バイラ読者のお悩みに、政治学者の姜尚中さんがアドバイス。今回は、母になる決心がつかないという女性に対して、姜さんの温かい回答が。
〈お悩み〉母になる決心がつきません。私に育てられるだろうかと、心配になってしまいます(N・30歳・独立行政法人)
30になった! 結婚して1年たった! 育休も3年とれる! の好条件が三部作なのにいまだに母になる勇気が出ません。私にちゃんと育てられるだろうかと心配になります。仕事柄、事件を起こした、引きこもりになる子どもたちも見てきたので自分の中で、子どもを持つことへのハードルが高くなっているような気がします。
母親になる覚悟は妊娠、出産を通してできてくるものです──姜
今の時代、子どもを育てることは勇気のいることですよね。犯罪に巻き込まれないか、引きこもりにならないだろうか、虐待などせず、育てられるだろうか。悩みは尽きないと思います。
でも、母になる覚悟というものは、妊娠や出産を経て、次第にできてくるものだと思います。わが子を抱いて母性や父性が芽生える人もいます。小さい命を「守りたい」という強い気持ちが親としての自覚を目覚めさせるのです。
また、Nさんの夫は、子どもを望んでいるのでしょうか。産む、産まないの最終判断は、女性が決めるものだと思いますが、子育てには、父親も関わります。相手の意見を聞くことで、Nさんの不安も解消されるかもしれません。一度よく話してみてください。
いずれにしてもここまで考えている時点で、Nさんはすでに母になる準備ができていると思います。だから未来のことをあまり心配しすぎないで。ときにはケセラセラの精神も必要です。
1月26日(水)発売!『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』
1月下旬に上梓される本書は、2010年から2021年まで、女性誌で連載されていた姜さんの人気連載をまとめたもの。この間、東日本大震災、中国の台頭、トランプ大統領の誕生、新型コロナウイルスのパンデミック……と、世界も日本も揺れに揺れた。そんな不安社会の構造を姜さんが読み解き、苦しみや悲しみを乗り越えて生きていく術を示してくれる、現代の救済の書。劣化する日本の政治、変わりゆく知のカタチ、ジェンダーをめぐる攻防、問われる人間の価値、不透明な時代の幸福論とテーマも刺激的で、知的好奇心が満たされること間違いなし!!
『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』
姜尚中著
集英社 1650円
姜尚中(かんさんじゅん)
1950年、熊本県生まれ。東京大学名誉教授。長崎県鎮西学院学院長。熊本県立劇場館長。専門は政治学・政治思想史。著書に『悩む力』『漱石のことば』『母―オモニ―』『トーキョー・ストレンジャー』など多数。
撮影/渡部 伸 イラスト/塩川いづみ 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年2月号掲載