会社でも後輩ができて叱る立場にもなり始めるバイラ世代。でも響いてくれなかったり、叱ること自体が不得意だったりと苦手意識のある人も多数。そんな悩める読者にコーチングのプロ・齋藤直美さんが「本当の叱り」をお答えします。
1.叱り方に悩んでます
叱り悩み1
優しいと響かない、キツいと傷つける。どうすればいいの!? A美さん(IT関連・32歳)
「後輩のAくんは、打ち合わせや会議に必ず数分遅れる遅刻の常習犯。遅れるたびに注意はするものの、なかなか響いてくれなくて、直る気配ナシ。先日も大事な社内会議に遅刻したので、さすがにキツく言わないと、と強めに叱ったのですが、ものすごく落ち込んでしまって……。傷つけたいわけじゃないんだけど、どうすればよかったの!?」
後輩アンケート Q あなたの上司は叱り上手?
上司の叱り方は?
1位 感情的
2位 叱るより怒る
3位 はっきり言わない
感情的な叱りは NO!
叱り悩み2
気が弱くて、人を叱れません…誰かに任せてもいい? B香さん(金融業・34歳)
「子どもの頃から争いごとや言い合いが苦手で人を叱った経験がない私。後輩B子さんの初めての得意先回りに指導係として同行したときも、あまりにも失礼な態度ばかりだったので、さすがに叱らなきゃ、と声をかけたけど、強気な返事にけおされて結局叱れませんでした……。叱るのは、得意な人に任せてしまってもよいでしょうか?」
上司アンケート Q叱ることを躊躇したことは?
後輩アンケート Q よかった叱りは?
1位 話が具体的で的確
2位 冷静
3位 アドバイスが的確
後輩は…納得できる叱り方を求めている!
2.叱り方4つの正解
「怒る・反省させる」ではなく「成長のためのアドバイス」
うまく叱れなかったり、叱ることが苦手だったり……。コーチングを学び数々の企業の社員教育に携わってきた「叱り方のプロ」齋藤さんいわく、その原因は「『叱る=とがめる』と思っている」から。「叱ることが苦手な人は、ときにはイライラや感情ものせて『強く言って相手をとがめること』を『叱る』と認識している人がほとんど。特にそういう理不尽な叱りにも耐えて頑張ってきたバイラ世代は、『自
分もそうしなきゃ』と思ってしまっています。自分がつらかったからこそ、相手が傷つかないか躊躇してしまったり、同じようにキツく言ってしまったり。でも本来、『叱る』とは相手を反省・謝罪させることではなく、相手がよりよくなるための改善を促すこと。正しく理解できれば苦手意識も変わるはずです」
では正しい叱り方とは?
「まず相手の心を変えようと思ってはダメで、あくまで“行動”の改善にフォーカスすることが大切。その上で、下の4つを実践してみてください。つい感情的に間違った叱りをしてしまっても、いったん冷静になった頃に『さっきはごめん』とやり直せばOK。練習あるのみです!」
正解1 叱る=とがめるではない! 叱るとは行動改善の提案
叱ることのゴールは反省や謝罪にあらず!
