金原ひとみさん
かねはら ひとみ●1983年、東京都生まれ。12歳のころから小説を書き始め、’03年、『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞し作家デビュー。同作で’04年、芥川賞を受賞。’10年、『TRIP TRAP』で織田作之助賞受賞。’12年、『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。著書に『持たざる者』『軽薄』『クラウドガール』など。
綿矢りささん
わたや りさ●1984年、京都府生まれ。’01年、『インストール』で文藝賞を受賞し作家デビュー。受賞当時17歳ということで話題に。早稲田大学進学後、’04年、『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞。’12年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。著書に『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』など。
30歳からの恋愛&結婚 6つのQ&A
結婚にまつわる話はマイナスのイメージのほうが多く感じます。それでもなぜ結婚したいと思う人が多いのか私にはわかりません。結婚の決め手は人それぞれだと思いますが、人は何のために結婚をして、何かを犠牲にしたり我慢したりするのでしょうか?(34歳・メーカー)
Answer
金原 結婚したほうがいいわけじゃない。それは大前提ですね。SNSとかが進化して、同じ趣味や気の合う人とどんどんつながれる状況があって、人間関係が多様化していることを考えると、パートナー関係も結婚というかたちである必要はないのでは。自分が生きやすいかたちを周りの人とつくっていければいいのかなと思います。
綿矢 そもそも結婚を損得で考えると難しいですよね。今の時代、メリットとデメリットをうまく処理できる人間が賢いみたいな、そういう考え方がありますけれど、その視点で結婚を考え始めると確かにわからなくなってくると思います。ひとみちゃんが言うような人との結びつきをどうしたいかということを考えたほうが楽になるんじゃないかと。悪いところを挙げていくと、本当に無限になってしまうし。
金原 いくらでも書き出せるよって(笑)。とにかく今は、結婚とか婚活について、言語化されすぎちゃってゲシュタルト崩壊感があるし、年収とか学歴とか、完全に人が物件化してる(笑)。
綿矢 うん。スペックでその人の価値を測るという考え方に陥っている。でも、人生なんて不確かで、計算どおりになんていかないものですよね。まずは結婚の目的やプラスマイナスで考える思考から抜け出すことが大事かも。
自分の夫の収入がそんなに高くないせいか、友達の結婚相手が一流企業勤務だったりすると、素直に喜べません。フェイスブックで裕福な暮らしぶりを見て、嫌な気持ちになったり。他人に嫉妬している自分のことも好きになれません。(31歳・事務)
Answer
綿矢 他人に嫉妬しない人はいないって思ったほうが楽かもしれない。みんな一生懸命生きて、評価されたいと思ってるなかで、それを満たしている人を見たときにモヤモヤしない人はいないから。だからフェイスブックやインスタは見ない。それを徹底する。こんなふうに悩むこと自体、すでに性格がいいから、そこを伸ばしてほしいと思います。
金原 私はフェイスブックもインスタも見てないな。ツイッターぐらい。ツイッターはね、あんまり幸せな人が出てこない(笑)。
綿矢 確かにみんなモヤモヤしてるか、毒吐いてるか(笑)。
金原 彼女みたいな人は、世の中で「これが頂点」といわれているピラミッドの中に、自分を当てはめて暗い気持ちになっちゃうんだろうから、実際にはそんな頂点なんて幻想なんだと、ある程度割り切ったほうがいいかもしれないですね。
――ちなみにお二人も誰かをうらやましいと思うことがありますか?
金原 もちろん。本屋大賞とかめっちゃ欲しい!
綿矢 私は長寿を目指してるので、テロメア嫉妬、ですね。今、遺伝子検査で寿命がある程度わかって、テロメアっていうDNAが長いと長生きの可能性があるといわれているんですけれど、私は「普通」って出て、ちょっと残念で。だからテロメアが長いと出た人に嫉妬します(笑)。
金原 いや~。二人とも読者の参考にまったくならなかったね(笑)。
仕事に追われて疲れ切ってしまい、彼氏をつくる気力がなくなっています。親や周りからのプレッシャーもあり、自分自身も早く結婚したいと思っているのですが、何をしたら結婚につながるのか、わからなくなってしまいました。婚活をしていても、相手に好かれようとしている自分がイヤです。 (33歳・流通)
Answer
金原 仕事に親に恋愛、どれもきちんとこなそうとしていてまじめすぎますよね(笑)。
綿矢 しかも性格がいいから、媚を売ってる自分が嫌だみたいな。だけど仕事で疲れ切ってるなかで伴侶まで見つけるって、本当に難しい。時間が全然足りないんですよ。人と出会う時間も足りひんし、内面を見てもらう時間も足りひんし。これは優先順位つけたほうがいいかもしれないです。私が結婚するときは、やっぱりあまり書いてませんでした。プロフィールもその時期は空白で。だからいろんな人の期待にこたえるのはやめて、自分勝手に自分の第1位を決めて、仕事はあとで取り返すくらいの気持ちで結婚に専念してみるのがいいんじゃないかと思います。
金原 私は逆で、恋愛も仕事も両方いっちゃうタイプ。トラックみたいにガーッと突っ走る。そのほうが双方にいい作用があるんじゃないかなって感じがしてて。「明日デートだから、この仕事終わらせちゃおう!」とか、人生が活気づくときってあると思うんですよ。仕事も恋愛もギリギリで、いつか自分が破綻するかもしれないぐらいのところで頑張ってる女性っていうのも、私は大好きですね。
