雑誌BAILAのインフルエンサー集団・スーパーバイラーズの中に、現在もコロナ禍にあるNY在住の女性がいる。加藤琴希さん、31歳。医療崩壊、ロックダウン、治安の悪化。新型コロナウイルスにより一変した暮らしを、現在妊娠8か月だという彼女に語ってもらった。
![NY在住バイラーズから届いた「いま伝えたい、コロナの現実」_1](https://img-baila.hpplus.jp/common/large/image/6f/6f1f0d8b-617a-4830-9040-f8f081905d87.jpg)
たった1週間で変わった、ニューヨークの街の景色
妊娠も安定期に入り、日本に一時帰国したのが3月でした。ニューヨークで7月に出産予定なので、しばらく会えなくなる友人に連絡を取り、母に産後どのタイミングでニューヨークに来てもらうか相談し、出産に向けての準備をしにきた形です。帰国したその日もちょうどバイラーズと会って食事。この頃、コロナウイルスはニューヨークよりも日本が先に感染者が出始めていました。でもピンときておらず、コロナでいつもは予約の取れないお店が今は取れるみたい!と軽はずみなことを考えていました。テレビではトランプ大統領が他国の状況を心配しながらも暖かい季節になれば収束するだろうとコメントを発表し、日本よりニューヨークのほうが安全かもしれない印象。友人や家族にまた会おうね、といつも通り約束してニューヨークへ戻りました。
![NY在住バイラーズから届いた「いま伝えたい、コロナの現実」_2](https://img-baila.hpplus.jp/common/large/image/cc/cc0ff26b-b174-4226-a0c6-3bb50bdf1ac2.jpg)
それから、たった1週間ほどのこと。あっという間にニューヨーク中にコロナ感染者が増えて、危険な場所に様変わりしました。主人の会社からは、駐在家族の帰国を促す連絡が入りました。でも、帰国するためには様々な検査が必要。連日ニュースでは空港が一番感染しやすい場所とも報道され、夫婦で悩んだ末、お腹の赤ちゃんに感染リスクを負わせて帰国するくらいなら自宅で過ごそうと決断に至りました。
自宅にいても窓から見えるロックダウンした街の景色は、不気味なほど殺風景。失業者やホームレスがまばらに歩いていて治安が悪化していくのが見て取れました。テレビでは、中国から新型コロナウイルスが広まったというだけでアジア人が誘拐・監禁されたニュースも流れています。自分も同じようなことになるかもしれない、週1日行くか行かないかのスーパーや散歩に行くのも内心ドキドキしながら出かけました。そうしているうちに医療崩壊を迎えると、通院していた妊婦検診は自宅からお腹の様子を動画で送るオンライン診療に。お腹の中の状態が分かるエコー診察もなく、赤ちゃんの状態はよくわかりません。どうか子どもが産まれる7月までにはウイルスが終息するようにと願う日々です。
スーパー、テイクアウトも感染リスクがある場所
日本のニュースも欠かさずにチェックしています。ニューヨークと違うのはスーパーやテイクアウトでの風景かもしれません。日本でも徐々に報道され始めていますが、スーパーはみんなで行く場所ではなく、代表者が感染を防ぐための距離感を持つソーシャルディスタンスを守って向かう場所。新型コロナウイルスは、服や髪だけでなく袋にも付着するという検証結果が出ているというのはニューヨークでは当たり前の常識として認知されているからです。
![NY在住バイラーズから届いた「いま伝えたい、コロナの現実」_3](https://img-baila.hpplus.jp/common/large/image/38/3864da42-e8d5-475e-ab10-219289b2524a.jpg)
↑星はソーシャルディスタンスの距離感を表すマーク。
感染リスクを考えると、スーパーに行くのは最低週1日。手袋、髪ゴム、除菌ジェルは欠かせません。仮にウイルスが付着した手で髪を触ると、髪にも付着してしまうため、不用意に触らないようきゅっとオールバックが定番。外に出ると、髪をすべて帽子の中にいれている人たちの姿もあります。とにかくウイルスが肌に付着しないように気を遣います。
