NHKの連続テレビ小説「半分、青い。」の出演をきっかけに、次々と話題の映画やドラマに出演している俳優の中村倫也さん。現在公開中の映画『人数の町』の見どころや映画のキーワードのひとつでもある“居場所”について伺いました。
惑いのある世の中だから生まれた作品だと思う
映画『人数の町』のインタビュー早々、主演の中村さんは、質問をした記者に対して「あなたはどう思いましたか?」と、逆に問いかけた。
「僕は台本を読んで現場で演じて、完成したものも観ていますが、客観的な意見を聞くのが今日が初めてなので、どう感じたのか聞きたくて」
物語の舞台は、食事も着るものもアクティビティもセックスも不自由なく与えられる代わりに、ネットへの書き込みや別人を装っての選挙投票など、思考を放棄して数値としての“人”になる人数の町。「ヨーロッパ映画のような音色の作品」と表現する不穏な空気が流れるディストピア・ミステリーを、中村さんは事前コメントで「今、世に出るべき作品なのかもしれない」と発表していた。
「そのコメントの意図は、やっぱり観てもらわないと(笑)。僕がお客さんだとしたら、作品は自分なりに解釈したいんです。演じた役者が何かを言うと、それが答えになりがちな世の中なので、非常にナイーブにならざるを得ないんです。この作品の設定がフィクションなのかノンフィクションなのかという解釈も、その人それぞれが人生の中でどんな環境に置かれているか、どんな感情を抱いているかによって変わると思いますしね。非常に惑いの中にある現代だからこそ生まれるべき作品だなと思って、心に残るコメントを出させていただきました(笑)」
演じた蒼山は、人数の町に疑問を持たずになじんでいく“主体性のない男”。自分とまったく違うキャラクターの存在方法を、丁寧に探った。
「中村倫也として表現したいというよりは、むしろ役に入るためには個人は消えなきゃいけないと思っているので、現場に入っていろんな人と音色を合わせて確認しながら演じた感覚があります。一石を投じて波紋の広がりを見るような、新鮮な試みの作品になったと思います」
もがいていた20代。居場所を見つけた30代
世の中には、SNSの“いいね”の数など、実感を伴わない数字も多い。
「ちょくちょく宣伝の仕事でプロデューサーから『バズってましたねー』とか褒められるんですけど、僕としては『はあ……、そうなんですか』って(笑)。そもそもバズるの定義もわかってないですしね」
冒頭で記者に質問したのも、実感を伴う感想を聞きたかったから。舞台のカーテンコールで満員の客席を見た際などに「ああ、これが450人なのか」とリアルな人数を実感するという。「観てくれる人がいなかったら、僕の商売は成立しないですからね」
居場所がなかった蒼山と違い、中村さんには今、居場所がある。
「でもそれも最近のことですけどね。20代のころは腐りきってましたよ。役者は作品があって役があって、初めて能力を発揮できる。仕事がないと必要とされていないってことを突きつけられますからね。もちろん、いろんなものと向き合って決めた自分の概念の中にある居場所はあります。でも『僕はここに陸地を作りました』って旗を掲げたって、誰も見てなかったら意味がない。知ってもらって、オファーがきて、一つ一つ許容されることが相まって、きっと居場所ができてきたんだと思います」
とはいえ、居場所に安住せずに「こまめに旅に出るようにしている」という。それはつまり、本作のような挑戦的な作品に出演すること。
「自由を本当に感じるときって制限があると思うんです。今回は低予算だったので、その中で何ができるかってことにカタルシスを感じました。たとえば自動で食事が出てくるシーンなんか人力で動かしてますし、朝日のシーンに時間がなくて『急いでやるよ!』ってみんなが必死になる瞬間とかにキュンとするんです。蒼山たちが町を脱走すると、体に埋め込まれたチップによって爆音が鳴る設定なんですが、演じているときは実際に音は聞こえないですからね。助監督の指示で音が聞こえてきた演技をして、また助監督の『はい!』っていう合図で耳が痛くなってきて、次の『はい!』で耐えられない演技をする……。トム・クルーズになったつもりで一生懸命やりました(笑)」
「冷静に考えたら恥ずかしい仕事だな」と苦笑いしながらも、その表情には迷いがない。それは、仕事に対して「胸を張りたい」という彼なりのルールが存在するから。
「いい作品にするために、台本に描かれている以上のものにするのが僕の仕事だし、リスクを冒して何を選択するのか、一つ一つすごく考えています。作品は作っただけではゴールじゃない。発信して受け取ってもらわないと完成しませんからね」
©2020「人数の町」製作委員
『人数の町』
監督・脚本/荒木伸二
出演/中村倫也、石橋静河、立花恵理、山中聡
全国公開中
借金取りに追われていた蒼山(中村)は、ある男に「居場所を用意してやる」と言われ、衣食住が保証された奇妙な町にやってくる。疑問を持たずになじむ蒼山は、妹を探しに来た紅子と出会い、町の秘密に迫ることに……。
なかむら ともや
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年に俳優デビューし、2014年には『ヒストリーボーイズ』で舞台初主演。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」やドラマ「美食探偵明智五郎」などに出演し話題を呼ぶ。映画『サイレント・トーキョー』(12月4日公開)、『ファーストラヴ』(2021年公開)、『騙し絵の牙』(2021年公開)が待機中。
シャツ¥38000/LITTLEBIG ジャケット¥17800・パンツ¥19800/Sakas PR(CURLY&CO) その他/スタイリスト私物
撮影/YUJI TAKEUCHI 〈BALLPARK〉 ヘア&メイク/井手真紗子〈air no tes〉 スタイリスト/山本マナ 取材・原文/佐藤裕美 構成/渡辺 真衣〈 BAILA〉 ※BAILA2020年8月号掲載
【BAILA 10月号はこちらから!】