「部下がミス・失敗したときに反省・謝罪をさせると叱る側の気持ちはスッキリするかもしれません。でもそれでは何も解決しないまま同じミスが起こり、また叱る側はイライラ、の繰り返しに。本来の目的は『その失敗をしない組織に成長させる』ことのはず。部下の考え方や行動に対して具体的なアドバイスを与えて成長の機会を与えることが『叱る』ことです。もう一度、目的に立ち返ってみて」
✖
「何やってるの!」
「そうじゃないでしょ!」
・反省・謝罪をさせたい
・イライラをぶつける
・自分に迷惑がかかりたくない
○
「○○したらどうかな」
「○○にしてみようよ」
・考え方や行動の是正
・部下の成長が目的
正解2 内面を叱るのは問題外! 叱るのはあくまで「行動」
性格や価値観は尊重すべきこと。改善してほしい行動の話をして
「『こんなこともできないの』『向いてないんじゃない』など、内面に響いてほしくて強い言葉でセンスや価値観・能力を叱る。これはただただ人を傷つけるハラスメント・人格否定で、絶対にNG。その人を形成したバックボーンは、むしろ認めてあげるべき部分です。『これはこうすべきだった』など、あくまで結果や行動にだけフォーカスして」
✖ やってはいけない内面の否定
「だからダメなんだよ」【存在の否定】
「こんなこともできないの」【能力の否定】
「向いてないよ」【可能性の否定】
「何を教わってきたの」【バックグラウンドの否定】
○ 叱るのは行動
・行動
・結果
・発言
正解3 「アメとムチ」はその場しのぎ「やりがい」を与える
✖ アメとムチ型
「今度やったらチーム外すよ」
「できなかったら残業だよ」
苦痛でコントロール
・長続きしない
・後ろ向きなモチベーション
「『罰やご褒美で人を動かす=『恐怖がモチベーション』。即効性はあるものの、与え続けねばならず、また根本的な解決になっていないので問題も再発。達成見込みがないとわかった途端、努力をしなくなる人も」
○ やりがい型
「こうすればうまくいくよ 」
「次はこうしてみたら 」
喜びでコントロール
・納得→成功の充実感
・積極的な変化
「正しいチーム作りに必要なのは、充実感・達成感などやりがいを味わえる環境をつくってあげること。未来志向の具体的なアドバイスは、相手が納得して行動できるので、積極的に改善しようとするよいサイクルに」
正解4 YOUメッセージではなくIメッセージで伝える
✖ YOUメッセージ
「○○さんは“いつも”遅刻するよね」
「〇〇さんはたるんでるよ」
個人的主観で決めつけ
・相手の事情を考えない
・部下は失望
「『あなたは○○』と自分の主観で決めつけると、部下は『この人は理解してくれない』と心を閉ざします。『なんでできないの』も隠れた主語はYOU。責める気持ちになっていないか、叱る前に主語を確認して」
○ Iメッセージ
「私は○○さんが遅刻して残念に思うよ 」
客観的事実を伝える
・「そう見えていたのか」と省みる余裕がある
「主語を“I”にすれば同じことを伝えても責めている印象が和らぎ、相手に行動の改善を促すことができます。ただし責める気持ちが残っていると『私がカバーしなきゃ』など嫌みな“I”メッセージになるので注意して」
3.8つの間違った叱り方をチェック!
【間違い叱り1】人前で叱る
✖「何やってるの!」
○「心に届く時と場所を選ぶ」
一対一になれる場所で会話を
「叱るときは、相手が話を受け止めやすい場所を選んで。人前での叱りはプライドを傷つけるので、一対一になれる場所がベスト。話は寝かせるよりその場で伝えると響きやすいですが、相手に心の余裕がなさそうなときはカフェに移動したり、翌日に改めたり、時間と場所を変え言葉が届く環境をつくって」
「人前での叱りは本人が傷つくだけでなく、それを見ている職場全体の雰囲気も悪くなり、チームの士気が下がります」
【間違い叱り2】抽象的な言葉
✖「ちゃんとやって」「もっとしっかり」
○「これくらいにして」「ここまでやって」
具体的な目安を明確に
「『もっと』『しっかり』『ちゃんと』など使いがちなフレーズだけど、人によって基準が違う曖昧な言葉。相手の『しっかり』があなたが期待している基準に達していなくてまた叱る、の繰り返しではお互いにストレスに。『ここまでやって』など具体的に明確に伝えることが大事です」
【間違い叱り3】言い訳を封じる
✖ ・話をさえぎる
・事情を聞かない
○ 相手のターンをつくる
叱りの初手は「傾聴」!
