SNSが普及して、誰でも簡単に発信者になれる今、世の中には陰謀論やデマなど不確かな情報がいっぱい。「いったい何を信じればいいの?」という読者の声にプロのジャーナリストが情報との向き合い方をレクチャー。
1. BLILA読者184人に「現在の”情報”に対する不安」について聞きました
Q ニュースや情報について、信じてよいのか不安に思ったり、困った経験はありますか?
YES 60%
NO 40%
6割が不安を感じた経験あり。「コロナ禍で人と話す機会が減り情報に対する心配が増した」という人の一方で、「家族間で信じていることが違って会話が難しい」という人まで悩みは様々
「自分が見たり聞いたりしているものの中で何が真実で何がフェイクなのかわからず不安を感じ、またフェイクニュースに振り回されている人たちを見ているのもストレスに感じました」(40歳・会社員 医療関係)
「コロナやウクライナ戦争など、TVから情報を得ることも多かったが、一方でTVの情報はときに、リアルな情報ではなくTV局が都合のいい部分にフォーカスして報道されているような気がする」(30歳・通信事業会社、法人営業)
コロナウイルスについて医師や専門家を自称しているアカウントの発言に混乱した。そもそも本当に専門家なのか、発言している内容が正しいのか判断できないので発言をうのみにしないように気をつけているけど、知らずしらずのうちにフェイクニュースを信じてしまっているのではないかと不安になる(32歳・製造業事務)
なんとなく。コメンテーターさんが毎日出てると、逆に不安(39歳・管理栄養士)
様々な人が情報発信をしやすくなり、取捨選択が難しい。特にコロナ関連の情報は不安をあおるものも多く、どこまで信じるかを自分で判断しなければならないと感じる(33歳・インテリアコーディネーター)
Q 普段ニュースは何でチェックすることが多いですか?
TVの報道番組やポータルサイトから情報を得ている人が多数。その他はニュースアプリや新聞社サイトなど。「忙しくてニュースを精査する時間がなかなかとれない」との声も
読者アンケートの結果からうかがえるのは、新型コロナやウクライナ情勢を中心に、現在の"情報"に対する不安。インターネットを中心に出所不明の誤情報が拡散されたり、ニュース番組での専門家の異なる意見に戸惑うなど、総じて「様々な情報が飛び交うなかでどれを信じていいかわからない」という声が多い。
2. プロはどうしてる?情報力を高めるDo&Don’t
ジャーナリスト佐々木俊尚さんに聞く!情報力を高めるDo&Don’t
ジャーナリスト
佐々木俊尚さん
テクノロジーから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く発信し、日本のインターネット論壇における最強の論客の一人。「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を日本社会に広めたことでも知られる。総務省情報通信白書編集委員。情報ネットワーク法学会員。
「良質な情報を手にするには“共感より信頼感”という視点の切り替えを」
信頼できる情報を得るには時間的なコストや手間がかかる
「確かな情報は何から得たらいいですか?」という読者の方からの質問がありましたが、“真実はひとつ”ではないし、残念ながらそう簡単な話ではありません。情報量が飛躍的に増えた今、不確かな情報も多く、事実は確かでも認識が違うケースもあり、ひとつの情報だけでは信頼できるかどうかの判断が難しい。まずは、情報の経路を複数持つことです。その上で僕は、気になった記事はツイッターでURL検索します。記事に対するほかの人々の反応や評価を通すことで、信憑性が判断できる。最近では、専門家の情報でも疑わしいケースがありますよね。そこで、専門家同士のSNSのつながりを見るようにすると、そのコミュニティでの信頼度が見えてきます。強い言葉を使っている、複雑なことを単純に説明しすぎているなど、明らかに信頼に値しない情報に触れないことも大事です。
