テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第21回目は、「リカレント教育」について大江さんと一緒に深堀りします。
今月のKeyword【リカレント教育】
りかれんときょういく▶リカレントとは「繰り返す」「循環する」という意味の英語(recurrent)。学校教育からいったん離れて社会に出たあとも、必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と学びを繰り返すこと。日本では、仕事を休まず学び直すスタイルもリカレント教育に含まれ「社会人の学び直し」とも呼ばれる。
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1970年代
経済協力開発機構(OECD)がリカレント教育を推進
1970年にOECDが教育政策会議で取り上げ、1973年に「リカレント教育-生涯学習のための戦略-」報告書が公表されたことで国際的に広く認知された
2016年10月
人生100年時代を説く『ライフ・シフト』日本語版出版
著者リンダ・グラットン氏らが、長寿化時代における働く期間の長期化と学び直しの重要性を指摘した『ライフ・シフト』日本語版が刊行。ベストセラーに
2021年12月
岸田総理が所信表明演説で「学び直し」の強化を表明
岸田総理は所信表明演説のなかで、「人への分配」を「未来への投資」ととらえ、学び直しや職業訓練を支援し、再就職やステップアップを推進すると唱えた
バイラ読者125人にアンケート
Q 「リカレント教育」という言葉の意味を知っていますか?
「知っている」「聞いたことがある」と答えた人を合わせると約4割。言葉の認知度はそこまで高くなかったが、約9割の読者が「何かを学びたい」、半数以上が「今、学んでいることがある」と回答。読者の学びへの意欲の高さが表れる結果に
Oeʼs eyes
言葉自体は知らなくても、実際に自分を高める学びを続けている方が多いようで、リカレント教育の概念はすでに浸透しているんだなと感じました。時代の変化や自分自身の変化にしなやかに対応するためには自分を高めるしかないと覚悟ができている方が多く、「かっこいいな」というのが率直な感想です
Q あなたの勤め先には、従業員の学び直しを支援する制度がありますか?
「支援制度がある」と答えた人は約3割。具体的には、業務に必要な資格試験や外国語学習費用の補助などが挙がった。ないと答えた人も語学やデジタルスキルなどの勉強を自ら実践している声が多数
Oeʼs eyes
従業員が学び直してスキルアップしたことによってほかの会社に転職するんじゃないかという警戒心を持っている会社はまだまだ少なくないと思います。ただ一方で、学び直しを支援することが優秀な人材の流出を防ぐことにつながるという発想の転換ができている会社も少しずつ増えている気がします
Q 何かを学び直したいと思った場合に、直面しそうな課題は?(複数回答あり)
1位 時間が取れない (71%)
2位 費用の負担が大きい( 69%)
3位 どう学んだらいいかわからない( 40%)
4位 周囲の理解が得られない( 13%)
特に直面しそうな課題はない( 2%)
学びたいを気持ちを阻むリアルなお悩みが並ぶ。「仕事が忙しく、まとまった勉強時間の確保が難しい」「会社の業績悪化で資格取得支援が削減された」など理想と現実のギャップに悩む声が聞かれた
Oeʼs eyes
確かに「時間が取れない」というのは本当にそうなんですよね。ただ、短時間でもいいから集中できる時間帯を選んで確保できればよいのではないかと思います。すき間時間でもいいと思いますので「時間はつくるもの」という感覚を持って、なんとかやりくりをして30分でも確保できるといいですね
Q これからも長く働き続けたいと思ったときに、何かを勉強したり学んだりすることが、将来必要になると思いますか?
