学び方にはいろんな種類があるものの、いちばん手軽にスタートできるのは読書。「社会のしくみ」はネットだけでなく本から学んでみることも大切。 私たちが生きているこの世の中について、新たな視点や示唆が得られる本を5人の識者がチョイス!
鈴木美波さん
本と編集の総合企業「SPBS」の企画・PR担当。現在は主に「“編集”を通して世の中を面白くする遊びと学びのラボラトリー」、SPBS THE SCHOOLの講座企画を手がける。
江南亜美子さん
書評家。京都芸術大学講師。日本の純文学と翻訳文芸への造詣が深い。本誌の書評連載をはじめ、新聞、文芸誌などで執筆。共著に『世界の8大文学賞』。
森岡督行さん
書店経営者、文筆家。神保町の古書店勤務を経て、2006年に「森岡書店」を開業。『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』『荒野の古本屋』など本にまつわる著書は多数。
武田砂鉄さん
ライター。出版社勤務を経て現職に。2015年に出版した初めての著著『紋切型社会』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。『コンプレックス文化論』が発売中。
花田菜々子さん
「HMV & BOOKS HIBIYA CO TTAGE」店長。作家。近著は『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』。
「自分ならどうする?」良質な問いをくれる
『いくつもの月曜日』
Lobsterr著 Lobsterr
著者は世界的なトピックを扱うメディアに目を光らせている、ビジネスデザイナー、ストラテジックデザイナー、編集者の3人。短いエッセイがまとまった一冊で、現代ならではのソーシャルイシューや日々の小さな気づきをもとにしつつも、社会の一般的なことを論じるのではなく、個人的な心の動きを、丁寧な言葉にしているのが心地よいです。「自分ならどのように考える?」と、良質な問いかけを与えてくれる作品。(鈴木美波さん)
人との関わりから動く社会がある
『ボクの音楽武者修行』
小澤征爾著 新潮文庫
小澤征爾さんの青春伝。指揮者になりたいと思った24歳の彼が、「その音楽の生まれた土地、そこに住んでいる人間をじかに知りたい」とヨーロッパへ。なんとバイクを乗せて、船で向かいます。そして飛び込みでカラヤンやバーンスタインなど時代を代表する音楽家と知り合うことに。ひとつの出会いから人生を発展させること。決断や冒険の大切さ。実はそこに社会の仕組みを読み取ることができるのではないでしょうか。(森岡督行さん)
気づいたら美しいと感じている
『人はなぜ「美しい」がわかるのか』
橋本治著 ちくま新書
感性というものは人それぞれですし、個人の中でどんどん変化していくものなのに、「今はこういうことになっているんだから、これがわからないのはよくないよ!」と外から押しつけられるようなことって、よくあります。たとえば、何を「美しい」と感じるかって、その都度変わるもの。気づいたら美しいと思っていた、そういう毎日の繰り返しが自分と社会の接点をつくり続けるのだから、それを奪われたくありません。(武田砂鉄さん)
現代の「理想の社会」なのかもしれない!?
『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』
ヤニス・バルファキス著 江口泰子訳 講談社
SFの形式をとった経済書。主人公は、金融危機を境に資本主義をやめたパラレルワールドの住人とのコンタクトに成功。その社会では企業に入ると一人一株制で経営に携わる。基本給は同じ。同僚の相互評価でボーナスあり。国民全員にベーシックインカムが給付される――。自由を尊重する権利が守られつつ、今の強欲な資本主義を超越する方法を著者は夢見る。この小説から、社会の理想の種を見つけることはできます。(江南亜美子さん)
男性中心主義の現実を観察
『マチズモを削り取れ』
武田砂鉄著 集英社
「マチズモ」という、要はちょっとマッチョな感じ、男性中心の世界観に焦点を当てています。甲子園を目指す野球部と女子マネージャーについての世間の見方や、高級寿司屋のカウンターって男社会そのものなのではなど。問題提起から取材、著者の考察やエピソードの量が豊富。ネットでは味わえない「理解」にたどり着けます。男尊女卑に憤る人はもちろん、女性の怒りがいまいちピンとこない人にも読んでもらいたいです。(花田菜々子さん)
撮影/kimyongduck 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2022年2月号掲載