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俳優も清元も! 歌舞伎界のダブルヘッダー、尾上右近さんに惚れてみない?

「尾上右近」(おのえうこん)といえば、昨年スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』で、ケガをした主演の市川猿之助(いちかわえんのすけ)さんの代役として、見事ルフィ役を勤めるなど、人気急上昇の花形役者。その彼が11月の歌舞伎座百三十年「吉例顔見世大歌舞伎」で、役者と清元、二つの顔を披露することになりました!
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「ん? どういうこと!?」って感じですが、じつはもともと彼が生まれたのは、歌舞伎役者の家ではなく、歌舞伎の伴奏などを勤める音楽「清元」の宗家。本来だったら舞台で唄ったり、三味線を弾いていたはずでしたが、子どもの頃に歌舞伎役者に憧れて、この世界へ。七代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)さんのもとで、ずっと修行を積んできました。
その一方、今年1月には、父親の名称である「清元延寿太夫」の前名「清元栄寿太夫」(きよもとえいじゅだゆう)を七代目として襲名。役者と清元、2足の草鞋をはくことに。そしてこの11月、ひとつの興行の中で、役者と清元の両方で舞台に出演という大きな夢がかなうことになったのです。
清元としては、昼の部『十六夜清心(いざよいせいしん)』に出演。役者としては、昼の部『お江戸みやげ』と、夜の部『隅田川続俤』(すみだがわ ごにちのおもかげ)法界坊(ほうかいぼう)に出演。パワフルで熱量高めな右近さんに、舞台への意気込みを聞きました!
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11月の歌舞伎座で、役者と清元、その二刀流に初チャレンジする右近さん。清元としては、これが初お目見得となります。おめでとうございます!
「『役者と清元、その両方で舞台に立てる日を目指して頑張ります』と言ってきましたけれど、こんなに早く、しかも歌舞伎座で実現するとは思っていませんでした」と喜びがあふれます。

「そもそも最初は、僕の父・清元延寿太夫(きよもとえんじゅだゆう)が『十六夜清心(いざよいせいしん)』で出演することになっていたんです。この演目は、幕開きに出演者や演奏者の名前を読み上げる“読み上げ”というのがある珍しい演目で、僕の清元の初舞台としては、願わしい演目ではないかと。それで父が僕の師匠でもある(尾上)菊五郎のおじさんに『何日か、ワキに並ばせていただきたい』とお願いに上がったところ、『せっかくだからひと月やったほうがいいんじゃないの?』と仰ってくださったんです。ひと月通して出られるというのは特別なことで、おじさんには感謝の言葉しかありません」。

『十六夜清心』は、僧侶の清心(せいしん)と遊女の十六夜(いざよい)の心中事件を描いた物語。清心を演じるのは、師匠の尾上菊五郎さんです。
「歌舞伎の興行に清元として出させていただくならば、初舞台は、菊五郎のおじさんの舞台でと思っていたので夢がかないました。さらに僕は、菊五郎のおじさんが演じる清心の心情を唄うことになっています。ずっとそばで修行してきた菊五郎のおじさんの内面を清元として表現させていただけることは最大の喜び。台詞と唄の掛け合いみたいなところが多い演目なので本当に楽しみです」。

夢がかなってうれしいですか? それともプレッシャー?
「もうスキップです(笑)。もちろんやることもたくさんあってたいへんですが、気分はわくわく。『11月、早く来い!』って思ってます‼」。
大きな舞台に臆するどころか、期待を膨らませている様子。さすがいつも攻めの姿勢の右近さんです!

