海外エンタメ好きなライター・今 祥枝が、30代女性におすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、黒木華と柄本佑が演じる漫画家夫婦のウソと本音が交差する心理戦を描いた『先生、私の隣に座っていただけませんか?』をご紹介します。
©2021「先生、私の隣に座っていただけませんか?」製作委員会
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』
結婚相手やパートナーに、真剣に問いただしたいことがあるとする。もしそれが相手の不倫問題だとしたら、どうやって確かめる?これはかなり頭を悩ませる問題だと思う。
人気漫画家の佐和子と、同じく漫画家で妻のアシスタントをしている俊夫の場合は、相当ぶっ飛んでいる。なぜなら佐和子は新作漫画のテーマに「不倫」を選び、原稿には主人公が夫の浮気現場を目撃するシーンが描かれていたから。これは妻から夫への挑戦状なのか?佐和子の担当編集者・千佳との不倫がバレたかもしれないと慌てる俊夫。表面上は穏やかさを保ちつつも、じりじりと詰めていく佐和子。お互いの本心を探り合いながら、噓と本音が入り交じるスリリングな心理戦が展開する。
監督の堀江貴大によるオリジナル脚本は巧みで、観客はまんまと翻弄されっぱなし。佐和子が描く漫画の内容は事実なのか、W不倫は単なる願望か、引っかけなのか? なんとか難を逃れて仲直りしたいとあたふたする俊夫を演じるのは柄本佑。どうにも憎めないところが笑ってしまうが、実際にいたら厄介なタイプかも。一方の佐和子を淡々と演じる黒木華は、可愛らしい笑顔を浮かべながらも、ぐっさり相手を刺しにきている感じにゾワゾワする。
などと夢中になって観ていると、物語は思わぬ地点に着地する。不倫を入り口としながら、本作が伝えているのは決定的な男女のすれ違いだ。夫婦でこれほど見えている景色が違うとは……と思わずにはいられない。同時にタイトルの意味が腑に落ちる瞬間、それまではわからなかった佐和子の思いに気づくかもしれない。観る人によっては恐ろしくもすがすがしくもあるラストに、ふとわが身を振り返ってみたくなる。
監督・脚本/堀江貴大
出演/黒木華、柄本佑
公開/新宿ピカデリーほかにて9/10より
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©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
『ドライブ・マイ・カー』
村上春樹の同名短編小説をもとに、『寝ても覚めても』の濱口竜介が映画化。亡き妻の喪失感を抱える舞台俳優の家福が、人生を再生していく物語。西島秀俊が、静かだが気迫のこもった演技で魅せる。
監督・脚本/濱口竜介
出演/西島秀俊、三浦透子
公開/TOHOシネマズ日比谷ほかにて8/20より
©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.
『アナザーラウンド』
アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した人間ドラマ。酒を飲み、アルコール血中濃度を保つ実験を行う、4人の中年男性の悲喜こもごも。デンマークの人気俳優、マッツ・ミケルセンの魅力が炸裂!
監督/トマス・ヴィンターベア
出演/マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン
公開/全国にて9/3より
イラスト/ユリコフ・カワヒロ ※BAILA2021年9月号掲載