テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』の大江麻理子キャスターがセレクトした“働く30代女性が今知っておくべきニュースキーワード”を自身の視点から解説する連載。第14回目は、バイラ読者の日常にも欠かすことのできないスマホやパソコンなどの電子機器にも入っている「半導体」について、大江さんと一緒に学びます。
今月のKeyword【半導体不足】
はんどうたいぶそく▶半導体とは、スマートフォンやパソコン、自動車、家電などあらゆる電子機器の制御のために用いられる電子部品で、交通や通信などの社会インフラを支えるためにも利用されている。現在、米中貿易摩擦やコロナ禍での需要の変化などの複合的な要因により世界的な半導体の供給不足となっている。
バイラ読者96人にアンケート
現在、世界で半導体が不足していることを知っていますか
はい 29%
いいえ 71%
認知度は低め。「半導体と自分の生活に接点がない」「家電量販店で新作家電が売られているので実感がわかない」など半導体不足を身近に感じていない人が多数。中には「システム部門にいて半導体不足により社内無線LANの納期が数カ月遅れ困った」という人も
新型コロナウイルス感染拡大以降、パソコンやスマホなどのIT機器を購入しましたか
はい 30%
いいえ 70%
テレワークの用途が多く「在宅時の仕事用にパソコンを追加購入した」「オンライン会議向けのイヤフォンを新調」などの声が。コロナ禍で家電を購入した人も約3割。「おうち時間を充実させたいと思い、ロボット掃除機を購入」などIoT家電を買った声も聞かれた
「産業のコメと呼ばれる半導体。不足には複雑な背景がある」
『WBS』でも報じられる機会が多い半導体不足のニュース。
「半導体はあらゆる電子機器に入っていて、産業のコメと呼ばれるくらい重要なものです。その世界的な不足に伴い、半導体を使う製品の生産にも影響が出ています」と大江さん。読者からは「半導体が何の部品かイメージするのが難しい」という声が。
「たとえばスマートフォンやパソコン、自動車、エアコン、洗濯機、冷蔵庫など、私たちが使っている電子機器にはまず半導体が入っているんですね。社会インフラを支える通信システムなどにも利用されています。すべてがネットワークにつながるIoT(モノのインターネット)時代の今、半導体は生活になくてはならない存在になっています」
なぜ半導体不足が生じたのですか。
「様々な要素が複合的に絡んでいるのですが、大きく三つの要因があります。まず米中対立による影響です。米中の貿易摩擦の一環で、米国が中国に対して米国で設計、製造した半導体の輸出を制限しました。その影響が世界に及んだと言われています。二つ目が新型コロナウイルスの感染拡大による人々の需要の変化です。テレワークや巣ごもり生活によりIT機器や家電の需要が高まり、その後に自動車の需要が急回復したことが半導体不足に拍車をかけました。三つ目に、社会インフラなどに使われる収益性の高い高性能な半導体のニーズが高まり、今不足している比較的シンプルな半導体の供給に対応できていないとの見方もあります」
最も影響を受けたのは自動車産業。
「家電メーカーがコロナ禍の需要増を見越して半導体の調達に動いた一方で、自動車メーカーは需要減を見込み半導体の注文を縮小。ところが自動車の需要が一度減ったあとに急回復したため、深刻な半導体不足に陥りました。半導体工場の火災なども重なり、世界の自動車メーカーで自動車の生産が滞っています」
「日本の半導体産業の地位は国際シェアトップから下り坂に」
半導体産業における日本の存在感は様変わりしていると大江さん。
「経済産業省資料『半導体・デジタル産業戦略の方向性』(2021年3月)によると、日本の半導体産業の国際シェアは1988年には50・3%で世界トップでした。ところが1990年代以降その地位が低下し、2019年のトップは米国で50・7%、日本は10%に落ち込んでいます。半導体は巨大な設備投資が必要な産業です。この数十年で高性能化した半導体の進歩に日本企業は投資の体力面で追いつけなかったということなのだと思います」
世界の国や地域では、半導体・デジタル産業を支援する政策がスタート。
「前述の資料で、米国、欧州、中国、台湾の政府がそれぞれ巨額の投資を行って支援していることがわかります。日本でも今年3月から半導体・デジタル産業戦略検討会議が開かれ、国として支えていく必要についての議論が始まったところです」
読者の生活には半導体不足によるどんな影響がありますか?
「やはりいちばん顕著なのは自動車の購入でしょうか。自動車を買ってもなかなかおうちに届かない状況がしばらくは続きそうです。今後、5G対応用スマートフォン端末の生産量に影響する可能性もありますね。半導体不足とワードだけを聞くと一見、自分とあまり関係がないように思う人もいるかもしれませんが、身のまわりにたくさんあって、国際情勢も絡んでいる。今回のキーワードは、そんなニュースと自分のつながりに思いを馳せていただけたらと思って選びました」
大江麻理子
おおえ まりこ●テレビ東京報道局ニュースセンターキャスター。2001年入社。アナウンサーとして幅広い番組にて活躍後、’13年にニューヨーク支局に赴任。’14年春から『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のメインキャスターを務める。
撮影/中田陽子〈MAETTICO〉 取材・原文/佐久間知子 構成/松井友里〈BAILA〉 ※BAILA2021年7月号掲載