帰宅後、着ていた服は洗濯機に入れ、シャワーをすぐに浴びます。買ってきたものは、ひとつひとつ除菌をしていくので、スーパーに行った日は除菌だけであっという間に時間が過ぎていきます。
飲食店のテイクアウトはありますが、日本のように本人がお店にピックアップしにいくことはありません。ウーバーイーツかデリバリー業者が取りに行って届けてくれます。そのときも、食べ物が入っている容器は除菌をします。ネットで必要なものを注文したときは、ダンボールにもウイルスは付着している可能性があるので、玄関先に出しておける物は除菌した後そのまま数時間放置。その後、中身を開封してまた除菌します。これは大袈裟ではなく、たぶんニューヨークでは当たり前のこととしてみんな行っていることだと思います。
おうち時間が増えて始めたこと
家にいる時間が圧倒的に多い今、自炊ではスイーツからバランス良い食事まで自分で作れるように研究しています。インスタグラムでも友人の手料理をよく見かけるので、ストーリーでハッシュタグをつけ、自炊リレーをして小さな楽しみを発見中。SNS上での人とのつながりは、とても新鮮で息抜きにもなっています。
外出自粛中にネットで購入したものも、食べることにまつわるものが多いです。食卓がカラフルでハッピーになれるようなアイシングクッキーをチョイス。今では、食べることは心身の健康にも繋がると思い、この機会にベジタブルマイスターの資格勉強も始めました。
生活は一変してしまったけれど、働き方、家族の健康管理、生き方、そして環境のこと。こんな状況じゃなかったら考えることもなかったことを、すべて見直す機会にしています。
医療従事者への感謝を、気持ちから行動へ変える
![NY在住バイラーズから届いた「いま伝えたい、コロナの現実」_7](https://img-baila.hpplus.jp/common/large/image/2d/2d53af24-3ded-485a-a7cb-84a67240d59d.jpg)
ニューヨークにいるとコロナウイルスに感染=死ぬor助かるかの2択で、軽症という印象はありません。いま、この瞬間も命を繋いでいる医療従事者が新型コロナウイルスに次々感染してしまっている状況です。主人は趣味でサッカーチームに所属しているのですが、同じチームメンバーで友人の医師が新型コロナウイルスに感染しました。当時、心臓外科にも関わらず、新型コロナウイルスの担当に回されていていたそうです。その話だけでもショックなニュースなのに、その友人の同僚は感染し、亡くなったそうです。毎日18時になると、街中から医療従事者に向けて拍手が送られます。私も毎日窓に向かい、心から感謝を込めて拍手を送っています。
そんなもどかしい日々が過ぎる中で、主人をはじめ同じサッカーチームの仲間3人で何かできることはないかと感謝の気持ちを行動へ移すことに。仲間の一人である日本人シェフ・島野雄さんを筆頭に、満足に食事も取れない医療従事者に届けることにしました。みんなでお金を出し合って、友人が勤めている病院へ50食分のサンドイッチのデリバリー。
主人はデリバリーの手配をすべて行い、私も微力ながらSNSを使った拡散に努めています。並行してdonateという寄付・支援を募るサイトを開設し、もっと多くの医療従事者の方々においしい食事が届くように資金を集めています。つい最近のことですが他のシェフたちも加わり、2回目のデリバリーができました。ウイルスが収束するまでに支援の輪が途絶えないようにするが目標です。
まさか生きているうちにウイルスで外に出られない時代がくるなんて、夢にも思っていませんでした。不安で苦しい日もあるけれど、人との繋がりなど得たこともたくさんあります。自分に一体なにができるのか、前を向いて過ごしていくしかないと思っています。
今の生活状況から感じていることまで、ありのままを話してくれた加藤琴希さん。彼女の話を通して、私たちが迫られているひとつひとつの選択が、大切な人を守るための行動に繋がっていることを改めて認識させられました。
取材・文/高橋夏果