海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、アカデミー賞候補になったほか各国の賞で高い評価を獲得した話題作『わたしは最悪。』をご紹介。ユリヤを演じるレナーテ・レインスの等身大の魅力は、人生に迷えるバイラ読者にきっと勇気を与えてくれるはず。
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『わたしは最悪。』
学生時代は成績優秀で、アート系の才能や文才もある。魅力的な女性ユリヤの20代後半から30代前半の恋愛を軸にした『わたしは最悪。』は、アカデミー賞候補になったほか各国の賞で高い評価を獲得した話題作だ。
でも、その評価には「痛烈」「破壊的」「センセーショナル」「スリリング」といった言葉が並ぶ。アラサー女性の青春の日々の、どこがそんなに“最悪”なのか? 観れば納得するかもしれないが、同時に意外にも共感ポイントがたくさん発見できるかも。
外科医を目指して医大で学んでいたが、心理学に転向。かと思えば、「写真家になる」と決めて書店でアルバイトを始めるユリヤ。ある日、40歳を過ぎたグラフィックノベル作家のアクセルと恋に落ち、迷うことなく彼の家に転がり込む。
数年後、30歳を間近に控えてアクセルは子どもを欲しがるが、自分が何者であるのかさえわからないユリヤにとって、今は子どもをもつことは論外だ。仕事で成功しているアクセルを横目で見ながら、ユリヤは同世代のアイヴィンと知り合い、強烈に惹かれ合う。一時の気の迷いだと、連絡先を交換せずに別れるが……。
多才なのに、これと一つに決めることができない。好きになれば一直線だが、こちらも一人に決めきれない。というか、決める必要性も感じていない。今は多くの人にとって生き方の選択肢が多い時代だ。それは恋愛も同じで、一夫一婦制は非現実的だとする議論も注目を集めている。
一方で、世間はいまだに女性の年齢が30歳に近づくにつれて、妻や母親の役割を当てはめようとしてくる。表面的にはどのように生きてもよいという自由があって、それはそれで苦しいもの。同時に、女性が自由を謳歌するには決定的な矛盾があり、そこにユリヤの葛藤がある。
少し前に、フィービー・ウォーラー=ブリッジの名前を一躍世界的にした「Fleabagフリーバッグ」というドラマが話題になった。性欲強め、アルコール好きで若さゆえでもある残酷さを持つ主人公の姿は、まさに『わたしは最悪。』を表す言葉の数々に当てはまる。しかし、この2作品が国際的に評価され、とりわけ女性から熱烈な支持を受けたことを考えると、過激と評される彼女たちの物語こそが女性の本質をついているのではないだろうか。
監督は、主演のレナーテ・レインスヴェを念頭に脚本を書いたという。レインスヴェは映画初主演となった本作で、第74回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。“最悪”のユリヤを演じるレインスヴェの等身大の魅力は、きっと人生に迷えるバイラ読者に勇気を与えてくれるはず!
監督/ヨアキム・トリアー
出演/レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー
公開/7月1日(金)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
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©Elizabeth Productions Limited 2021
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公開/7月1日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年8月号掲載