社会や自然環境などを自分のこととして考えるために。あらためてSDGs=持続可能な開発目標とは、どういうことか考えてみましょう。SDGsについてバイラ世代が知っておくべき出来事やサステナブルに暮らすためにできることをご紹介します。
教えていただいたのは
東北芸術工科大学准教授 山縣弘忠さん
アパレル企業勤務を経て、流通、ものづくりにかかわる。中小企業診断士の資格を取得し、同大学企画構想学科にて教鞭をとる。SDGsプロジェクトを実践するゼミを主宰。
自分のこととして考えるために。あらためてSDGsって、なんですか?
「SDGsとは、未来につながる17個の扉なんです」
暮らしの幸福度を上げることが、サステナブルな行動につながるといい
「持続可能な開発目標」って、まず言葉が難しいですよね。この「開発」という言葉は発展、成長と言い換えていいと思います。つまり「暮らしやすくて今よりもハッピーな社会に発展させていきましょう」ということがサステナビリティであり、その具体的な目標を示したのがSDGsです。
近年、地球の気候変動はさらに顕在化。台風や豪雨の脅威を身近に感じた方も多いでしょう。また、’18年には世界中の食塩の93%からマイクロプラスチックが見つかったというニュースが。自分たちが捨てたプラスチックゴミが海洋環境を汚染し、再び自分たちが口にする塩に混じって戻ってくる。そんなの嫌ですよね。でも、実際に私たちの生活のすぐそばに「困ったこと=社会問題」は存在しています。これと向き合うのは、実際は苦しいし重たいことで、だからついふたをしたくなるもの。けれど、デザインやアートなら、その入り口を明るく広いものにしてくれるのではないでしょうか。
今、美しくておしゃれなものを楽しむことと社会の問題を解決することがイコールでつながるような商品やサービスが増えています。これは、生活者の感覚が変わってきたから。中心はバイラ読者世代でもあるミレニアル世代(’00年代に社会に出た世代を指し、世界の労働者人口の75%を占めている)。エシカルなものにお金を使う個人が増えて、企業を動かした結果といえます。
健康や美容に気をつかうこともサステナブルにつながります。自然にいいものは、人間の体にも大抵いい。再生可能エネルギーが普及すると、気候変動が抑えられるだけでなく、空気がきれいに。快適な街で、安心して生活できる。そうした個人の幸福度を上げる行動の先に、SDGsがある。
SDGsの17の目標とは、いうなれば17のドア。その入り口から入ると、確実によい未来につながっています。どこから入ってもいいし、いくつも開けてみてもいい。「地球のため」と大きくかまえる必要はなくて、自分たちが心地よく暮らすために、まずは気楽な一歩から始めてみては。10人のリーダーが100歩ずつ歩くよりも、1万人が1歩ずつ歩くほうがずっと遠くに行けるのと同じで、大きな動きになってゆくのだと思います。
SDGsについてバイラ世代が押さえておくべき出来事
1972年 「成長の限界」
1992年 「リオ宣言」
2000年 「MDGs」
バイラ世代が生まれる前、1972年に国連で発表された論文で、「成長の限界」すなわち、地球環境が枯渇してゆくことへ警鐘が鳴らされ、以降「持続可能な開発」の道が国際的に模索されるように。’92年のリオ宣言、’97年の京都議定書採択などを経て、2000年SDGsの前身となる「MDGs(ミレニアム・デベロップメント・ゴールズ)」が採択された。
2015年
2030アジェンダ(SDGs)193カ国で採択
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、具体的な行動指針がSDGs。2030年までに人類が安全に繁栄するための道を示すものとして、国際機関、民間企業、市民、研究者がかかわる。全会一致で採択されたことは世界的なニュースに。
ひと口メモ
サステナブル元年。COP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)では、’20年以降の地球温暖化に196カ国が数値目標を持って行動するパリ協定が採択。
2018年12月
ファッション業界
気候行動憲章 制定
アディダス、バーバリー、H&M、リーバイスなど、
世界のアパレル大手40社以上が参加し、支援組織には中国紡績工業連合会などの生産工場も。生産過程で発生するCO2、染色などで排出される汚染物質の軽減、労働問題について取り組む。
ひと口メモ
サステナブル元年。COP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)では、’20年以降の地球温暖化に196カ国が数値目標を持って行動するパリ協定が採択。
2019年9月
グレタさんの演説
第24回国連気候行動サミットで、スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんがスピーチ。温暖化解決に向けて具体的な行動を取ってこなかった大人たちに対し「結果とともに生きなければいけない若い世代」が怒りと叱責を向けた。
ひと口メモ
環境問題に関心が高く、発信力も高い10代を中心に環境保護活動が活発化。また、日本は夏の異常な猛暑と西日本豪雨に見舞われた。
2020年
気候変動に加え、疫病も流行
’19年末から’20年初頭にいたるまで継続したオーストラリアの大規模な森林火災、2月には南極で観測史上最高気温の18.3℃を記録するなど、地球全体の気候変動事件が多発。そして、新型コロナウイルスが世界的に流行するなか、地球温暖化により、これまでに見られなかった伝染病が蔓延する可能性も指摘されている。今後も、人類は新たな課題を現在進行形で突きつけられている。
ひと口メモ
2019年、日本では台風が猛威を振るい、気候災害の被害額において世界ランク1 位に。また、温暖化対策に対する姿勢が消極的な国に対し授与される不名誉な賞「化石賞」を受賞。
サステナブルに暮らすそのためにできること
☑︎楽しくポジティブに、長く続ける
生活をストイックにしたり、不便にすることだという先入観は捨てて、暮らしの中で当たり前にできることを。今はおしゃれに楽しめる取り組みがたくさん。生活を彩るもののひとつとして考え、長いスパンで、少しずつ続けて。
☑︎ものの背景、ストーリーを知る
食べ物は、近くでできたおいしいものを。輸送コストも抑えられ、地域への関心も高まる。コスメなら、どこでどう作られているのか知ることは安心感につながる。ファッションは、愛着を持てるものを選んで、長く着ることが大切。
☑︎買い物は未来への意思表明と考える
自分が買って使うものが自分自身をつくる。大人になれば「お金を払う」という行為は、作り手に対して投票しているようなもの。だから生産背景を知ることも大事。誰かの幸せにつながるような買い方ができたら、なにより素敵!
イラスト/ユリコフ・カワヒロ 取材・原文/久保田梓美 構成/田畑紫陽子〈BAILA〉 ※本テーマの各企業、商品の説明についているSDGsアイコンは、編集部による判断により掲載しています ※BAILA2020年5月号掲載
【BAILA 5月号はこちらから】