“中立な報道”を求める人も多いですが、中立はそもそも存在せず、多様な視点を提示してくれる報道が理想的だと僕は考えています。一つの視点だけを提示してこうだと言い切られると、聞いているほうは気持ちがいいですが、それは全体像ではありません。たとえばウクライナ侵攻に関してならば、ウクライナからとロシアからの見方、NATOは、アメリカは、日本は、さらに歴史的見解はと、様々な見方を総合的に教えてくれることにより理解が広がるわけです。本当の『知る』とは、ひとつの出来事について多くの視点を獲得し、様々な角度から見ることだと僕は常に肝に銘じています。
コミュ力が高く、友人を大事にする人ほどハマる落とし穴も
不確かな情報がSNSの人間関係を経由して入ってくることも皆さんにとって深刻な問題ではないでしょうか。注意すべきは、人間関係と情報を得る場所を分けることです。コミュ力が高く、友人を大事にする人ほどSNSから得る情報を無下にできない落とし穴も。「〇〇さんが言ってるんだから」と関係性から情報の信頼度を判断するのは要注意。さらに、「かわいそう」や「許せない!」など、ニュースには人の感情を呼び起こす力がありますが、情報を共感できるかどうかでとらえると、世界がゆがんで見えてしまう危険性があります。今は、人々の注目を集める情報が経済的価値を持つ時代でもあり、関心を引くために感情を喚起させるニュースが本当に多いんです。でも、感情が動くことと情報の信頼度には何の関係もありません。良質な情報を得るには「共感より信頼感が大事」という視点の切り替えを覚えておくといいですね。
Do (情報力を高めるためにするといいこと)
☑ 情報の経路を複数持つ
☑ 情報をうのみにせず人々の評価を通す
☑ 専門家の信頼性はSNSの関係から測る
☑ 人間関係用と情報を得るSNSを分ける
Don't(情報力を高めるために気をつけるべきこと)
☑ 「正体」や「真実」など強い言葉を使っている情報に近寄らない
☑ 「ここだけの話」という言葉を信用しない
☑ 単純明快すぎる説明をうのみにしない
☑ ニュースの信憑性を感情で測らない
情報力を高める本やアプリ
『読む力 最新スキル大全』
佐々木俊尚著 東洋経済新報社 1760円 スマホ時代に必要なネット・SNS・ニュースなどの読み方をアップデートできる一冊。「僕が実践しているすべてを書き尽くしました」(佐々木さん)
『思考の整理学』
外山滋比古著 ちくま文庫 572円 独自の思考のエッセンスが綴られた思考の入門書。「時代により変わる情報の取り方とは対照的に、今も昔も変わらないものの見方を考える名著です」
DeepL
最先端のAI技術によりハイレベルな翻訳精度を実現する機械翻訳サービス。無料版と有料版がある。「日本のメディアにはない視点を提示してくれる海外の記事を読むのに役立ちます」
Pocket
気になる記事やニュースを保存して、あとでまとめて読むことができる無料アプリ。「僕は記事の見出しを読むのと本文をじっくり読むのとは別の時間に行うので、このアプリが重宝」
ジャーナリスト古田大輔さんに聞く!情報力を高めるDo&Don’t
ジャーナリスト
古田大輔さん
朝日新聞に入社後、海外特派員やデジタル版の編集を経て、2015年に退社し、「BuzzFeed」の日本版創刊編集長に就任。3年で国内有数のネットメディアに。2019年に独立し(株)メディアコラボを設立。2020年にGoogleNews Lab Teaching Fellowに就任。ファクトチェックの指導なども行う
「自分や世の中をよくするために“優しさ”を持って情報を扱う習慣を」
不安を感じるのは当然。まずは自分の情報収集のクセを見直す
アンケートの「どの情報を信じていいか不安」という声にまず「僕も不安です」とお伝えしたいです。情報がネット上に爆発的に増えた今、噓が混じったニュースを目にせずに生きていくことは不可能ですから。ただ、ネットで大量に情報を得られることには便利な面もたくさんある。マイナス面に注意しながら活用する対応が基本だと思います。
おすすめしたいのは、自分の情報収集の習慣を確認すること。皆さんは一日何分ニュースを見ていますか?芸能やスポーツではなく、政治や経済、社会問題に関するニュースです。もし一日5分しかニュースを見ていないとしたら、たとえば自分の将来のキャリアをどう選択するのか。会社や業界の将来性や社会全体の変化など、やはり情報が必要ですよね。仕事に限らず、日々何かを判断するその価値判断は、その人が生まれてから手に入れてきた情報がもとになっている。そう考えると、より良質な情報をより多く調べておいたほうがよりよい判断ができる可能性が高い。ですから自分の情報収集のクセを見て、それを改善していく方法を考えるのがいいと思います。
