海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、家父長制の呪縛を乗り越えていく三姉妹の強い連帯を描いた『三姉妹』をご紹介します。韓国の主要な賞で絶賛された三姉妹を演じるのは、「愛の不時着」のキム・ソニョン、『オアシス』のムン・ソリ、長年トップモデルとして活躍し、本作が映画出演2作目となるチャン・ユンジュ。彼女たちの圧倒的な演技力にも注目して。
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『三姉妹』
社会の通念や価値観がどんどん更新されていくなかで、女性の権利に対する意識もずいぶんと進化したように感じられる。とはいえ現実問題として、長い間それがよしとされてきた慣習や感覚的なものは、なかなか抜本的に変えられるものではないけれど。そうしたなかで、よく耳にする議論のひとつが家父長制だ。
近年、日本でも話題を呼んだ『はちどり』を筆頭に、厳格な家父長制をベースとした社会で生きる女性の生きづらさを描いた韓国映画の話題作は多い。『三姉妹』もまた、そうした潮流の中で生まれた人間ドラマである。
長女ヒスクは別れた夫の借金を返しながら、小さな花屋を営んでいる。反抗期真っ盛りの10代の娘ボミからは辛らつな言葉を投げかけられ、体調もかんばしくない。
次女ミヨンは熱心に教会に通う模範的な信徒で、高級マンションに最近引っ越したばかり。大学教授の夫と幼い二人の子どもたちとの生活は、完璧なようでいて夫とは心がすれ違っている。
三女ミオクはスランプ中の劇作家で、人のいい夫の後妻となり、夫の連れ子の息子と暮らす。昼夜問わず酒をのみ、スナック菓子ばかり食べては息子にもあきれられてしまう。
ミオクは時折泥酔してミヨンに電話をする。それはもう迷惑この上ない行為に思えるが、ミヨンは自分が修羅場に陥っているときでさえ、ミオクの話に耳を傾ける。そしてあったかいご飯を食べさせてあげながら、姉ヒスクや実家に置いてきた末弟ジンソプのことを話す。
彼女たちをいまだに苦しめているものの根源は、理不尽な父親の暴力に耐え、母親にかばってもらえなかった子ども時代の恐怖と屈辱の体験だ。近隣の大人に助けを求めても「父親を刑務所送りにする気か!」と反対に叱責された過去がモノクロームの映像で再現されるシーンは、ショックと悔しさで胸が痛くなる。
女性だから、親は敬うものだから、社会とはそういうものだから。そう思い込んで、自分を内側からむしばみながら生きてきた彼女たちが連帯し、呪縛に立ち向かうとき、思わず涙が込み上げてくる。彼女たちの勇気がすぐに実を結ぶことはないのかもしれないが、次の世代へしっかりと受け継がれていくであろう確かな希望が感じられる瞬間だ。
韓国の主要な賞で絶賛された三姉妹を演じるのは、「愛の不時着」のキム・ソニョン、『オアシス』のムン・ソリ、長年トップモデルとして活躍し、本作が映画出演2作目となるチャン・ユンジュ。俳優自身の強い思いが役を通して伝わるような、魂の演技に心揺さぶられる。
監督・脚本/イ・スンウォン
出演/ムン・ソリ、キム・ソニョン、チャン・ユンジュ
公開/6/17よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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©Elizabeth Productions Limited 2021
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監督/ロジャー・ミッシェル
出演/エリザベス2世、フィリップ王配ほか
公開/6/17、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2022年7月号掲載