スキマ時間でちょこちょこ見るのでも、何時間もぶっ通しでイッキ見するのでも楽しめる海外ドラマは、まさにおうち時間のお供にぴったり! でも、もはや作品数が多すぎて本当に面白い作品を見つけるのにも一苦労……。そんな膨大な数のなかから、絶対今見て損させない5作品をバイラ本誌のドラマ連載を担当するライター今さんが厳選してご紹介します。今回はNetflixで見られる海外ドラマです。
1.「ベター・コール・ソウル」
Netflix、デジタル配信、DVD&Blu-rayほか
シーズン1〜シーズン5 各10話(継続中) 2015年〜
製作総指揮:ヴィンス・ギリガン、ピーター・グールドほか 出演:ボブ・オデンカーク、ジョナサン・バンクス
何年も続くロングランシリーズは、必然的にキャラクターの内面を深く掘り下げることになる。だからジャンルはなんであれ、人間を描くことに優れたフォーマット。一度感情移入すると抜け出せない沼にハマってしまう。それこそがTVシリーズの醍醐味! 伝説のドラマ「ブレイキング・バッド」の前日譚を描いた「ベター・コール・ソウル」は、「ブレイキング・バッド」に弁護士ソウル・グッドマンとして登場する6年前から始まる物語。本名ジェームズ・マッギルがソウル・グッドマンになる過程や生い立ちなどから浮き彫りになる人生の哀感、という以上に胸をえぐるような痛みと皮肉は、犯罪ドラマでありつつ珠玉の人間ドラマとも言うべき奥深さ。主演のオデンカークの名演にしばしば涙を誘われ心を寄せずにはいられない。あれこれつまみ食いしないで、一つの作品の世界観を楽しみ尽くすのもいいものですよ!
2.「HOMELAND ホームランド」
写真提供/アフロ
Netflix、U-NEXT、デジタル配信、DVD&Blu-rayほか
全8シーズン 各12話 2011年〜2020年 *Netflixではシーズン4まで配信中。
製作総指揮:ハワード・ゴードン、アレックス・ガンザ、ギデオン・ラフほか 出演:クレア・デインズ、マンディ・パティンキン
人気があれば何年も続くのがアメリカのTVシリーズ。近年はちょうどいいところで円満終了となる番組も増えているけれど、3年以上続いて有終の美を飾れるドラマは正直少ない。でも安心してください! 双極性障害を患うCIAのキャリー・マティソンと、中東専門の元上司ソール・ベレンソンの頭脳戦・心理戦の要素が強いテロ組織との闘いを描いた「HOMELAND ホームランド」は、最終となるシーズン8も大満足の仕上がり。連続ドラマとしてシーズン3で一区切り付いてからは、基本的に1シーズンで一つの事件を描くスタイルで世界各地での対テロ戦争の”リアル”を描いてきた本作。クレア・デインズの迫真の演技が”顔芸”としてファンに親しまれてきたキャリー、演技派マンディ・パティンキンが演じる味わい深いソールの顔合わせも見納めとなる最終章の感慨は、長い時間を共有してきたファンだけが味わえる特権です!
3.「アメリカン・クライム・ストーリー」
写真提供/アフロ
Netflix、デジタル配信ほか
シーズン1「O・J・シンプソン事件」全10話、シーズン2「ヴェルサーチ暗殺」全9話 2016年〜
製作総指揮:ブラッド・シンプソン 出演:キューバ・グッティング・Jr.、ダレン・クリス
1シーズンごとに別の物語を描くアンソロジー・シリーズの現在のトレンドを作った張本人。そして「glee/グリー」や黒人トランスジェンダー女性を主体とした「POSE」など、徹底してマイノリティの視点を貫き、一時代を築いているライアン・マーフィー。題材の選び方にゴシップの香りが漂い、映像も演出もキャストも派手にぶちかましながらも、社会派のメッセージを娯楽として伝えることにかけては天才的! 黒人に対する偏見と差別、マスメディアの報道被害、女性蔑視、さらに司法制度の問題に真っ向から挑んだ実録犯罪ドラマ「アメリカン・クライム・ストーリー:O・J・シンプソン事件」は、アイロニカルな形で“ブラック・ライブズ・マター”にもつながる大傑作。世界的ファッションデザイナーを殺害した連続殺人犯の素顔を暴くシーズン2でも、同じテーマをきっちり盛り込みつつ、毒々しいほどにゴージャスでスキャンダラスな映像世界で楽しませてくれる。アメリカで今秋放送予定の、元大統領ビル・クリントンとモニカ・ルインスキーの性的スキャンダルを描いたシーズン3の上陸も待ちきれない!