綿矢 これは自分のタイプ次第、体力次第かも。自分に合う方法で頑張ってほしいなぁ。
結婚したら、すべてがよい方向へ変わると、勝手に思っていましたが、そうではありませんでした。理由なく物寂しくなったり、イライラしたり。満たされない何かがあります。こういう感情はどうしたら解決できますか。お二人は、思い描いていたような結婚生活を送っていますか?(34歳・医療事務)
Answer
綿矢 結婚に対して、どんなイメージを持ってたかな、私。……特になかったかも。理想を思い描いたりするほど、結婚をよく知らなかったし。
金原 結婚は自分一人でつくるものじゃないから、理想を持ってもどうしようもないところがあるしね。ただ、「こんなふうになるとは思わなかった」というのはあります。よくも悪くも「自分はこういう人間だ」ということを結婚生活の15年で思い知らされてきました。結婚して他人と一緒に暮らすことで、相手と自分の違うところが見えてくるわけです。そこで「あ、自分ってこうなんだ」という像がクリアに浮き上がってくる。でも、その像が受け入れ難くて、今ちょっとした苦痛を感じています。
綿矢 私の場合は、結婚してみたら、当然できると思ったことができなかったっていうのが多かったですね。たとえば食事の支度にしても、結婚したら当然やると思っていたのに、毎日やるということの難しさを初めて知るというか。絶対できるって思ってたことができなかった――ということに結婚で気づかされました。ただ、夫や子どもに対しては、「こんなはずじゃなかった」という感情はないので、その点では幸せなのかな。
金原 私は、最近「幸せ」がよくわからなくて。旦那がいて、子どもがいて、ある意味、恵まれているのに、空虚さや虚無的なものを感じてしまう。もはや何が幸福とか、そういう次元では生きられないのかなとあきらめかけてます。
綿矢 切ないなぁ。
金原 結局、結婚とか子どもとかの条件がそろったところで幸不幸の度合いはあんまり変わらないのかもしれません。満たされなさを受け入れてほかの何かでバランスをとるほかないのかな、と。
将来、子どもは欲しいけれど、お金もかかりそうだし、妊活も大変そうだし、ちゃんと育てられるか不安です。どうしたら子育てに前向きになれますか? (32歳・保険)
Answer
金原 私の場合、最初の子は24歳で産んだので、周囲に子育てをしている人もいなくて、その大変さを知らなかったんですね。実際に子育てして、初めて「こんなに大変だったとは!?」と知ったわけで、もし事前に育児の厳しい現実を知っていたら、きっと足踏みしてしまっただろうなぁ。
綿矢 そうですよね。だから「私も不安だったけれど、大丈夫でしたよ」なんて軽く言えないというか。実際、簡単なものじゃないし、かなりキツいし。特に私が感じたのは、子育てには向き、不向きがあることですね。私ももっと大らかな性格だったら子育ても楽だったかなと思います。
金原 ほかにも保育園のことだったり、学費のことだったり……不安はきりがない。まだまだ日本は子育てする家庭にとってやさしい社会とは言いづらいし。フランスは、みんなもっとのびのび子育てしている感じでした。社会のシステムが整っていて、福祉にしても失業保険にしても手厚いフォローがあるから、なんとなくみんなのんびりしていて、普段の余裕が底上げされ ている感じ。一方日本は、仕事に復帰できなかったらどうしよう、保育園入れなかったらどうしようって、妊娠前からストレスだらけ。本来、自分が子どもとどう過ごしたいのかみたいなことを考える余裕もない感じ。
綿矢 そんな社会で、これから子ども産む人へのアドバイスかあ、何やろうなあ。
金原 月並みだけど、最近、育児や結婚生活について書かれた小説や漫画がたくさん出ているので、そういうものを読んで想像するのはどうでしょう。けっこうリアルに想像できるはず。
綿矢 それ、いいと思う。ひとみちゃんの『マザーズ』みたいな過酷な話であっても、もし自分がそういう状況に陥ったら……というのを想定できるはず。備えあれば憂いなしですね。
20代のころは不倫なんて考えられなかったが、30代になり、主人にときめきをなくし、今やセックスレス。既婚者同士の不倫がなんとなく理解できるようになり、自分もいつかそうなるのかと思うと哀しくなります。(37歳・商社)
Answer
金原 結婚して少し落ち着いてくると、「私はもう、そんなにセックスとかしたくないし」みたいな女性、けっこう多いですね。でも一方で、セックスレスによって降り積もっていく不満みたいなのがあって、結局、不倫に走ってしまうという話は、よく聞きます。
綿矢 私が思うのは、この人は「主人にときめきをなくし」と言ってるけれど、主人はときめきたいかもしれないじゃないですか。だからちょっと意地悪だなって。相手が望むなら、ちょっと乗り気じゃなくてもある程度つきあってもいいのかな、と。
金原 でも、それだと相手にはわかるんじゃない?「のってねえな」って。で、もっと楽しいセックスができる人にいっちゃう。
綿矢 そうかなあ。私は彼女が自分勝手に思えるんだけど。
金原 りさちゃんの言いたいこともわかる。性的欲望を無視されることが、いかに人の心を傷つけるか、みんなわりと意識してないなと感じることがあって。「家族なんだからセックスはちょっと……」みたいなのは、致命的だなぁと私も思う。
綿矢 そうだね。夫婦のことなのに自分一人で決めている。不倫への理解を深める前に、パートナーと向き合ったほうがよいかもしれませんね。
夫がいながら、不倫相手との時間に至福を見いだす元モデルで翻訳者の由依。夫の浮気と反抗的な息子、そして毒母にいらだつパティシエの英美。愛されたいと願いながらも満たされない夫婦関係にもがく男女を描く。
恋人と訪れたリゾート地で、逢衣が出会ったのは、美しい女優の彩夏。初めは躊躇しながらも、やがてどうしようもなく惹かれていく二人。常識や世間体を取っ払い、立ちはだかる壁も乗り越えて、二人の魂は結びつく。