「今、身も心もとても軽やかなんです」とほほえむ。同じ場所にとどまることなく進化し続ける中村アンさんが、ガムシャラな日々を抜けたどり着いた新たなステージ。
シャツ¥121000/ブラミンク イヤリング(マラカイト)¥467500・シングルイヤリング(ダイヤモンド)¥572000・リング(指先側から)¥344300・¥234300・¥687500/ブシュロン クライアントサービス(ブシュロン)
ロングヘアの中村アンは嫌いじゃなかった。
でも、思う存分「やり尽くした」と思えた。
だから、私は新しい自分に出会うため髪を切った。
そんな私にある人がかけてくれたのが「自由を取り戻したんだね」という言葉でした。
ロングヘアをかき上げていた中村アンも私自身。
でも、気づかぬうちに周りが求める“中村アン”を演じている私がいたのかもしれない。
「自分はこうあるべきだ」「こうじゃなきゃいけない」私たちは無意識に自分をしばりつけていることがある。
未熟なときはそれを心地よく感じることもあったけれどそこから脱しないと新しい世界は広がらない。
いらない固定観念をハサミで切り落とし自分の意思で、自分の足で、歩き始めた今の私はとても自分らしく自由だ。
“どう生きるか”を自分で決める、そんな時期を迎えている気がする
「木村拓哉さんと初共演させていただいた『グランメゾン東京』は、お芝居の手ごたえを初めて感じることができた、私のターニングポイントといえる作品なんです。それだけに、2回目の共演が決まったときは本当に嬉しくて」
その“2回目”の共演作が映画『マスカレード・ナイト』だ。東野圭吾の人気小説を実写化、大ヒットを記録した映画『マスカレード・ホテル』の続編。そこで、アンさんは木村さんと華麗なアルゼンチンタンゴを披露している。
「今でも忘れられないのが『グラン〜』の撮影現場で目にした木村さんの姿。何もないまな板の上にまるで食材があるかのように、本番さながらに丁寧に演じる……リハーサルでも決して手を抜かないんです。木村さんは自分に対してとても厳しくストイックな方。でも、同時に真摯に芝居と向き合う人の姿をちゃんと見てくれていて、その思いや温度を受け止めてくださる方でもあって。皆でいい作品を一緒に作ろうと、現場を引っぱってくれるんです」
だからこそ「そんな木村さんの足を引っぱってはいけないなと。必死に練習しました」とアンさんは笑う。
「アルゼンチンタンゴは初体験。技術はもちろん、妖艶な表現もとても難しかったのですが、最後には木村さんに“タフで負けず嫌いなパートナーでよかったよ”って言っていただけた。その言葉はすごく嬉しかったです」
今作を観れば彼女がどれだけ練習を積み重ねたのかよくわかる。作品を重ねるたびに高まる芝居への情熱。
「私が髪を切ったのは“新しい自分”に出会いたかったのはもちろん、ドラマ『着飾る恋には理由があって』の役作りのためでもあって。本気で芝居と向き合っていることを周りにちゃんと伝えたい思いもあって切ったんです」
“髪を切る”という選択肢を選んだのは自分自身。彼女の短い髪には様々な“意思表示”が詰まっている。
「この仕事を始めたばかりの頃はとにかく必死で。ガムシャラに与えられたものと向き合ってきたけれど。経験を重ねた今、同じ歩み方をしていたら前には進めない。これからの人生は与えられるものを待つだけではなく、自分で選んでアプローチをしていかなければ成長できない。自分で“どう生きるか”を考えなくてはいけない時期を迎えている気がするんです」
プライベートに関しても「恋愛や結婚と仕事を両立するのは難しいと思っていたけれど。それも自分で決めつけていただけかもしれない。本当に欲しい未来があるなら自分で行動を起こさなければいけない。流れに身を任せていたらダメなのかなって、最近はそう思うようになりました」と笑う。
「自分は何をしたいのか、自分はどうありたいのか、これからは自分と向き合う時間が増えていく気がします。でも、それはきっと大切なこと。実は私、バラエティ番組で初めて木村さんにお会いしたとき“いつかドラマで共演したいです”と伝えたんです。それを木村さんは覚えていてくれて。“今一緒に共演している中村アンを見て、思いがある人はそれをかなえると感じた”と言ってくださったんです。未来はどうなるかわからないけど、意思を持って進めばきっと道は開かれる。そのためにも自分の心の声にちゃんと耳を傾け、思いを確認しながら、歩いていけたらいいなと思っています」
©2021 東野圭吾/集英社・映画「マスカレード・ナイト」製作委員会
映画『マスカレード・ナイト』
2021年9月17日公開
原作/東野圭吾『マスカレード・ナイト』(集英社文庫) 脚本/岡田道尚 監督/鈴木雅之 出演/木村拓哉、長澤まさみ、中村アンほか 配給/東宝
大ヒットを記録した前作に引き続き、またもやホテル「コルテシア東京」で事件が勃発。新田刑事(木村拓哉)はホテルの仮面舞踏会に集まった500人の容疑者の中から犯人を見つけ出すことはできるのか……⁉
撮影/生田昌士〈hannah〉 ヘア&メイク/笹本恭平〈ilumini.〉 スタイリスト/池田 敬 取材・原文/石井美輪 構成/岩鼻早苗〈BAILA〉 ※BAILA2021年10月号掲載