ちなみに清元の基本スタイルは、4人が唄で3人が三味線という7人構成。
「4人の唄の中で、メインの人を『立唄(たてうた)』、その隣の二番めの人を『脇唄(わきうた)』といいます。11月の『十六夜清心』では、立唄を父が勤め、僕は脇を勤めます。兄(清元斎寿)も三味線で出演するので親子3人の共演になります。舞台の上手(右手)にいるので注目してください!」
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役者としては『お江戸みやげ』と『法界坊(ほうかいぼう)』の2本に出演。どちらも初役で女方を演じます。愛らしい娘姿はきっと舞台でもきわ立つはず!
「『お江戸みやげ』は、美貌の役者・阪東栄紫(ばんどうえいし)と駆け落ちするお紺役です。栄紫役は、中村梅枝(なかむらばいし)さんが演じられるのですが、先輩としてすごく尊敬していますし、とても親しくさせていただいているので、一緒の時間をすごせるのがとにかくうれしいです」。

一方、『法界坊』で演じるのは、市川猿之助さん演じる法界坊に言い寄られる娘・おくみ。
「猿之助のお兄さんの『法界坊』ということで、期待も高まりますよね。どんな舞台になるのか楽しみです。猿之助のお兄さんとは、『ワンピース』歌舞伎を含め、以前からいろいろな舞台でご一緒させていただきましたが、歌舞伎座で古典の大きなお役でご一緒できるのは、本当に夢のようです。
僕が演じるおくみは、一途に恋する健気な娘で、観どころとしては、後半の『双面水澤瀉(※)』(ふたおもてみずにおもだか)の踊りですね。法界坊の幽霊が、おくみの格好になって化けて出てくるので、おくみが二人になって踊ることになります。幽霊っていうと、ゾッとするものだけれど、何ともいえない明るさと馬鹿馬鹿しさで見せる場面。最後は華やかに踊りでパーッと明るくなって帰っていただくという構成で、これも歌舞伎の力だと思います」。

共演には、坂東巳之助(ばんどうみのすけ)さん、中村種之助(なかむらたねのすけ)さん、中村隼人(なかむらはやと)さんなど同世代の花形がずらり。猿之助さんを中心とする若手の結束力の高さを感じます。
「猿之助のお兄さんは、『心で考える人』だと僕は思っています。頭がいい人独特の冷静さと、愛情深い人独特の温かさ、そのどちらも持ち合わせていて、それがお客様を楽しませるという精神につながっているし、共演者のことをすごく大事にする気持ちにもつながっている。
去年、猿之助のお兄さんが舞台でケガをしたとき、『スーパーマンだと思っていたから、ケガしたときは、すごくショックだった』と僕が言ったら、『スーパーマンはケガしないんじゃなくて、ケガしてもすぐ治す』っておっしゃっていたけれど、本当にすごい早さで復活しました。先日も猿之助のお兄さんの『黒塚』の踊りを観て、あれだけの大ケガから、この1年でこれができるまでに復活するというのは驚異的だと思いました。あんなに号泣して、『黒塚』を拝見することはないだろうと思いました」

二人は固い絆で結ばれているよう。男たちの熱い友情に萌えながら、歌舞伎を観るのも楽しいかも!?
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通常は1カ月以上稽古を積んででき上がるお芝居の舞台。でも、歌舞伎のお稽古は3~4日。何度も演じているベテランの役者さんは、すぐにできてしまうらしいけど、右近さんのような若手は、それで大丈夫なの!?
「大丈夫ではないです(笑)。たとえていうと、先輩方は百戦錬磨の大縄跳びの達人で、長年跳び続けているわけです。そこに一度も跳んだことのない、跳び方もよくわかっていない若者が入っていく感じ。だからたいへんですよ。だって、その縄跳びって400年くらい続いている縄跳びだから(歌舞伎の歴史は400年!)。これを500年、600年と続けていくには、僕も縄にひっかからないように跳び続けないといけない。そんな心境です」。

それだけにお稽古でのプレッシャーは相当なもの。
「嫌ですねぇ、お稽古(笑)。本番以上にすごく緊張しちゃうんですよね。お客様は、ある意味、拍手してくださるし、受け止めてくれるけれど、諸先輩方の前でやるのは、試されているようで、ものすごく怖いです。
でも一方で、いろいろアドバイスもくださいます。『ケンケン、あそこはもっとこうしたほうがうまくいくよ』とか。ありがたいですよね。最近では、僕のほうからも『すみません、ここはどうしたらいいでしょうか』とうかがうことがようやくできるようになりました。いい意味で甘えるっていうのかな。ちゃんと慕う。10代の頃は、それが難しかったけれど、やっとできるようになって、少しラクになりました」。

