バイラ読者のお悩みに、政治学者の姜尚中さんがアドバイス。今回は、婚活で心がお疲れ気味なアラサー女性からの相談。先が見えず不安な彼女に姜さんが出した答えとは!?
〈お悩み〉品定めするような視線に傷つくことも。婚活するたびに、メンタルがやられます(J・29歳・サービス業)
婚活をすればするほど、鬱々とした気分になります。相手からは品定めするような視線を向けられ、数回デートしてもなあなあのままフェードアウトするような薄い関係性、楽しい瞬間はあるけど傷つくことのほうが多く、心が疲れます。最近はマッチングアプリにも登録しましたが、不安もあり、なかなか一歩踏み出せません。
一度、立ち止まって自分が結婚に求めるものは何か、よく考えて──姜
「婚活」という言葉は、近年、よく耳にします。いかにもどこかの広告代理店が考えそうな言葉ですが、「婚活」と呼ぶことで、飲み会などにもカジュアルな気持ちで、参加できるのかもしれませんね。
ただ、婚活で実際にやっていることは、Jさんの言うように、ある意味、「品定め」です。相手の年収はいくらなのか、気づかいのできる人か、趣味は何か。そして自分が相手を品定めしているのと同様に、自分も相手から品定めされ、自分の価値を評価されます。これは想像以上に精神的なダメージが大きいでしょう。
また、上野さんとの対談にも出てきましたが、そもそも結婚は因習的なもので、それゆえに「何歳までに結婚しなければならない」というようなことが、私たちの頭には、刷り込まれています。だから人の目が気になるし、非常に焦るわけです。特に女性は、子どもを産むことを考えると、やはり年齢を意識せざるをえません。
しかし婚活でメンタルを削られているのであれば、やはりJさんは、一度、立ち止まったほうがいいと思います。そしてあらためて、自分が結婚に何を求めているのか、よく考えてみてください。ここが明確ではないと、相手を選ぶときに多くを求めすぎたり、ブレたりして、うまくいきません。ひと休みしている間、自分の結婚観をあらためて見直してみてください。
またマッチングアプリについては、僕はかならずしも悪いものとは思いません。かつてであれば、おせっかいな「お見合いおばさん」がいましたが、今はその代わりを業者やアプリが担っているわけです。マッチングアプリのほうが気楽に出会えるということであれば、利用すればいい。ただ、やはりリスクがありますから、そのへんは充分、注意してください。
1月26日(水)発売!『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』
1月下旬に上梓される本書は、2010年から2021年まで、女性誌で連載されていた姜さんの人気連載をまとめたもの。この間、東日本大震災、中国の台頭、トランプ大統領の誕生、新型コロナウイルスのパンデミック……と、世界も日本も揺れに揺れた。そんな不安社会の構造を姜さんが読み解き、苦しみや悲しみを乗り越えて生きていく術を示してくれる、現代の救済の書。劣化する日本の政治、変わりゆく知のカタチ、ジェンダーをめぐる攻防、問われる人間の価値、不透明な時代の幸福論とテーマも刺激的で、知的好奇心が満たされること間違いなし!!
『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』
姜尚中著
集英社 1650円
姜尚中(かんさんじゅん)
1950年、熊本県生まれ。東京大学名誉教授。長崎県鎮西学院学院長。熊本県立劇場館長。専門は政治学・政治思想史。著書に『悩む力』『漱石のことば』『母―オモニ―』『トーキョー・ストレンジャー』など多数。
撮影/渡部 伸 イラスト/塩川いづみ 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年2月号掲載