不確かな情報を避けるための最初の注意点は、発信元の確認です。発信元がわからないSNSの情報の真偽を自分で確認するのは大変なので、基本的には信じないほうがいい。また、検索サイトの検索結果の上位には信頼性が高いというより、探している情報について“関連性が強い”情報が出てくる特性があることも覚えておいてください。たとえば「コロナ 本当のこと」は危険な検索ワードのひとつ。フェイクニュースを作成する側が使いやすい言葉で、検索するとデマや陰謀論が検索結果の上位に出てくる危険性が高い。いずれにせよ一回の検索結果だけで判断しないことが大事です。
完璧な情報を求めすぎず負の感情を生む情報から離れる
まじめな人が陥りやすいのが、実は完璧な情報を求めすぎてしまうこと。少しの間違いや偏りもない情報を探し続けて、陰謀論にハマってしまう事例も珍しくないんです。完璧なメディアは今は存在しません。人間だから間違いもある前提で、比較的よい情報を探す感覚を持ちましょう。
最後に、、情報を扱うときに最も重要なのは「優しさ」だと僕は思っています。だからもし、あるニュースによって怒りなど負の感情があおられたり、一方的に誰かを批判しそうになったら、その情報源から離れるサイン。情報を得る目的は、自分や世の中がよくなるためと心に留めておきたいですね。
Do (情報力を高めるためにするといいこと)
☑ 自分の情報収集のクセを改善する
☑ 情報の発信元を確認する
☑ 質の高いニュースや情報に毎日触れる習慣をつける
☑ 怒りなど、負の感情が高まるなら、その情報に触れないよう注意する
Don't(情報力を高めるために気をつけるべきこと)
☑ ネットで情報を見てすぐシェアやいいねボタンを押さない
☑ 一度の検索結果だけで判断しない
☑ 専門家という肩書だけで信用しない
☑ 完璧な情報を求めすぎない
情報力を高める本やアプリ
『メディアリテラシー 吟味思考 (クリティカルシンキング)を育む』
坂本旬・山脇岳志著 時事通信出版局 2750円 “1 億総メディア社会”を生き抜くためのスキルを育む一冊。「情報を精査することはどういうことかが網羅的に扱われています」(古田さん)
NHKニュース・防災
NHKが取材した社会、災害、政治、ビジネス、地域、天気予報などの最新ニュースやライブ配信が届く無料アプリ。「ニュースを毎日見る習慣を身につける第一歩としておすすめです」
日本経済新聞 電子版
朝刊・夕刊の掲載ニュースに加えて、オリジナル記事が満載。1カ月の無料期間終了後から月額4300円。「毎日約200本の日本と世界で起こったニュースがセレクトされて届くのが魅力」
Substack Reader
アメリカ発の定期購読形式のニュースレター配信オンラインサービス。「英語のサービスですが、今ニュースレターが世界で注目され、興味のある分野の情報を見つけるのに有効です」
3. フェイクニュースお悩み相談Q&A
Q ネットに多い陰謀論やフェイクニュースの真偽の判断ができません。真偽を区別する方法はありますか?
A 発信元のURLを確認する。信頼度を評価するサービスも
「まずは発信元のURLの確認を。見たこともないサイトの話をいきなり信じるのはリスクです。より専門的に調べたい場合は、英語圏のサイトでNewsGuardという正確性や透明性などの観点からニュースサイトを判定している有料サービスがあり僕はそれを使っています」(古田さん)
A 視聴数やリツイート数は信頼度が高いこととは関係ない
「強い言葉や感情をあおるものはまず見ないほうがいいです。仮に100万回再生された動画だとしても日本人の100人に一人。ツイッターでは過激なことを言えばリツイートされやすいですが、それでも何万程度。視聴数が多い=正義ではないと冷静に判断しましょう」(佐々木さん)
Q SNSやYouTubeなどの「おすすめ」の自動表示により、知らないうちに自分と同じ価値観の偏った情報ばかりを見てしまうことになるって本当ですか?