4.「ザ・クラウン」
(c)Netflixオリジナルシリーズ
Netflix、DVD&Blu-rayほか
シーズン1〜シーズン3 各10話(継続中) 2016年〜
原案・製作総指揮・脚本:ピーター・モーガン 出演:クレア・フォイ、マット・スミス
『クィーン』などのイギリスの映画脚本家・プロデューサーであるピーター・モーガンによる、英国王室を描いた秀作ドラマ。エリザベス2世を頂点とする英国王室といえば、昔も今も世界中の注目の的。でも本作に浮ついた印象はなく、よく知られる出来事やスキャンダルの舞台裏を圧巻の映像美と重厚なタッチで描いて、まるで1話が1本の映画のような完成度の高さ! 自分で人生を選ぶことができなかった女性が、何よりも重い王冠を一身に背負って、時代の何を見て、何を思ったのか? そこにはリアリティショーのように王室をのぞき見るような楽しみもあれば、万国共通の普遍性も。とりわけ、常にエリザベスの後を歩くことになる夫フィリップの深い苦悩を描くことによって、むしろこれまで女性がその立場であることが、当然とされてきたことについて考えてしまう人も多いはず。シーズン3より、主演はクレア・フォイから『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンにバトンタッチ。今年配信予定のシーズン4では、「セックス・エデュケーション」の突き抜け方も素晴らしいジリアン・アンダーソンふんする政治家マーガレット・サッチャーや、ダイアナ元妃なども登場するので今のうちにキャッチアップしておきたい。
5.「13の理由」
(c)Netflixオリジナルシリーズ
全4シーズン シーズン1〜3は各13話、シーズン4は全10話 2017年〜2020年
企画・製作総指揮・監督:ブライアン・ヨーキー 出演:ディラン・ミネット、アリーシャ・ボー
自殺とメンタルイルネスの深刻さは、日々誰もが実感しているはず。ジェネレーションZの若者たちが、なぜ自殺するのか? という問題に真剣に取り組んだシーズン1は、衝撃の自殺シーンが後に削除されるなどの物議をかもした。そこからのシーズン2以降は、ある意味別の作品だととらえるべきかも。人気ドラマ「プリティ・リトル・ライアーズ」や映画『ラスト・サマー』のようなテイストもあって、ちょっと戸惑うのだけれど、最後まで10代のアルコール依存症やメンタルイルネス等の問題に向き合い、恥ずかしいことだと思わず助けを求めることを訴えている。そして実際に同種の問題で悩んでいる人たちの助けとなる情報もきちんと発信し続けている。作品全体としての評価は分かれるとしても、本作の問題提起は現代社会においてとても重要なもの。自殺やメンタルイルネスについて語ることをタブーにしていはいけないという、スタッフ&キャストの強い思いは本物です。
※このページの情報は2020年6月25日現在のものです。
【ライター紹介】今 祥枝
いま・さちえ/バイラ本誌でシネマ・ドラマ連載を担当し、海外エンタメに関する知識はピカイチ。『小説すばる』で「世界エンタメ最前線 ギークTV」、「yom yom」で「海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて」など連載中。著書に『海外ドラマ10年史』、編集協力『幻に終わった傑作映画たち』。
取材・文/今 祥枝 構成/田畑紫陽子〈BAILA〉