ほぼ全員が「はい」と回答。理由に「長生きする時代なので、若い時期に学んだだけでは知識も技術も足りないと思う」「学ぶことでスキルアップでき転職にも有利に」「人生の選択肢が広がるから」との声が
Oeʼs eyes
ずっと働き続けるには学び続けることが必要な時代だと本当に思います。人生100年時代といわれ自分の人生この先何があるかわからないなかで、必要なときに何らかの仕事をすることができる自分でいるために、それぞれの特性に合ったものを磨いていくとほかの人にない強みになるかもしれません
「人生100年時代。必要なタイミングで学び直し、仕事に生かす人が増えています」
「年の初めは、『今年は何をしよう』と気持ちを新たにするとともに目標を立てるタイミングですのでこの言葉を取り上げました。たまたま特集内容と一致してよかったです」と大江さん。リカレント教育とは何ですか。
「社会に出てからも、必要なタイミングでスキルアップをして仕事に生かすことが重要になってきています。この社会人の学び直しを、リカレント教育と呼んでいます」
なぜ重要になってきているのですか。
「まず背景に、日本の雇用の流動性の問題が挙げられます。日本は世界でも雇用が安定していて、それが社会の安定や生活の安心につながっているのですが、その状態が長引き、低成長が続く産業に人が居続けることで所得が上がりにくく、また成長産業になかなか人が集まらないという課題が出てきました。政府としては学び直しを推進して雇用の流動性を高めたい考えがあるようです。
次に、人生100年時代といわれるようになってきた背景があります。寿命が長くなり、時代や自分自身、育児や介護など自分を取り巻く環境などの変化のなかで、皆が最初に就いた仕事を続けられるわけではない世の中になってきているといわれています。そこで次の仕事に移るときにステップアップを図るめには自分自身のスキルを高めていく必要がある。ではその時々に学習をしていきましょう、ということで今リカレント教育が重要視されていて、実際に学び直しをしている人が多くいる状況だと思います」
コロナ禍を機に学び始めた読者の声も。
「コロナ禍で業界によって明暗が分かれ、大きく影響を受けた産業がありました。そういった状況に危機感を持ち、自分のスキルを今のうちに高めておこうと学び直しをし始めた方もいらっしゃったようですね」
今後も、リカレント教育は広がりますか。
「国や自治体の支援制度をはじめ、社会人の学びに関する情報発信やオンラインを活用したツールも増え、働きながら学びたいという思いにもこたえてくれる環境が整ってきているように感じます。先進的な人材育成の取り組みをしている企業も増えていますし、本人のキャリア形成の希望に沿うようなかたちのリカレント教育ができる環境を整えてアシストするような企業がより増えていくといいなと思います」
「何がこのあと人生に役立つかわからない。興味があるものを深めることを大切に」
アンケートでは、学び直しする際の課題として「時間が取れない」が1位に。大江さんはどんな学びの時間を持たれていますか。
「私の場合はアウトプットをする仕事で、常にアウトプットの倍くらいのインプットが必要なので追い込まれて学び続けているところがありますね。オンエアが終わった瞬間からその次のための準備と勉強が始まっている感じです。やはり時間はあっという間に過ぎていくので、どこかで『ここは学びにあてる』と決めないとなかなか難しいですよね。私は最も集中できる静かな夜の時間帯を選んでインプットしています。皆さんも、どう時間を確保するかが大きな課題で、自分のペースで学べる方法を模索していらっしゃると思います。今はオンラインですき間時間をうまく有効活用して学べるものもありますので、そういったものを利用するのもよいかもしれません」
何から学び始めればいいでしょうか。
「目標が遠すぎると何から手をつけていいかわからなくなると思うんですね。私は目標を目先に設定するといいと教えてもらったことがあり、日々見つけた自分のウィークポイントを克服するところから始めています。たとえば、私は『エクセルに弱いな』と最近感じていまして。今ネットでいろんな一次情報にアクセスできるので、それをもとにエクセルでグラフを作って分析し、コメントに生かせるといいなと思い、本を購入して学んでいます」
「キャリアアップのための学びと趣味の学びのバランスをとるのが難しい」との声も。
「時代が大きく変化してますから、何が仕事に直結するか、いずれ人生に役立つスキルかというのは、歩みを進めていかないとわからないことが多いと思います。私の場合、仕事と趣味とのボーダーがあいまいになってきていると感じていますし、画一的にこれをしておけばOKというものがあるわけでもないので、自分の興味があるものを深めていくことを大切にしています。どんなジャンルでもかまわないから昨日の自分より今日の自分を一歩でも高めておく意識を持っておくだけでもいいのではないでしょうか。自分の可能性を高めるためには、趣味の分野のほうがより学びやすく吸収しやすいかもしれませんし、自分の強みを伸ばすのがいいと思います」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/中田陽子〈MAETTICO〉 取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年2月号掲載