バイラ読者のお悩みに東京大学名誉教授の姜尚中さんが回答! 今回は、劣化する政治への不信から、社会を変えたいと思っている女性へ、何からスタートすべきかをアドバイス。
〈お悩み〉劣化する日本の政治を変えたいけれど、何から始めればいいのか、わかりません(K・33歳・メーカー)
今やすっかり貧しい国となった日本。格差も広がるばかりです。しかし政治家は、問題を直視しようとせず、私利私欲に走るばかり。現状を変えたいと思いますが、私には政治の知識はありません。社会を変えるにはどうしたらいいのでしょうか。また知識や情報を得るとき、気をつけたほうがいいのはどんなことですか。
まずは自分にとって最も切実な問題から取り組んでみてください──姜
僕がおすすめしたいのは、自分にとっていちばん切実な問題から始めてみるということです。たとえばKさんに子どもがいるなら、保育園の問題を考えてみる。地域の待機児童の数を調べるだけでも色々なことがわかってきます。政治というのは何か特別なものではありません。いきなり天下国家を語るより、身近な問題から考えることで、より自分の価値観を反映させることができると思います。
それから情報の見分け方ですが、大切なことがひとつあって、それは、右にしろ、左にしろ、極端なことを言うメディアや人には警戒が必要だということです。人の気持ちをあおり、扇動していくようなメディアは、客観的な視点が欠けています。インターネット空間では、さらにその傾向が強くなり、あらゆる感情が増幅されます。
一方、新聞は「新聞紙」という物理的なものを俯瞰して第三者的な視点が定まってくるというメリットがあり、古いメディアですが、情報を整理する上で、とても有効なメディアだと僕は考えています。また、自著『それでも生きていく』もおすすめです。これを読めば、今世界で起きていることについて、より理解が深まるはずです。機会があれば、ぜひ手に取ってみてください。
『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』 発売中!
本書は、2010年から2021年まで、女性誌で連載されていた姜さんの人気連載をまとめたもの。この間、東日本大震災、中国の台頭、トランプ大統領の誕生、新型コロナウイルスのパンデミック……と、世界も日本も揺れに揺れた。そんな不安社会の構造を姜さんが読み解き、苦しみや悲しみを乗り越えて生きていく術を示してくれる、現代の救済の書。劣化する日本の政治、変わりゆく知のカタチ、ジェンダーをめぐる攻防、問われる人間の価値、不透明な時代の幸福論とテーマも刺激的で、知的好奇心が満たされること間違いなし!!
『それでも生きていく 不安社会を読み解く知のことば』
姜尚中著
集英社 1650円
姜尚中(かんさんじゅん)
1950年、熊本県生まれ。東京大学名誉教授。長崎県鎮西学院学院長。熊本県立劇場館長。専門は政治学・政治思想史。著書に『悩む力』『漱石のことば』『母―オモニ―』『トーキョー・ストレンジャー』など多数。
撮影/渡部 伸 イラスト/塩川いづみ 取材・原文/佐藤裕美 ※BAILA2022年2月号掲載