“ファッションを愛する、働く女性”であるスタイリスト佐藤佳菜子さん&エディター東原妙子さん。二人が語るのは「最高の組み合わせ」のありがたさと必要性、その見つけ方と育て方。毎日のファッションに自分らしさをプラスするためのヒントを学ぼう。
着回し力は大切だけどそれだけではつまらない
東原 私は昔から「この服は今季はこれと合わせよう」っていうセットを何個か作って、それをあまりくずさず着ることが多いかも。インスタライブとかをやると、フォロワーさんからよく「そのアイテムは着回しがききますか?」って聞かれるんだけど……。着回し力はもちろん必要だとは思うけど、全部のアイテムをそれで選ぶとすごく無難なコーディネートになっちゃうっていうか。
佐藤 わかる。着回しテーマのアイテムを選ぶとき、30日間の着回しだとしたら、コーディネートを4つくらい考えられればそのアイテムを採用するんだけど、そうすると無難なものしか選べないこともある。4通りに合わせようと思うとちょっとした遊びも気になってきちゃうの。ここのディテールが余計とか、袖はパフよりもまっすぐなほうがいいとか。
印象を決めるのはきっと“一つ”ではなく“二つ”
東原 私たち普通の人は無難になると老けて見える気がするし、どこかに“着映える”ポイントがないと。「アンクレイヴ」を立ち上げるとき、ベーシックな服のブランドはもう世の中にいくらでもあるから、「“着れば必ず今年っぽい組み合わせ”が見つかるブランドにしたい」っていう話をして。というのも、私自身もすごく迷っちゃうから。いわゆるジャケットとパンツのセットアップだけじゃなくて、“これだけ着とけば大丈夫”っていうバランスで常にセットになってたらすごく楽だなと思って。
佐藤 楽だよね。私は、違うブランドでもいいから、同じ色の服を勝手にセットにしてるの。コートとニットとか、ニットとパンツとか、パンツとソックスとか。まったく同じ色である必要もなくて、似てると思ったら買っておく。それがあると、もう朝迷わない。たとえば冬になるとよく「ソックスやタイツをどう合わせていいかわかりません」って聞かれるんだけど、絶対「ボトムと同じ色でつなげればいい」って答えるの。そうすればあとは、何色の靴を履いてもいいでしょう?
東原 ワントーンは確かに簡単に着映えられるよね。ルーズにもならないし、きちんと見えるから手っ取り早い(笑)。私たち二人とも選ぶものはベーシックだけど、それを“今年っぽい”とかちょっと進化して見せるにはバランスが大事なんだと思う。一点だけ流行りのデザインとか色を着ても、素敵に見えるかどうかは“二つの組み合わせのバランス”で決まってくるのかなって。
佐藤 そう。毎朝両方を選ぶのって意外と難しい。だから“セルフセットアップ”を作っておくといい。
東原 ね。一枚だけ買って着こなしに悩んだり、着回しを考えすぎて無難になったり、せっかくおしゃれしたくて服を買うのにどっちももったいないよね。セットを作ってしまえば、日々そっちのほうが絶対楽。どんな組み合わせがいいかはこのあとのページを読んでもらうとしてね(笑)。
コンパクトなシルエットとワントーンが愛すべき“最高”
ニット(スローン)・パンツ(アンクレイヴ)・バッグ(ネクエ)・靴(ヒューン)/佐藤さん私物
体をきれいに見せてくれる。その組み合わせは絶対ある
佐藤 体型的に「このアイテムとこのアイテムが絶対私をきれいに見せる」っていうのもあるよね。それは女の人にとってはとても大切なこと。腰位置の低い人が股上の浅いパンツをはいても決して脚は長く見えないわけで。これは絶対私の脚が長く見えるとか、腕が細く見えるとか、トレンドがどうであろうとそういう服って長く残っていく気がする。結局自分の服は自分で決めるんだから、自分の体型をいちばんきれいに見せるセットを持っていたら最高だよね。
東原 私は上半身のほうが大きくてお尻がないから、上がタイトだと体のラインが出すぎてあまり素敵に見えないんだよね。背は低いほうではないから、ビッグシルエットのアウターやトップスをぶかっと着て中はタイトにするっていうバランスが好きだし、自分には合ってると思う。
佐藤 私はいつもハイウエストパンツと、ぴたぴたすぎもせずゆるゆるすぎもしないニット。こういう組み合わせは色違いでめちゃくちゃたくさん持ってる(笑)。ちっちゃいからオーバーサイズで着ると布が多すぎてバランスがとりづらくて。コンパクトななかでどこかメリハリや締まりがあるバランスがいい。
東原 こればっかりは私たちが個別にお伺いして見立てるわけにもいかないから(笑)、自分で着てみて見つけるしかない。
佐藤 今は骨格診断とかも流行ってるから、そういうものを指針にするのもいいかもね。
東原 失敗もして。
佐藤 経験値を上げてね。
ビッグ&リーンなバランスが簡単に着映えられて“最高”
カーディガン・ワンピース(ともにアンクレイヴ)・バッグ(ボッテガ ヴェネタ)・靴(メゾン マルジェラ)/東原さん私物
繰り返す組み合わせが自分らしさにつながる
佐藤 たとえば2ウェイとか3ウェイとか“一枚で何通りにも着られる服”ってあるけど、ひとつとして完璧なシルエットがないと思うの。あっちにもこっちにも使えるようになってるけど“完璧なワンウェイ”がない。どこかを妥協していちばん決まるスタイルができないなんて本末転倒じゃない? だから欲張ってる場合じゃなくて、いちばん最初に、いちばん簡単に素敵に見えるものを見つけることが大切だと思う。
東原 そんなにいろんな格好する必要もなくない? 逆にそのほうが「この人どういう人なんだろう」って印象に残らない気がする。その組み合わせを着ていることが多いから“その人っぽい”ってなるわけで、それが自分のスタイルになってくるよね。だから同じ組み合わせを、一生着続けたっていいと思う(笑)。
佐藤 毎シーズン少しずつ更新しながらね。たとえばスカートの丈にしても、今年はすごく短くて次の年にはこんなに長くなるとかっていう大きな差はないじゃない。ちょこちょこちょこちょこ、10㎝くらいの幅を行き来する。大々的に変わることはないんだけど、その“微差”に気づかないで着ているとすごく古い人に見えてしまうし。最高の組み合わせを見つけたら、それは大切に更新していかないといけないと思う。
東原 じゃあ毎シーズンBAILAを読んでねってことか(笑)。
佐藤 そうだね(笑)。
「上半身がゆるっとしている分、斜めがけのミニバッグや手もとのアクセサリーでメリハリをつけます」(東原さん)
「エクリュや白の小物が好き。気がつけば全身靴までワントーンだった、なんてこともよくあります(笑)」(佐藤さん)
スタイリスト
佐藤佳菜子さん
Kanako Sato●ベーシックな色やアイテムを、甘さや今っぽさの絶妙なスパイスで素敵に見せるコーディネートが人気。『BAILA』など女性誌のスタイリングのほか人気ブランドとのコラボも多数。
エディター
東原妙子さん
Taeko Higashihara●銀行勤務を経てファッションエディターに。女性ファッション誌を中心に広告やカタログを手がけるほか、アパレルブランド「アンクレイヴ」のクリエイティブディレクターを務める。
撮影/曽根将樹〈PEACE MONKEY〉 ※BAILA2021年11月号掲載