震災以降、原子力発電の比率が下がり、火力発電の比率がいちばん高くなっています。その一方で、脱炭素の流れのなかで、二酸化炭素を排出する火力発電になかなか投資ができず、全国的に火力発電所の老朽化が進んでいるという問題があります」

脱炭素の追い風を受けて、再生可能エネルギーの比率に変化はありますか。

「特に太陽光発電の比率が増えています。ただ太陽光発電には日が傾いてくると急速に発電量が落ちてしまう課題があるんです。6月に電力需給ひっ迫注意報が出された際には、特に16時前後に電力需給が厳しくなるという通達がありました。再生可能エネルギーを使った発電が増えてきたことによる夕方以降の供給の不安定さも、需給ひっ迫の要因のひとつになっています」

国際情勢による火力発電の燃料調達のリスクも。

「ロシアのウクライナ侵攻によって、エネルギーを取り巻く情勢が大きく変わってきています。ヨーロッパでは今エネルギー需給のひっ迫が大問題になっていますが、日本でも今後、燃料を安定調達できるか不透明感が高まってきています。ロシアは、ロシア産天然ガスの供給をめぐり日本に揺さぶりをかけていて、予断を許しません」

夏に続き冬も電力が不足するのですか。

「6月に開かれた電力需給に関する検討会合の資料『2022年度の電力需給に関する総合対策』によると、今年度の冬の電力需給は、厳しい寒さを想定した場合、東京から九州まで広い範囲で安定供給に必要な予備率3%を下回ると見られています。特に東京エリアでは1月・2月は予備率がマイナスとなる見通しで、2012年度以降で最も厳しい状況になりそうです。実は東日本大震災後は、省エネ技術の普及や国民の省エネ意識の高まりから家庭のエネルギー消費は低下傾向にありました。ところがコロナ禍の行動様式の変化による影響もあるのか、この2年間は想定最大電力需要を上回るケースが増加。さらに、先述のエネルギー調達リスクもあり、これまで以上の電力需給ひっ迫に直面するおそれがあるのです」

7月の参議院選後、岸田首相は原子力発電所を今冬に最大で9基稼働、火力発電の供給能力も10基増やすと表明した。

「岸田首相は、安全が確認された原発については再稼働を進めていくと以前から明言しています。電力需給のひっ迫が続く状況を打開し、生活や経済を安定させるには再稼働が必要だと考えているのだと思います」

「ニュースや一次情報を読み解き、時流の変化の兆しをとらえられると安心感につながる」大江さん

「電力は、社会を動かすインフラ。企業や家庭でできることをひとつでも積み重ねる」

読者から「電力不足の一方で、電力を前提としたDXが推進されているのは大丈夫なのでしょうか?」という質問が。

「その不安はおっしゃるとおりですね。だからこそ、BCP(事業継続計画)の策定が大事になってきます。この連載でも過去に取り上げたワードですが、BCPとは、企業が災害などの緊急時に事業資産の損害を最小限にとどめて、事業を継続するための方法を取り決めておく計画のこと。各企業は、節電時、または万が一停電になったときの対策を練っておくべきだと思います」

多くの読者がすでに家庭で節電に取り組んでいて、「これ以上何をすれば?」との声も。

「確かにアンケートにすでに様々な節電に取り組んでいるという声がありましたね。冷暖房などの無理な節電は命に関わります。なくても困らない照明を消すなど無理のない範囲で可能な節電をみんなですることで、ちりも積もれば山となって需要を抑えることができると思います。

また、最近は発電設備のある民間企業の工場から電力を融通してもらったり、電力不足の際、電力使用を抑制する代わりに、電気料金を割り引きする契約を結んだりと、企業の取り組みの進化により支えられる部分もあります。もしも停電が起こってしまうと、社会が止まってしまい、生命に直結する大問題になります。どうにか停電だけは避けたい。その思いはみんな共通しているでしょうから、家庭や企業でできることをひとつでも実践していきましょう」

大江麻理子

大江麻理子


おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。

撮影/芹澤信次 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年10月号掲載

Feature特集

Feature特集

Rankingランキング

  • ALL
  • FASHION
  • BEAUTY
  • LIFESTYLE
  • EDITOR'S PICK

当サイトでは当社の提携先等がお客様のニーズ等について調査・分析したり、お客様にお勧めの広告を表示する目的で Cookieを利用する場合があります。詳しくはこちら