「ミスをした人にもその結果に至った理由や事情があるはず。要望を伝えるときは、まず相手の話に耳を傾けることが大切。最後までじっくり聞きましょう。途中で『いやそれは』『そうじゃなくて』とさえぎるのは絶対にNG。『この人はわかってくれない!』と相手側もアドバイスを聞く耳を持たなくなってしまいます」
「感情的なときほど、言いたい気持ちが先行して相手の言葉にかぶせてしまうもの。相手の文の最後まで聞くよう意識して」
【間違い叱り4】過去を蒸しかえす
✖「この前の件もそうだけど」
○「これからどうすればいいかな」
1叱り1ネタまで
「ヒートアップすると『この前もさ……』など過去の件も蒸し返しがち。相手はどうしていいかわからないし叱りの要点もボヤけるので、叱るときは1ネタまでに。むしろ『今後どうすれば改善できるか』未来について話し合いましょう」
【間違い叱り5】大声・乱暴な言葉
✖「キミのせいで台なしだ!」
○「期待していたから残念に思ってる」
大声&暴言は効果なし
「怒りや感情に任せての大声や暴言は相手にとって威嚇や脅しと同じ、パワハラです。相手も萎縮してまったくの逆効果。怒りの感情が芽生えたときは『なぜその感情になったか』の原因に目を向けて。『期待していたのにダメだったからガッカリしている』のであればそれを伝えると冷静に叱れます」
【間違い叱り6】他人と比較する
✖「○○さんを見習って」
○「こうなってほしいと思ってる」
本人の過去・未来と比較を
「他人と比較することは『内面の否定』と同じ。相手は劣等感を抱き、自信をなくしてしまいます。比べるなら今と過去の相手と比較し『どれだけ成長したか』を話してあげればむしろ自信に。さらに期待していることを伝え、その未来像と比較して足りない部分を話し合えばやる気アップにもつながります」
「求めている役割を伝えることは、やりがいや充実感といったモチベーションに。積極的な変化が起きやすくなります」
【間違い叱り7】叱りから逃げる
✖「(嫌われたくないな…)」
○ 叱る=改善提案と理解している
正しい叱りは嫌われない
「自分自身が、過去に上司から“間違い叱り”された経験しかないと『叱られたくないだろうな』『嫌われてしまうだろうな』と叱ることに恐怖や罪悪感を感じてしまうもの。叱りを『相手をよい未来へ導く改善提案』と理解していれば、必要なときに怖がらずに叱れるはずです」
【間違い叱り8】成功体験の押しつけ
✖「私の頃はこうだった、だからアナタも~」うまくいくかは人による
○「私はこうして失敗したんだよね」聞きたいのは失敗談
成功体験はあくまで一例
「『自分はこうだった』という成功談は貴重なエピソードですが、その人の個性や時代などにも左右されるあくまで一アドバイスなので強要はNG。どうしても同じ方法を取らせたいなら助言ではなく業務命令として指示し、その結果の責任も負うこと。むしろ後輩は失敗談のほうが聞きたいものですよ」
「よくできる先輩も、こんな失敗をしたんだ、というエピソードは勇気づけられたり、信頼度アップにつながります」
4.叱られたときの乗り越え方
30代の“叱られ”悩み
叱られると次のミスが怖くて縮こまってしまう C奈さん(アパレル・33歳)
「社内でも中堅になり、叱られることはほとんどなくなったのですが、そのぶんたまに叱られるときのショックが大きくなりました。強い言葉で叱られると萎縮してしまって、『次こそは!』という気持ちよりも、『またやってしまったらどうしよう』と恐怖のほうが強くなってしまい動けなくなってしまいます。その様子にまた叱られて……という悪循環。自分のできなさに悲しい気持ちにもなってしまいます……」
叱られる側のときも「叱り=行動改善」意識
叱る立場でもあるけれど、もちろん叱られることもあるバイラ世代。職場で叱られた経験から萎縮してしまう、という人も多い。つらい叱られ方をしたときはどう乗り越えるべきか、叱られる側の向き合い方も齋藤先生が指南!