A エコーチェンバーといわれ、情報が偏る危険性が高いです
「同じような信念や考えを持つ人たちが閉鎖的な場所に集まると、お互いに共感しあうことにより、ひとつの信念だけがどんどん増幅されてしまうことをエコーチェンバーといい、その典型的な状況ですね。それを避けるには情報を複数経路から得ることが大切です」(佐々木さん)
A アルゴリズムのリコメンドの二面性を知った上で活用を
「プラットフォーム側は、利用頻度を上げるためにアルゴリズムを駆使して、ユーザーごとに表示内容を最適化しています。それは見たいものがおすすめされる一方、情報が偏る危険性も。ひとつの意見を信じ込むのではなく、多様な意見を見るバランス感覚が重要です」(古田さん)
Q ツイッターで友人が投稿していた不確かな情報をリツイートして拡散してしまいました。その後、事実に気づいて削除しましたが、どのように訂正するのがよいですか?
A 情報のレベル感により対応を。削除で一定の責任は果たしている
「プロのジャーナリストや公式アカウントの場合ならしっかりした謝罪が必要ですが、皆さんが普段使っているなかでちょっと間違ったくらいであれば、そこまで自分を追い詰める必要はないと思います。投稿をリツイートした友人がいたら、ごめんねと個別に連絡を」(古田さん)
A 削除したら訂正しなくていい。これからはしないよう心がけを
「ツイッターにおける話題はどんどん流れていってしまうので、削除したのであれば今は消えているわけだから気にしないでいいと思います。ツイッターの炎上の持続期間は年々短くなっているように感じます。これからはしないように気をつければ大丈夫ですよ」(佐々木さん)
Q 父親が「専門家」や「有名人」の話なら、過激な内容でも簡単に信じてしまい心配です。同意を求められると家族間の会話がギクシャクして困っています
A 説得しようとせずに、どうして信じているのかを聞き対話する
「何かを信じている人に『間違ってますよ』と説得すると、過ちを認めることはその人の自尊心が傷つくので反論される可能性大。まずは『その専門家はどこで話してたの?どうしてその専門家の言うことが正しいと思ったの?』と対話して聞いていくことから始めてみては」(古田さん)
A 世代的にも止めるのは困難。反対側の意見を見せる方法も
「読者の親世代は、マスメディア全盛期に中年を送ってきたため、メディアの情報を信じやすい特徴が。本人が信じ込んでいる場合、周囲が止めるのは難しいと思います。予兆を感じるくらいの時期なら、反対意見の専門家を見せて反応を見てもいいかもしれません」(佐々木さん)
Q 同じ会社の仲のいい先輩が、最近SNSで科学的根拠のないスピリチュアル系の偏った投稿を繰り返していて、戸惑っています。どうやってうまくつきあっていけばよいでしょうか?
A その人が信じているだけならそういう考えもあると思えばいい
「神の存在を信じている人は世に多くいますし、科学的根拠がないことを信じてはいけないわけはないので、平和に信じているだけなら『そういう考えの人もいる』と思えばいいかもしれません。会社でその話題をされて苦痛な場合は、興味がないと伝えてよいと思います」(古田さん)
A 人間関係は維持しつつ、SNSの投稿のみ見ない方法も
「気になるならば、相手に通知がいかないかたちでSNSのフォローを外したりミュートをして投稿が目に入らないようにするのが穏やかな方法かなと思います。多様性といいながら価値観が一様化していないかを自分自身にも問い、様々な視点で物事を見ることも忘れずに」(佐々木さん)
取材・原文/佐久間知子 ※BAILA2022年8月号掲載