不倫を“された側”の苦悩を描き、実写ドラマ化もされた大人気マンガ『サレタガワのブルー』。タイトル通りのブルーな展開が続く中でも「やばすぎ!」と軽快にツッコミを入れたくなる笑いのバランスが絶妙だった本作。漫画アプリ『マンガMee』での連載が12月9日(金)更新分でついに最終回を迎えます! 約4年にわたる連載の最終回を描き終えたばかりの著者・セモトちか先生へのインタビューが実現!
“された側”のリアルな作品をずっと描いてみたかった
―『サレタガワのブルー』が生まれたキッカケを教えてください。
もともと、不倫ものの作品をみたり読んだりするのが大好きだったんです。でも不倫ものってなぜか“した側の切ない恋”を描いているものが多いんですよね。それがずっと不思議でした。
SNSでよく投稿されている実体験は“された側”の方の投稿が圧倒的に多くて、しかも内容はどれもえぐいしつらいものばかり。なのになぜ世の中にはきれいな作品しか出ないんだろうと思っていたんです。いつか自分で“された側”のリアルな作品を描きたいなと構想を練り始めたことがキッカケです。
―“された側”である主人公を男性にした理由はありますか?
取材で話を聞く中で、浮気された側の人の多くは私と同じ女性で。実際に不倫マンガを描くなら“男性にも入り込んで読んでもらえる作品にしたい”と思ったんですよね。男性を主役にすれば“された側ってこんなにつらいんだ”と感じて反省してもらえるんじゃないかなって(笑)。
ただ、男性から届く感想には「女、怖〜」みたいなものが多かったのですが……。
―タイトルは“された側のブルー”ということで、少しダジャレっぽさもあるものですが、どのように考えていったのでしょうか。
最初に考えついたのが、主人公の“のぶくん”という愛称でした。これは、私の大好きな芸人・千鳥のノブさんが由来です(笑)。
そこからタイトルを考えていって“され夫のぶの憂鬱”とか“された側のぶ”とか。された側のブルー…ノブ、ノブルー! みたいな感じで今のタイトルにたどりつきました。編集さんに提案したときは「何それ、ダジャレじゃん!」って笑われました(笑)。
―タイトルが先にあって“暢”という名前になったのかと思っていました!
愛称が先でした! 千鳥のノブさんの目にこの作品がとまってくれないかなってずっと思っています(笑)。
―そんな暢を描く上で大事にしていたことを教えてください。
暢は、私の化身のような存在。私も暢も、理不尽なことがあっても、怒りより悲しいという感情が勝ってしまうようなタイプなんです。浮気されても、“裏切られた”という気持ちよりも“自分にいたらないところがあったのでは”とウジウジしちゃうタイプ。
客観的にみるとそういう人ってイライラされるんでしょうけど、意外と多いタイプなのかなと思っています。そういう優しい人が傷つく描写をしないと“された側”の気持ちは伝わらないかなと思いながら描いていました。
藍子は読者からずっと嫌われていました(笑)
―暢の妻で“不倫した側”となる藍子についても教えてください。
藍子の名前は、暢に自分がしたことへのしっぺ返しを物語後半でくらわそうと最初から決めていました。いつかこの人も“された側のブルー”になるという伏線も込めて、名前を藍子にしました。
性格面では私の真逆の自己肯定感の強い都会の女をイメージしながら。藍子というキャラクターは担当編集さんにインスパイアされた部分があります(笑)。担当編集さんが藍子みたいなことをしている、というわけではなくて。考え方が羨ましいくらいに強いんですよ。
暢と藍子の離婚が進む中で、藍子が「2人の共有財産だからマンションはもらう」と、とんでもないことを言い出すんですけど、それは担当さんとの打ち合わせがあったからこそ生まれたセリフです。担当さんいわく「浮気したのは暢のせいでもあるし、だったら半分もらう権利はあるよね」と言い出して(笑)。やべぇ人って面白いよなぁ〜と思いながら、掘り下げて描いていったのが藍子でした。
―藍子への読者からの反響はどのようなものが多かったですか?
