睡眠時間が増えたからといって、単純に眠りの質が上がるとはいえないのが睡眠の不思議なところ。睡眠外来の専門医師と睡眠改善アドバイザーにお話を伺いました。
《睡眠とホルモンと免疫力》
教えてくれたのは…
スリープクリニック調布院長 遠藤拓郎 先生
親子3代にわたり90年睡眠研究に携わり、スリープクリニックを調布・銀座・青山・札幌に開院。睡眠に関する著書多数、睡眠のための音楽監修など幅広く活躍中。慶應義塾大学医学部特任教授。
1 睡眠はホルモンがつかさどる
睡眠は深夜0時から朝6時を中心にすると良質な眠りが得やすいといわれています。これはよい目覚めに欠かせないコルチゾールが夜中の3時ごろから分泌されるから。コルチゾールの別名はステロイドホルモン。免疫を封じ込める働きもあり、ストレスを受けると分泌が促されるため、過剰に分泌されると寝つけないトラブルと免疫低下のWパンチに。だから、ストレスは安眠の敵なのです。
2 コロナ禍の睡眠傾向
早寝早起きといいますが、急に早く寝ようとしても夜、そう簡単には眠れません。寝つく時間は起きる時間に依存するので強いていうなら“早起き早寝”。リモートワークで朝、起きるのが遅くなったことで睡眠時間が全体に後ろにズレてしまった人は眠りの質が落ちています。もとに戻すにはまずは30分早く起きる。クリアしたら、さらに30分と少しずつもとの起床時間に近づけていくことが大事です。
3 睡眠の3の法則
睡眠の理想の長さは人それぞれ。睡眠時間の長さと睡眠の質は反比例します。寝すぎは眠りの質が悪くなり、寝不足は日中の活動を妨げます。睡眠障害とは以下の状態が2週間たっても改善されないこと。①寝つくのに30分以上かかる、②就寝中3回以上目が覚める、③起床予定時刻より30分以上早く目が覚める、④昼間3回以上、眠たくなる。当てはまる人は睡眠外来で医師に相談を。
睡眠とかかわる2大ホルモン
【成長ホルモン】
睡眠と免疫が密接な関係なのは、免疫にかかわる成長ホルモンが眠っている間に分泌されるから。この成長ホルモンは昼間はほとんど出ず、眠ってから3時間の間、しかも深い眠りのときに出るものです。子どもの成長期に多く出るから成長ホルモンと呼ばれていますが大人も分泌し、主に壊れた細胞の修復を担うホルモンです。
【コルチゾール】
目覚めるとき、人間の体は深部の体温が上がります。就寝中、動かないで体温を上げるために体が分泌するのがコルチゾール。朝の3時ごろから分泌され始め、脂肪を燃やして体温を上げていきます。コルチゾールはストレスを受けるときにも出るので、そうなると夜であっても体温が上がり、なかなか寝つけなくなってしまうのです。
《睡眠の質と体内時計の関係》
教えてくれたのは…
東洋羽毛工業 國井 修 さん
東洋羽毛工業勤続24年。日本睡眠教育機構認定の上級睡眠健康指導士、日本睡眠改善協議会認定の睡眠改善インストラクターの資格を有し、セミナーなどで睡眠の大切さを啓発している。
1 睡眠は夜だけのものではない
睡眠トラブルを抱える人は夜、どうしたら眠れるか?ということを考えがちですが、良質な眠りはむしろ朝や昼間から続く一日の行動にかかっているのです。メイン時計である脳の時計とサブ時計である各細胞のもつ末梢時計に朝と夜の時間を正しく刻ませること。そのためには昼は活発に行動し、夜はリラックス状態にすることが重要なのです。
2 日本人は眠りベタ
日本人の平均睡眠時間は7時間24分で経済協力開発機構加盟国中、ワースト1位。また米国のシンクタンクの調査では睡眠不足による経済損失が約15兆円にもなるといいます。寝る間を惜しんで働いているにもかかわらず、結果として損失が大きいという皮肉な結果に。これは勤勉を美徳とする国民性が睡眠をおそろかにする傾向を生んでいるといえるでしょう。
3 睡眠は技術!
朝浴びる明るい光により、脳のメイン時計がリセットされ、夜までの12~13時間を体が活動するのに適した状態になります。そののち睡眠ホルモン・メラトニンが分泌され、手足から熱を放出し、深部体温を下げて入眠状態に導きます。このメカニズムを知っていればよい睡眠を得やすい体に。光や音・香りなどさまざまな方法でよい睡眠を得るための技術を磨こう。
ぐっすり眠るコツ
【睡眠のフラワーパズル】
睡眠はこれをしたらよくなる、眠れるようになるという話ではなく、起きている間と眠っている間の一日の過ごし方が大切で、朝から夜までつながっているという考えです。睡眠の要となるピースは、大きく6項目。それぞれのパズルピースを意識することで、快眠への花が大きく咲いていきます。
取材・原文/平 輝乃 構成/渡辺敦子〈BAILA〉 ※BAILA2020年8月号掲載
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