大森立嗣監督の最新作、映画『グッバイ・クルエル・ワールド』で各世代の日本を代表する俳優たちが顔をそろえた。年を取ることがネガティブにとらえられてしまうこともある世の中で、成熟した“かっこいい大人”を体現する3人に、互いへの、そして映画への思いを語ってもらった。
Q.お互いのかっこいいと思うところは?
「工くんは、役者としてだけでなく、作り手としても、常に業界全体のことを考えている。その視点の違いに教えられることが多いです」──西島
「アカデミー授賞式の西島さんの姿ですよね。勝手に日本人として誇らしい気持ちになれました」──斎藤
「西島くんは、作品にも役柄にも深い考えを持っている人。共演するとあらゆる面で刺激を受けます」──三浦
「友和さんのシーンには、その演技を見たくて人が集まる。生々しい存在感を作品にもたらしてくれる方です」──西島
Talk about 『Goodbye Cruel World』
かっこいい大人が、居場所のないダメなオトナを演じる痛快作
3人が共演する映画『グッバイ・クルエル・ワールド』は、ヤクザから大金を奪うことに成功した強盗団の行く末を、ポップかつエキサイティングに描いたクライムエンターテインメント。大森監督が、“各世代の日本を代表するかっこいい俳優を集めた”というのも納得の、豪華キャストがそろい踏みした。
斎藤 強盗団は、僕が演じたヤミ金業者・萩原も含め、全員が全員、人生手詰まり寸前という状態なんですよね。
西島 僕の役の安西も元ヤクザという設定で。悪い道から抜けようとして抜けられないキャラクターというのは、物語の中で普遍的に描かれてきましたが、少し前ならそういう人でも生きる場所を見つけられた。でも、今は本当にどうしようもない、生きられない。そこが非常に現代的だと感じましたね。
斎藤 今のお話にあった“どうしようもない状況”というのも、急にやってきたというより、じんわり身動きが取れなくなるという感じがして。確実にあるんだけど、人目に触れない方の世界を描いているのがこの映画。感情移入しづらい登場人物ばかりですが、合わせ鏡のように自分ごととして感じられる瞬間があるんじゃないかと思います。
三浦 僕が演じた浜田というのは、金持ちたちの転落を画策するんだけど、自分では手を下さない、ずるい男。強盗団もそうだし、若い男の子たちを集めて何かやらせてもいる。相当な策略家だとは思うんだけど、人望はないんだよな(笑)。ないのに集まってくる人がいるというのが興味深かったね。
斎藤 僕は、三浦さんや西島さんをはじめ、偉大な先輩方と共演できるということで、お話をいただいたとき震えたんですが、その三浦さんとのファーストコンタクトが「黙れジジイ」で(笑)。
三浦 あのとき、声小さかったよなぁ(笑)。
斎藤 静と動でいう静の存在感と言いますか、動かないことで広がる世界というのを目の当たりにしました。
三浦 でも、覆面つけるのが面倒だってぼやいてばっかりいたのは俺だけ。みんな淡々とやるんだよ(笑)。
西島 そんなこと言って(笑)。僕は浜田との立ちションシーンがすごく好きでした。台本上はあんなに跳ねてるシーンじゃないんですよ! 何もかも行き詰まってるなかで、あの瞬間だけは生き生きしていた、そういう演技を僕に投げてくださった。普段の友和さんはきちんとしていらっしゃるじゃないですか。でもこの現場では本当にグダグダで(笑)。そのギャップに驚かされました。
三浦 この作品は群像劇で、強盗団もその後の撮影はほとんどバラバラ。だから試写が新鮮でしたね。残虐なシー
ンも、あそこまでやると笑っちゃう。
斎藤 予算的な意味じゃない、景気のよさがありましたよね。銃撃や火事のシーンでは、引きがあって花火がドンと打ち上がる。それがポップな印象にもつながっているのかなと思います。タランティーノ風と言われがちかもしれませんが、いちばんの違いはベースにあるビターな世界観。描かれている世界が薄暗いからこそ、派手なところが際立つ。
西島 今、自分がこの世界で安心して生きられると感じている人って少ないんじゃないかなと思っていて。僕自身もそうなんですが、誰もが常に“何かあったら終わり”という不安にさらされている。だから、工くんが言ったような、ちょっとずつ追い込まれていく状況に、多くの人が共感できるんじゃないでしょうか。観客の一人としては、若い人たちにちょっとだけ何か希望を託しているように感じましたね。
三浦 “おっさんなんて知らんわ、我々好きに生きていきます”っていうね。
斎藤 若者二人の描かれ方や、最後の銃声など、目を凝らすと見えてくるものがきっとあると思います。
映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
©2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会
出演/西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔/大森南朋/三浦友和
監督/大森立嗣 脚本/高田亮
全国ロードショー
お互い素性を明かさない一夜限りの強盗団が、ヤクザから大金を奪うことに成功。それぞれの生活に戻るものの、徐々に追い詰められていく。ソウル&ファンクなリズムが彩る日本型クライムエンターテインメントが誕生!
三浦友和
Tomokazu Miura●1952年1月28日生まれ、山梨県出身。1972年「シークレット部隊」でデビュー後、数多の作品で活躍。2009年の映画『沈まぬ太陽』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を、2011年には映画『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』で優秀主演男優賞を受賞したほか、『葛城事件』『アウトレイジ』『64』「流星の絆」など、映画・ドラマ、主演・助演問わず多彩な役柄を演じ、鮮烈な印象を残す。2022年には、映画『線は、僕を描く』『ケイコ〜目を澄ませて〜』の公開が控えている。
西島秀俊
Hidetoshi Nishijima●1971年3月29日生まれ、東京都出身。1994年『居酒屋ゆうれい』で映画初出演。北野武監督『Dolls』、アミール・ナデリ監督『CUT』、ドラマ&劇場版「MOZU」シリーズなど数々の作品に出演。2021年に、主演を務めた濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』が、第94回アカデミー賞で日本映画として史上初となる作品賞を含む4部門ノミネートという快挙を達成、国際長編映画賞を受賞した。アマゾンプライム世界独占配信作品「仮面ライダー BLACK SUN」が公開予定。
斎藤 工
Takumi Saitoh●1981年8月22日生まれ、東京都出身。2001年に俳優デビュー。Netflixオリジナルシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」や映画『シン・ウルトラマン』など話題作に出演。映画監督としても活躍し、「Asian Academy Creative Awards 2020」で最優秀監督賞を日本人として初受賞。9月2日公開の短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」第4弾『女優iの憂鬱 COMPLY+-ANCE』や、2023年公開予定の映画『スイート・マイホーム』(主演:窪田正孝)では、監督を務める。
[斎藤 さん]コート¥79200・シャツ¥22000・パンツ¥36300/ユハ
撮影/五十嵐隆弘〈SIGNO〉 ヘア&メイク/亀田 雅(西島さん)、くどうあき(斎藤さん)、及川久美〈六本木美容室〉(三浦さん) スタイリスト/カワサキタカフミ(西島さん)、三田真一〈KiKi inc.〉(斎藤さん)、藤井享子〈banana〉(三浦さん) ※BAILAhomme vol.2掲載
BAILAhommeは売り切れ次第終了!!
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