記者会見での獅童さん。『オフシアター歌舞伎』のポスターもカッコイイ!!
油まみれの殺人事件。繁華街での上演で、その生々しさがよりリアルに!?
部長 いいところに目をつけたわね。これまでも『コクーン歌舞伎』とか『六本木歌舞伎』とかあって、古典歌舞伎を新たな演出で上演したり、新作を試みたりしてきたけれど、今回のはアングラ感満載。主演の中村獅童さんが記者会見で言ってたけれど、20代のとき、オフ・ブロードウェイの劇場で、獅子の毛振り(毛を大きく振ること)をしたんですって。そのときの体験から、「いつか倉庫のような空間で歌舞伎をやりたい」と思ってたとか。
小僧 さすが獅童さん! 場所によって、雰囲気って、すごく変わりますもんね。銀座の歌舞伎座で観劇するのもゴージャスで素敵だけれど、コンサバな格好をしてないと気がひけて、敷居の高さを感じちゃうんですよ。でも、今回は、穴のあいたジーンズでも行けそうだし。
部長 そうそう。しかも演目が『女殺油地獄』。歌舞伎町みたいな猥雑な場所がぴったりのお芝居なのよね。
小僧 なんですか、そのダークなタイトルは!?
部長 題名だけじゃなくて、ストーリーも相当禍々しいわよ。河内屋与兵衛っていう放蕩息子が、遊ぶ金欲しさに豊嶋屋の女房お吉を殺そうとするんだけど、もみあううちに、油壺が倒れてしまい、ふたりはどろどろになりながら死闘を繰り広げるの。でも、その凄惨なシーンが逆に美しいという……(恍惚)。
小僧 ちょっ、大丈夫ですか、部長。
部長 あ、ごめんごめん。ほら、歌舞伎って「悪」を美しく見せるのが本当にうまいでしょう? この場面も人間の狂気に震えながらも、油のぬらぬらした感じが官能的だったりしていいのよ。さらに今回は、倉庫や繁華街での小さな空間での上演でしょう? きっと事件を目撃したかのような生々しさを感じられるはず。獅童さんも「歌舞伎には、こういうダークな物語があることを知ってほしいし、現代にも通じる普遍性がある作品」って言ってたわ。
主役の河内屋与兵衛役の獅童さん。稽古にも熱が入る。悪い男をどう演じるのか楽しみ!
部長 記者会見では、「『女殺油地獄』の演出に呼んでもらったのは、僕が自分の作品で人殺しの話ばかりやっているからかな」って笑っていたけれど、きっとよりエグい演出になるんじゃないかしら。「奇をてらわず極めてアナログな手法で、お客さんの心に届く作品にしたい」「イヤホンガイドがなくても心を揺さぶるような作品を作りたい」って言ってたから、歌舞伎初心者もきっと観やすいはず。
小僧 ますます行きたくなってきました!!
部長 ぜひジーンズで!! ……って、小僧が穴のあいたジーンズとかはいてるの見たことないけど?
小僧 考えてみたら、そうでした……バッタリ!!
お稽古潜入取材で見えてきた、新しい歌舞伎にかける意気込み
お稽古中のスリーショット。どんな舞台になるのかワクワク!!
小僧 マジですか!! それは貴重ですね。どんな感じでしたか? 荒川良々さんとかも出るし、和気あいあい?
部長 いやいや、結構ピリっとした緊張感漂う雰囲気だったわ。「つねにプランをもってお稽古する癖をつけてください」と赤堀さんが俳優陣に言っていたけれど、同じ場面を何度も何度も繰り返していくの。そうするうちに、間の取り方や細かい演技が変わっていって、「ああ、こうやって良い舞台は出来上がっていくのね!」と大感激。最終的にはどうなるのか、「早く実際の舞台が見たい!」って思ったわ。
演出の赤堀雅秋さん(手前)らと頻繁にやり取りを。
部長 もちろん。演出家の赤堀さんのところに行って、舞台をどう使うか、客席のところまで降りるか、油壺はどこに置くかなど、演出の話し合いを中心になってやっていたわ。壱太郎さんもお化粧もしてないのに美しくて色っぽくて、女性にしか見えないのよね。歌舞伎俳優さんの底力を見た感じ。ちなみに私の目の前には、荒川良々さんがいて、台本を広げて口を動かしながら台詞を頭の中に叩き込んでいたんだけれど、その真剣な表情に「素敵♪」って思っちゃった! お稽古場マジックかしらん。
小僧 マジックじゃなくて、荒川良々さんは魅力的な人なんですって!! だけど、「歌舞伎」って、歌舞伎役者しか出られないと思ってたけれど、そうと決まってるわけじゃないんですね。
部長 そうね。歌舞伎座でやる「大歌舞伎」は、歌舞伎俳優だけでやるけれど、そうでないものは、歌舞伎役者以外の人も出演していることがあるのよね。いろいろな要素が化学反応を起こして、きっと新しい歌舞伎が生まれるはず。そういえばこれは余談だけどね、お稽古始まる前にバイラのカメラマンのほそやんが、獅童さんに「どこのカメラ?」と聞かれたらしいの。それは「どこの媒体のカメラ?」という意味だったんだけど、ほそやんったら、「ニコンです!」って答えたんだって(笑)。そうしたら獅童さんが笑って、「違うよ。どこの媒体?」って。ほそやん、真っ赤になって、「バイラのWEBです!!」って答えたそうな。そしたらお稽古の最後に、獅童さんが「撮れた?」って、わざわざほそやんに聞いてくれたの。「やさしくない!? 獅童さん、優しくない!?!? 」 私もほそやんも目がハートよ。
小僧 なんていい人なんだ!! 獅童さんとアパレルブランドがタッグを組んで、オリジナルTシャツを制作するっていうから、それも興味津々。
部長 獅童さんには、歌舞伎という枠を超えて、どんどん新しいことをやってほしいな。「古典を守りつつ、革新を追求したい」「中村獅童ならではのスタイルを作っていきたい」と、記者会見では、抱負を語っていた獅童さん。歌舞伎上級者も初心者もぜひ劇場に足を運びましょう!!
中村壱太郎さん(右)と荒川良々さん(左)。衣裳がなくても壱太郎さんの動きは女性そのもの。
原作:近松門左衛門作「女殺油地獄」
脚本・演出・出演:赤堀雅秋
出演:中村獅童、中村壱太郎、上村吉弥、嵐橘三郎、荒川良々ほか
日程・場所:
2019年5月11日(土)~17日(金) 天王洲アイル・寺田倉庫
2019年5月22日(水)~29日(水) 歌舞伎町・新宿FACE
ストーリー:大阪天満の油屋、河内屋の義理の息子・与兵衛は、遊女に入れあげ、勘当されてしまう。借金の返済に困った与兵衛は、同業の豊嶋屋の女房お吉に金の無心をするが断られたため、お吉を惨殺して店の金を奪うのだった。
チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹ほかで発売中。
取材・構成/バイラ歌舞伎部
まんぼう部長……ある日突然、歌舞伎沼に落ちたバイラ歌舞伎部部長。遅咲きゆえ猛スピードで沸点に達し、熱量高く歌舞伎を語る。
バッタリ小僧……歌舞伎歴2か月。やる気はあるが知識ゼロの新入部員。若いイケメン俳優より、本当はオーバー40歳の熟年役者好き。