まっすぐに人の目を見て、熱い言葉で語る右近さん。舞台への情熱は誰にも負けません。11月の舞台は、彼にとって高いハードルとなりますが、それに立ち向かう覚悟はできています。
「清元に関しては、喉の調子がいいときは、うまくできて当然で、たとえ調子が悪くてもどうやってそれをプラスにもっていくか。それができるのが本当のプロだと思っています。お稽古で、清元の先輩方を近くで見ていて、あらためて感じることです。
加えて今回は、役者としての出番もあるので、精神的にも体力的にも確かにハード。でも『体力がもう限界』っていうところから出る力ってあると思うんですよ。“火事場の底力”的なもの。結局、それが自分のキャパシティを広げることにつながるんだと思う。『ここが限界』っていうところにとどまっているだけでは、絶対にキャパは広がらないので、11月は限界を超えていきたいと思っています」。
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お稽古に舞台に、西へ東へと右近さんのスケジュールは超ハード。プライベートはどんなふうにすごしているのでしょうか。気になります! 
「趣味は人と話すことなので、友達とご飯を食べながら話しているとリフレッシュできますね。あと、こういう取材のインタビューも大好きですよ! それと、仕事でストレスがたまっているときは、気晴らしに近所の公園に行ったりします。公園をぶらぶらするだけで癒されますね。木々の葉っぱ、風、色、太陽、池、子どもたち……何でも感動できちゃう。アウトプットばかりが続くと、心が干潟みたいに乾いてるから、見るもの全部吸い込んじゃう。前に聞いたことがあるけれど、鍼治療でツボに入ったときって、体が鍼を吸っていくんですって。それと同じ感じかな」。

ときには遠出をすることも。先日は、親戚の住む宮古島へ行ってきたそう。どうりでいい色に日焼けしていると思いました。
「じつは母の誕生日のお祝いも兼ねて、二人で行ってきました。ちょうど父と兄がロシア公演でいなかったし、僕も3日間、お休みをいただけたから、『じゃあ行こう!』って母を連れだして。親孝行? いやー、だってすごい苦労かけてますもん。役者だ、清元だって、何でもやりたがる息子を持った母の苦労はたいへんなものなんですよ。
今回は僕ものんびりしたかったので、本当に何もしなかったですね。沖縄料理を食べて、泡盛を飲んで、12時前に寝て。朝は早く起きて海を見に行って、ちょっと泳いで。海では泳ぎながら唄も唄いました。海で唄うのはいいんですよ。声が響かないから、一生懸命大きな声を出そうとするので。
本当は、クリアボートっていう、ポリカーボネート製の全面透明なボートに乗りたかった。底が透明なので、泳いでいる魚が見えるんです。あと、ウミガメも見たかったんだけれど、今回は見られなくて残念でしたね。ウミガメ、好きなんですよ。あの優雅さ、母性愛、最高でしょう! ウミガメのお母さんみたいな人と結婚したいと思っています(笑)」と両手をウミガメっぽくパタパタ。右近さんらしいユニークなたとえに一同爆笑。アラサーバイラ女子よ、彼にモテたければ“ウミガメ女子”を目指すべし!

では、最後に11月の舞台の意気込みをお願いたします!
「来る時が来たなという感じで、とにかく期待しかないです。自分の人生の新たな一歩だと思っています。歌舞伎を観たことないバイラ読者のみなさんにも楽しんでいただけるように頑張りますので、ぜひ劇場に足を運んでください!」
【尾上右近/おのえ・うこん】
1992年東京都生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。曽祖父は六代目尾上菊五郎、母方の祖父は、俳優 鶴田浩二。7歳のとき、歌舞伎座『舞鶴雪月花』で初舞台。2005年より、七代目尾上菊五郎のもとで役者としての修行を積む。同年、二代目尾上右近を襲名。2018年2月、清元栄寿太夫を襲名。本名は岡村研佑、ニックネームがけんけん。
撮影/露木聡子 取材・文/佐藤裕美
※双面水澤瀉の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です。
【公演チケット情報】
歌舞伎座百三十年「吉例顔見世大歌舞伎」は、11月2日(金)から26日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹で発売中。

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