働く女性のバッグとその中身って、普段見られることを前提としていないからこそ、より雄弁にその人のリアルを物語るもの。どんな仕事観を持っているのか、今はどんな働き方をしているのか、バッグの「中身」からそれを探ります。今回取材したのは、一般企業で課長職を務める坂中美紀さん。リモート化にともない、今の自分に合うバッグの形も変化したようす。
坂中美紀さん(EC・通信サービス会社勤務)
一度はパスした課長職。勤続10年を前に、再び、納得して昇進
「次の10年は部下の成長をバックアップし、人に何かを与えられるようになりたい」
PCでの作業が増えて、自分の手もとに目がいくようになったことから「ちょっといいジュエリー」が欲しくなったと坂中さん。長年愛用する「ジャガー・ルクルト」の時計に加えて、「ブシュロン」のキャトル リングを購入
働き方ヒストリー
22歳:大阪で、生命保険会社の一般事務に新卒で採用される
25歳:結婚して退職。ジュエリーのオンラインショップで倉庫作業のアルバイト
27歳:夫の転勤で大阪から東京へ。派遣社員としてジュエリーブランドでPRアシスタント
29歳:離婚。退職し大阪へ戻るが、仕事が見つからず3カ月後に単身上京。現在の会社に就職
32歳:課長に昇進するも、経験したことのない業務や責任に戸惑う日々
33歳:会社と相談し、子会社に出向。課長代理として、2歳年下の女性課長のもとで働き、4年間で多くを学ぶ
37歳:コロナ禍で在宅勤務と出社のハイブリッドに
38歳:前任の課長の産休取得に伴い、課長に昇進。現在は十数人のチームを束ねる
自分が納得するペースでキャリアを進めてきた
「長らく小さなバッグで通勤していたのですが、昨春から週2回のリモートワークのため、重たいノートPCを持ち歩かないといけなくなりました。しばらくはバッグ迷子でしたね。トートバッグは肩が凝り、きれいめなナイロンリュックはPCを入れると形崩れ。大人が違和感なく持てるビジネスリュックをやっと探し当てたんです」と、会社員の坂中美紀さん。PC以外の持ち物も、コロナの前後でずいぶん減ったそう。「人と会わなくなったので名刺入れや化粧直しの道具は持ち歩かなくなりました」。機能的なバッグと最小限の仕事道具の中にある、ポップな覆面レスラー柄や、愛らしいダチョウやバナナを刺しゅうした小物に、本人の“好き”が垣間見える。
昨年10月からはチームをまとめる課長に。リモートでの会議が長時間を占める。来年で勤続10年。節目の年に向け、憧れていたジュエリーを自分のために買おうと思っているそう。「実は入社して3年目に、課長に任命されたことがあります。そのときは役職の重さと経験不足に、とても務まらないと実感。会社と相談して、子会社である現在の部署に出向し、役職も課長代理に下げてもらいました」。そこで過ごした4年間の経験が坂中さんの仕事意識を大きく変えた。「直属の課長が2歳年下の女性で、心から尊敬できる優秀な人。二人三脚で仕事をすることで、チームや他人に対する責任感を学びました。彼女の産休取得に伴い私が課長に。不安はあったけれど、安心して休んでほしいと思い、課長職への覚悟が決まりました」
自分だけでなく部下の成長も大切に考えるようになり「もっといい会社にしていきたい」という思いがある。この先も仕事から多くを学び続けたい、と思いを新たにする。プライベートでは、推しのピアニストのコンサートや大好きなイタリア旅行を夢見て、毎日をしなやかに楽しんでいる。
仕事とは
学び。すべての出来事や人から学ぶことがある。自分が成長できる場所
バッグは… TUMI
コロナ禍による大きな変化は、職場と自宅の往復にPCを持ち歩かなければならなくなったこと。試行錯誤を経てたどり着いたのが、つい最近購入した「TUMI」のナイロンリュック。重いPCを入れても形崩れせず、ぬれた傘も入るサイドポケットなど、機能性が高く見た目も上品で理想的
コロナ禍でミニバッグからリュックへ。好みものぞかせて
(上)ポップな柄のタオルハンカチや刺しゅうグッズ
バッグの中で見つけやすくて心がなごむ小物たち。柄タオルは老舗メーカー「フェイラー」のもの。刺しゅうのマスクケースはネットで購入したハンドメイドの作品
(中)人と会う機会が減りコスメは最少化
「リモートワークと内勤が増え、化粧直しと名刺交換が激減しました」。必要最低限のコスメをレスポートサックのミニポーチに
(下)リモートワークでPCと充電器は必須
自宅でもオフィスでも、オンラインミーティングが勤務時間の大部分を占める。社用PCとバッテリーつきの携帯電話カバーが手放せない
中身の中身
(右下)ジュエリーの知識を文庫本で深めながら
手もとのジュエリーが欲しくなったと同時に、歴史や背景のストーリーに興味がわいたそう。刺しゅう入りの文庫カバーは、マスクケースと同じ作家のもの
撮影/田形千紘 取材・原文/久保田梓美 ※BAILA2021年11月号掲載