働く女性のバッグとその中身って、普段見られることを前提としていないからこそ、より雄弁にその人のリアルを物語るもの。どんな仕事観を持っているのか、今はどんな働き方をしているのか、バッグの「中身」からそれを探ります。今回取材したのは、オーガニックビューティブランドのディレクター・田上陽子さん。多忙だった以前よりもだいぶ軽やかに変化しているよう。
田上陽子さん(ビューティブランドディレクター)
詰め込みすぎた仕事と生活を見直し、結婚を機に北海道との二拠点生活へ
都心にある自宅は、結婚前に借りた一人暮らし用。光がたっぷり入り「気がいい」
「“自分自身がウェルネスでいないと”と気づいて、仕事に忙殺される日々が変わりました」
働き方ヒストリー
23歳:新卒でカルチャー系ベンチャー企業に就職するも方向性が違い1年で退社
24歳:転職した企業で、クリエイターのアシスタントやPRの仕事を経験。ものを伝える仕事に目覚める
25歳:PR代理店に入社。ビューティなど“オタク”な分野に興味を持つ
30歳:マッシュビューティラボに入社。スキンケアブランドを立ち上げ、“ものづくり”の魅力にはまっていく
35歳:ディレクターとしてビューティブランド「セルヴォーク」を立ち上げる
39歳:一大転機!フリーランス転向。引っ越し、失恋後の旅行中に運命の出会い
40歳:北海道在住のワイナリー経営者と交際3カ月で結婚。東京での仕事を徐々に減らし、北海道との本格的な二拠点生活に向けて準備中
仕事だけでなく、生き方の大転換のまっただ中
「セルヴォーク」をはじめ、人気を集めるオーガニックビューティブランドのディレクターとして活躍する田上陽子さん。青山の自宅は、都心の仕事先には至便な場所にあり、出勤は自転車がメインだそう。ケースに入れたPCと「ジル サンダー」の薄型ショルダーバッグをかごに入れて。自宅の仕事スペースであるテーブルにはアロマや香りのいいスキンケアコスメが並び、その日の気分に合わせて選んでバッグに入れるのが習慣。
「実は40代を目前に、仕事が多忙を極め、体調をくずしてしまったんです。『ウェルネスを広める仕事なのだから、自分自身がウェルネスでいなければ』と思い、生活を見直しました。それで昨年末、会社員からフリーランスに転向。この家に引っ越しもして、リセットのために友人と北海道旅行へ。そこで、今の夫に出会ったんです」。相手は北海道の余市でワイン造りをする年下の男性で、交際3カ月で入籍。怒濤の展開!「婚姻届提出の午後には、ブドウ畑で堆肥まきを手伝いました。青山での暮らしとは180度転換です」と笑う。この春から1カ月の半分を余市で過ごし、いずれ本格的に暮らしの軸を東京から移す予定だそう。
「振り返れば、オタク的に掘り下げる仕事に憧れ、模索した20代。30代はそんな中からオーガニックの分野に出会い、ものを作る仕事を続けていこうと思いを固めた10年でした。そして、自分をおろそかにしないライフスタイルを、と考えた現在。パートナーとの出会いによって、すごく大きな変化の中に飛び込んだ感じです。今は働き方だけでなく、広く生き方というものを見つめ直す時期に入ったのかも。幅広く人をまとめ、ディレクションすることから、ブドウ作りのように本質を掘って探究することに興味が戻ってきました」。鮮やかに変わってゆく仕事と生活、今はそれを予感させるように、バッグの中身もどんどんそぎ落として軽やかになっているようだ。
仕事とは
自分の価値観を映し出すもの
デスクの上にインセンスやアロマなど香りのコスメを常備。出かけるとき数本選んでバッグに忍ばせる
ディレクションするブランド「セルヴォーク」は5年目を迎える
北海道、夫と住む家はワイナリーの隣。自動車の運転にも挑戦
バッグは… JIL SANDER
どんなコーディネートにも似合うプレーンなデザインと、長く愛せるきちんとしたたたずまいに惹かれた、薄型のショルダーバッグ。PCや資料はバッグの中に入れない。財布、カードケース、目薬やミントのほか、もらいものの“お清め塩”も
荷物は最小限、PCケースを別にして機動力アップ
(右上)香りのアイテムは日替わりでセレクト
気分に合わせて数本をバッグにイン。今日はアロマオイル「YOU&OIL」(右)と友人が調香してくれた「haLuna」のコロン“yoko”(左)
(右下)PCケースはバッグとは別に
毎日仕事で使うPCは「nana-nana」のPVCクッションケースに。移動のときは手持ちか、自転車のかごにポンと入れてスマートに持ち歩く
中身の中身
(左下)アプリ「Vivino」でワインの勉強中
ボトルのエチケットを撮影すると、ワインの詳細情報が表示され、情報共有もできるアプリ「Vivino」。ワインの知識を深めるために活用
中身の中身
(左上)自ら手がけた自信作コスメを常備
形がフレキシブルな布製ポーチに「セルヴォーク」のコスメを。肌づくりがこれひとつで決まるコンシーラー(右)と新色アイパレット(左)
撮影/田形千紘 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2021年11月号掲載