「上記でお話ししたような正しい叱り方をできる上司は、まだまだいないのが現実。世の中には叱ることに苦手意識を抱いていたり、上手に叱れない上司もいます。叱られ方によっては、あなたが落ち込んでしまうこともあるかもしれません。でもそういう上司の叱りも、あなたに期待している、成長してほしい、という気持ちがあってのことと理解してください。とはいえ『もっと上手に叱ってください』なんて言うことはなかなか難しいと思うので、まずは自分の“向き合い方”と“受け止め方”を変えてみましょう」
「まず“向き合い方”。人は叱っている相手の反応が薄いと『通じていないのかも?』と不安になり、さらに強く叱ってしまいます。叱られるときは相槌や表情で『ちゃんと聞いています』というメッセージを送って。さらに『次はこうします』と具体的な行動を提案すると相手も安心します。叱る人のタイプによって効果的な接し方も異なるので、下のタイプ別対処法を参考にしてもよいでしょう。こちらからのアクションは、無駄に叱られることを防ぐための工夫、と心得て」
「次に“受け止め方”。叱り方でもお伝えしたように、叱られるときも『人格が否定されているわけではない、行動の改善を求められている』と理解しておけば、ダメージも減るはずです。人には、セルフイメージどおりに行動しようとする性質があるので、人格否定として受け止めてしまうと『なんで私はできないんだろう……』と無意識のうちに“ダメな自分”の要素を探し始めてしまいます。すると自己評価がどんどん下がり、より萎縮したり、ときにはウツになってしまうことも。たとえ厳しく叱られても、自分を否定せず『どうしたらよくなるか』と前向きに考えるようにして。思考のクセを変えるだけでも心を安定させられますよ」
典型上司タイプ別“叱られ後”の対処法
周囲を巻き込み邁進!ワンマン親分型
即断即決系なので質問や提案は結論ファーストで短めに。頼られるのが好きなタイプなので相談はまめに。
ノリがよくお調子者なムードメーカー型
忘れっぽいので話をするときは確認&記録しながら。理詰めや細かいことは煙たがられる。
押しが弱く空気を読む平和主義者型
こまめに報告・連絡・相談。資料などの材料を見せて決断の後押しをして。反抗的な態度はNG。
合理的かつ論理的ガンコな努力型
根拠は明確、具体的に、みちすじ立てて伝えること。相手のスケジュールを確認し、せかさないで。
5.叱られたとき前向きになれる4つの改善策
1.表情や態度で受け止めていることを見せる
「叱っていても、まったくリアクションがないと、叱る側は『大丈夫かな? ちゃんとわかってくれたのかな?』と不安になり、長時間叱ったり、同じことを繰り返し責めてきたり、さらなる豪速球を投げてきたりします。相槌を打ったり、謝ることで伝わっていることを示すと、相手も安心し、叱らなくなる場合も」
2.行動が叱られていると自分の中で整理する
「叱られると、つい人格や能力を否定されたような気分になり、落ち込んでしまう人も。本来、叱る=行動改善を促すための言動。人格を責められているわけではなく、行動改善を求められているだけ、と自分の中で理解することが大切。自分を『ダメな人間』と思う必要はまったくないのです」
3.「なぜダメか」ではなく「どうしたらよくなるか」を考える
「叱られて『私って“なんで”こんなにダメなんだろう』と自問自答するのは危険。原因を自分に問いかけると、日常生活でも無意識に自分の欠点を探し出すようになり、本当に“ダメ”になっていく……という負のループに陥る可能性が。『どうしたらもっとよくなれるかな?』とポジティブに考え、自己評価を下げないことがポイント」
4.改善を自分からも提案する
「叱り下手な上司に、あまりにもしつこく叱られる場合は、『アドバイスをちゃんと受け止めていますよ』という姿勢を見せて、安心させてあげることが大事。『こういう改善案をこれから実行します』など、具体的な行動案を提示すると、相手も安堵できるはず」
齋藤直美さん
株式会社ミュゼ代表取締役。企業や自治体のリーダー教育や組織活性化に携わる。著書は『部下がついてくる人、離れていく人の叱り方』(あさ出版)など多数。
イラスト/村澤綾香 取材・原文/櫻木えみ 構成/斉藤壮一郎〈BAILA〉 アンケート出典/株式会社ミュゼ 職場内コミュニケーションアンケート調査 ※BAILA2021年1月号掲載