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トルコではチューリップにどんな意味が?
「チューリップは帝国領内に自生する花で、15世紀ごろから栽培が盛んになり、16世紀半ば以降は品種改良もずいぶん行われました。チューリップは、花として好かれていただけでなく、国家的・宗教的にも重要な花だったのです」と、教えてくれたのは元龍谷大学教授でトルコ文化研究の第一人者・ヤマンラール水野美奈子さん。
なんでも、チューリップはイスラム教の神様アッラーと深くて微妙な関係があるんだって。
「イスラム教は厳格に偶像崇拝を禁じていて、神は姿形がないとされています。だから、初期の段階では神の啓示であるコーランも口伝だったのですよ。しかし、預言者ムハンマドが亡くなってから、口伝による間違いを防ぐために、文字による筆写だけは認められるようになりました。つまり、イスラム世界の芸術の大前提は『書=神の啓示』なのです。だけど、文字だけのコーランは味気ないと感じる人がいたのでしょうね。次第に文字の周りを無機質な文様で飾るようになりました。また動植物学や医学、天文学などの学問の発達とともに、図解や絵解きが必要になったのでしょう。こうして挿絵としての絵画が生まれました」
チューリップは神と関係が深い大事な花なんです
「上のスライダーでタイルを見てください。これは『ハタイ』と呼ばれている、小さな花と葉、蔓からなる中国風文様です。ハタイはイスラム全土にありますが、オスマン帝国では帝国内で最も好まれた花のチューリップやカーネーション、バラ、ヒヤシンスを写実的に取り込み、より装飾的で独自性のあるデザインを創り出しました。このようにオスマン帝国の文様は他のイスラム世界のものとはまるで異なります」
新興国の国家戦略としてデザインに特化していたわけね。首都の宮廷内には各地&各分野の優れた工人や工芸家が集まっている工房があり、中央集権的に統一感のあるデザインを創り出していたんだって。なにしろ領土はアジアの端から地中海・黒海まであるわけだし、金も宝石も高価な顔料も人材も集め放題。そりゃあ、ハイレベルな文化が生まれるよね。
「チューリップはトルコ語で『ラーレ』といいます。この綴りの文字列を入れ替えると『アッラー』となり、それぞれの文字に対応する数字を全部足すと、アッラーを示す66になる……。こうした理由があってチューリップがとりわけ重要視されたのでしょうけど、神を象徴するものがあってはならないのがイスラム教。そこは暗黙の了解で、誰もはっきりとは理由を言わないのです」
おお、なんて奥深きオスマン帝国の美。でも、トルコの人たちにとってチューリップが特別な花であることはよーくわかった。
トルコ文化年2019『トルコ至宝展チューリップの宮殿 トプカプの美』
イスタンブルのトプカプ宮殿博物館所蔵の貴重な宝飾品、美術工芸品約170点が来日。オスマン帝国の美意識や文化、芸術観、日本とのつながりがわかる展覧会。3/20~5/20 国立新美術館 東京都港区六本木7 の22の2 10時~18時(金・土~20時、4/26~5/5〜20時) 休館日/火曜(4/30開館) 観覧料/¥1600 問い合わせ 03(5777)8600(ハローダイヤル)
https://turkey2019.exhn.jp/