冬の着こなしの主役となる、アウター。スタンダードなものはすでに何着か持っている人も多いと思うけれど、辻さんが提案するのは“記憶に残るアウター”。デザインの振り幅がさらに広がったという今シーズン、デイリーという枠のなかでスタイリングを印象的に彩り、見る人の心にふれる。この冬は、そんな一着に出会いたい。
辻直子●つじ なおこ
コンサバティブをベースとした鮮やかな色使いのコーディネートで人気のスタイリスト。本誌で約10年間続いたこの連載も、いよいよ来月号で最終回を迎えることに。ラストを飾るテーマ、そしてモデルに乞うご期待!
チェック柄のアウターはトーンを合わせたりコントラストを付けた色合わせを楽しんで
「シャギーな素材感がいい意味でチェックの印象を曖昧にするので、思いのほか着こなしやすい。トーンを合わせたり、コントラストをつけた色合わせを楽しんで」。
コート¥118000/マッキントッシュ青山店(マッキントッシュ) ニット¥12000/ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 丸の内店(ビューティ&ユース) スカート¥20000/サード マガジン バッグ¥132000/J&M デヴィッドソン 青山店(J&M デヴィッドソン)
しなやかで、エレガント。静かだけど強く心に残るダブルフェイスのコート
アウターのなかでもいちばん好きなのが、ダブルフェイスのロングコート。突出した個性はないけれど、エレガントさやなめらかな質感、コーディネートしたときのしなやかさは、ほかになく私の心に響く存在。このぐらい分量感があると、動きに合わせてゆらめくので女性らしさが引き出され、その着こなしも印象的に。どんな色でも素敵ですが、守りに入らずに自由なマインドで選んでもいいのかなって思います。着こなしははずさずに、コートそのままのイメージでクラシックに小粋に。たっぷりしたコートに大きなバッグを合わせるのも、好きなバランスなんです。
「シルクのガウンみたいに、力が抜けているのに、印象はエレガント。このコートも、そんなアンバランスな魅力に惹かれるんです」。
コート¥150000/ザ シークレットクロゼット二子玉川(シクラス) ブラウス(タイつき)¥23000/フィルム(ソブ) パンツ¥18000/ラ トータリテ 有楽町マルイ店(ラ トータリテ+NaokoTsuji) バッグ¥488000/フェンディ ジャパン(フェンディ) 靴¥9800/ル タロン プリュ 有楽町マルイ店(ル タロン+NaokoTsuji)
オーバーサイズのブルゾンはその雰囲気にとらわれない逆方向のスタイリングを
今年はオーバーサイズのブルゾンも豊富。ムートンアウターもコンパクトに着るのは気分ではないけれど、オーバーサイズなら今っぽく、フェミニンな雰囲気で着こなすことができます。このアウターの持っているハードな印象を壊したかったので、重たい色を控えめに、鮮やかな色をテンポよくさしていくことで抜け感とやわらかさを持たせたスタイリングに。’70sのグランジっぽいマルチボーダーのニットにも、今シーズンは注目しています。年々クォリティを上げているエコムートンには、驚かされますね。本物にはない軽い着心地も、やっぱり魅力的。
「小さなサイズ感は古く見えがちですが、オーバーサイズなら今の気分に」。
コート¥36000/フレイ アイディー ルミネ新宿2店(フレイ アイディー) ロングカーディガン¥43000/サザビーリーグ(エキップモン) ニット¥12000/メゾン イエナ(イエナ) グローブ¥27000/ショールーム セッション(カール ドノヒュー) バッグ¥8500/ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 丸の内店(ビューティ&ユース) 靴¥11200/シジェーム ギンザ(クレジュリー)
「色のコートは、みんなもっと着ればいいのにといつも思っています」。コート¥75000/ラ トータリテ 有楽町マルイ店(メゾン レネール) ニット¥40000/サザビーリーグ(デミリー)
「ゆるっと力が抜けていて、それでいてシックなガウン系は大好きなアイテム」。カシミヤカーディガン¥92000/フィルム(ソブ) ワンピース¥26000/サード マガジン
質感、色合い優秀な大人も着られるエコファーに注目。エコファーコート¥49000/RHC ロンハーマン(RHC) ワンピース/ 2 と同じ
「太めの袖や長めの丈感など、バランスが絶妙」。コート¥80000/アストラット 新宿店(アストラット) パーカ¥23000/RHC ロンハーマン(RHC)
今年っぽいショールつきのデザイン。「チェックも変わらず好き」。コート¥160000・フードつきマフラー¥48000/トゥモローランド(トゥモローランド コレクション)
「ダブルフェイスのコートにはパーカを合わせて。ベンチコートっぽく見えたら面白いかなって」。コート¥120000/ウィム ガゼット ルミネ新宿店(ウィム ガゼット)
「また着ている」は褒め言葉。誰かの記憶に残るって、素敵なこと
秋冬の始まり、いつも最初に買うのは「アウター」です。レイヤードをする季節は、トップスがわりとシンプルになりがちなので、そこだけで個性を表現するのが難しく、いちばん上に羽織るアウターは、スタイリングの“キャラクター”をつくってくれる存在。そう何着も新調できるものではないから、選びが保守的になりがちですが、選んでほしいのは、それこそ自分のキャラクターとなってくれる一着。
今シーズンはいつにも増してテイストの振り幅が広く、面白いデザインが豊富です。私自身もいろんなタイプに惹かれていて、ここで選んだのもそれぞれ、まったく違う顔を持ったアウター。柄だったり、色だったり、デザインだったり。どれもひと目で印象づけられるものばかり。「また着ている」と思われたくないから、こういった主張の強いアウターを選ばない人が多いけれど、トップスでもアウターでも個性を出さなかったらすごく普通で、印象に残らないスタイリングに終わってしまいますよね。私だったら、皆一緒でさらりと流されてしまう存在感よりもふと目に留まるような、そんな装いを楽しみたい。
スタイリングも実は難しいことはなくってアウターのキャラクターを立たせるように、シンプルな格好に羽織ればそれだけで絵になってしまうから、むしろ簡単なんです。ベーシックなアウターのほうが、重ねる素材や色のニュアンスでうまく奥行きを出していかないとかっこよく見せるのは意外と大変。「また着ている」と思っているのは、きっと自分だけ。周りが抱いているのは「やっぱり素敵」という感想かもしれません。
ダークトーンがひしめく冬の街に、埋もれず、映える。この冬まといたいのは、そんな誰かの記憶に刻まれるアウターです。
撮影/藤田一浩 ヘア/Dai Michishita メイク/早坂香須子〈W〉 スタイリスト/辻 直子 モデル/マギー 取材・文/櫻井裕美 構成/内海七恵〈BAILA〉 ※BAILA2019年11月号掲載