前半はもうずっと嫌われてしかいなかったですね(笑)。物語が進んで藍子にもいろんなことが起こる中で「もう助けてあげて!」という感想コメントも出てきたんですけど、それでも「藍子を許すなー!」という人が圧倒的だったので、基本的にはずっと嫌われています(笑)。たぶん、『水戸黄門』でいうところの成敗するべき悪のような存在が藍子だったんだと思います。
―セモト先生自身と似ている暢と正反対の藍子。やっぱり暢が傷つくシーンは描いていてつらい気持ちにもなるものでしょうか。
そうですね。でも暢を描いているときよりも、藍子を描いているときのほうが具合が悪かったですね。描いているときは藍子に感情移入しながらというか、藍子を自分に憑依させながら描いていくので、自分とはちがう人格を入れることへの拒絶反応がすごくて。
なので、作中で藍子がイキイキすればするほど、しんどかった……! “なんで私はこんなヤツを描いているんだ”と思っていました(笑)。
―コミックス1巻に収録されているエピソードの中で思い入れの強いシーンを教えてください。
6話での藍子と不倫相手のかーくん(森和正)とのLINEのやりとり。不倫相手とSEXをした後に、“旦那とも(SEXを)しろよ”という内容のLINEを送られているんですけど、これは知人のされ夫さんから聞いた実話です。もし妊娠したとしてもどっちの子かわからないようにしてるっていう……めちゃくちゃ怖いですよね。
藍子と暢はSEXができずに終わったんですが、読者のみなさんからめちゃくちゃ喜ばれたのが印象深いです。性交渉が失敗してあんなにも盛り上がった作品はないんじゃないかなと思うほど(笑)。私は、友達との会話で話題にのぼるような漫画を描きたかったので、この回の反響の大きさはうれしかったです!
“漫画は楽しむべきもの”だからこそ大事にしたこと
―連載が始まった段階ではどのくらいまで展開を考えられていたんでしょうか。
離婚が成立するところまでは、おおよその流れを考えていました。“ここでラブホに入るところを目撃”とか“全裸クローゼット”とか、展開的にキャッチーになる部分を計画的に盛り込みながら、小説のように文章で書き出していく進め方です!
―いろんな感想が先生のもとには届いていたと思います。読者からの意見で変わった展開はありますか?
それはしないように心がけていました。自分の描きたい道筋と結末がブレないようにはしたかったので。
―この作品を描く上で大事にしていたことは?
笑いの要素を混ぜ込むこと。憂鬱な展開の中でもツッコミっぽく心情を入れてみたり、笑いをちりばめたりすることを大事にしていましたし、それがあったからこそ落ち込みながらも描き続けることができました。私個人の意見ですが、“漫画は楽しむべきものだ”っていうのが根底にあるので。暗い展開になりすぎないように、笑いのバランスは大事にしていました。
―最終回を描き終えて、今の率直な気持ちをお願いします。
一か月ほど前に描き終えましたが、今は完全に新作モードです! 自分でも意外とロスがなく驚いていますね。この作品は毎週金曜日が更新日だったのですが、読者のみなさんが「毎週金曜日が楽しみです!」と言ってくださることが多くて。
私の中で“最終回後にみなさんを悲しませないように、はやく次を届けなくちゃ!”という意識が強く芽生えています。自分でもビックリするほど仕事熱心でした(笑)。
―ちなみに次回作はどんな内容ですか?
ドロドロです(笑)! ドロドロ、トレンディ、そしてジェットコースター! そんな作品になるように絶賛頑張り中です! 楽しみにしていてください!
―先生がマンガを読むのはどんな時間ですか?
マンガ家なので勉強という意味でも読みますし、もちろんエンタメとして楽しむ気持ちも大きいですし、いろんな意味で脳への栄養分摂取のような時間。鬱々とした時代だからこそ、マンガというエンタメは必要不可欠だなと思います。
―先生自身の“欠かせない1冊”は?
むずかしい〜! 家に何万冊とマンガがあるので、作品をしぼるのがむずかしいのですが……『るろうに剣心』かな。特に瀬田宗次郎が大好きです。宗次郎は最後の戦いを終えても自分の中で人生の答えが出ず、答え探しの旅に出るところで終わるんですが、そこがいい!
私は今もなお、宗次郎と一緒に答え探しの旅をしている気分でいます。人生は自分を探す終わりのない旅だということを、私に教えてくれた作品です。
セモトちか先生から直筆メッセージ!
貴重なお話をありがとうございました!
取材・文/上村祐子