スポ根漫画の代表作の一つ「エースをねらえ!」。名門高校テニス部を舞台に、素人同然だった主人公岡ひろみが、宗方コーチに見出され、トッププレイヤーとしての道を歩んでいく不朽の名作です。読んだことはなくてもタイトルは知っていたり、上戸彩さん主演のドラマの記憶がうっすら残っている人も多いかもしれません。もしかしたら、漫画を知らなくても“お蝶夫人”という呼び名は知っているかも? このインパクトを超える名前はなかなかないですから!笑
「エースをねらえ!」の連載開始は1973年、今から半世紀近くも前のお話です。正直、初めて読んだ高校生の頃ですら絵柄は古いと思ったし、非科学的にみえるしごき方や先輩たちからのいびり、ジェンダー観にはやっぱり時代の違いも感じます(靴に画鋲が入っていたりとか!)。それでも、やっぱり読むたびに心が震え、涙が溢れる。それは、登場人物がみんな、誠実に真っ直ぐに、情熱を燃やして生きているからだと思います。
【感動1】応援したくなる主人公No.1!岡ひろみの魅力
びっくりするほど可愛いんですよ、ほんとに。こんなに気持ちのいい主人公は他にいないと言っていいくらい。人の言葉に耳を傾け真摯に努力し、至らないと思えば反省し、周りに対して攻撃的にならなければ必要以上に悲観的にもならない。素直で一生懸命なだけではなく、自分の頭で考えて経験を力に変えていくたくましさがあるんです。その上、テニスを離れればちょっとおっちょこちょいで天真爛漫だったりして、どうにも目をかけてしまいたくなる愛嬌まであるときたら、みんなに愛されるのも納得です。
私がすごいなと感じたのは、初めて選手に抜擢されて挑んだ試合での一コマ。この時点では明らかに実力不足で、先輩たちにはいじめられ対戦相手にもボコボコにされ、まさに四面楚歌の状態。でもそこで、憧れの先輩の言葉を思い出し、“もともと勝てるはずがないんだから今自分にできるベストを尽くそう”と頭を切り替える。自分がいざその立場になったとき、同じようにできるかというと本当に難しいことだと思うんです。この真摯さこそ、岡ひろみの最大の魅力!
どうですか、このひたむきな姿! 1学年に100人以上が入部する名門テニス部で、選手に選ばれるのは一握り。しかも、明らかに自分より上手い先輩がいるにも関わらず、それを押しのけて選抜されているわけです。その重みを理解し、耐えて、全力を尽くそうとする。涙腺ゆるゆるの私は、もうこのシーンだけで視界が滲みます。笑
【感動2】クールすぎる鬼コーチ! 宗方仁、魂の指導
そして、そんな岡ひろみを導く宗方コーチ。なんてったって一巻のタイトルが「鬼コーチ 宗方 仁の巻」。鬼は鬼でも冷たい鬼で、熱血というよりはクール、超クール。特に最初のうちは、理不尽にしか思えないことばかりでより怖く感じるんですよ。岡を選手に抜擢するときも特に説明がないので、先輩たちだってそりゃ「なんで?!」ってなるし、岡だって「なんで?!」ってなりますよ。でもそこで言葉を尽くすタイプじゃないんですね、宗方コーチは。その後の岡の成長によって周囲も、岡自身をも納得させる。
まあでも、実際、コーチ超怖いんですよ。さんざん追い込んで追い込んで、最後は“自ら”テニスを選ばせるという岡の覚醒プロセスには執念を感じるし、宗方コーチの生い立ちや半生が明らかになるエピソードからは岡への想いの深さを感じ、圧倒されます。でも、普通に生きていたら、これほどまでに強い絆を他人と結ぶことはできないないだろうと思うと、ちょっとだけ羨ましいような気もします。
上は「エースを狙え!」の大切な精神である、日本テニス界の先駆者 福田雅之助氏の格言『この一球は絶対無二の一球なり』が、初めて出てくる場面です(ちょっと表現は違いますが)。ストーリーが進むにつれどんどんと深みを増していく言葉で、読み返すと「今の自分は自分の取り組むべきことに絶対無二の一球として向き合えているだろうか」と問いかけたくなります。いつもは“明日死んでもいいように生きるなんて絶対無理”って思っているタイプなのに、「エースを狙え!」後は私の中の何かに火がつくんです…!
【感動3】王者の悲哀を体現!“お蝶夫人”の生き方
そして最後は、“お蝶夫人”。本名は竜崎麗華、蝶のように華麗に舞うプレースタイルからついたあだ名が“お蝶夫人”。日本庭球協会理事を父に持ち、生徒会副会長、テニスでは全日本優勝、公式戦97連勝を誇る、絶対的な存在です。そもそも岡ひろみがテニスを始めたのは彼女に憧れて。お蝶夫人も岡を可愛がっている様子が伝わってきます。周囲に神聖視されているお蝶夫人にとっては、無邪気に自分を慕ってくれる岡に癒しを感じていたような、そんな雰囲気なんです。
でも、そんな二人の関係は、岡が宗方コーチに見出され、テニスに本気で取り組み始めたことから“追うものと追われるもの”へと変わっていきます。最初こそ、岡を冷たく突き放したお蝶夫人も、嫌々組まされたダブルスの試合中に覚悟を決めるのです。この時の「たとえ負けてもあたくしはあなたに責任を押し付けたりはしない それより力をだしきらないプレイをすることこそをおそれなさい‼︎」がまたいいんですよ‼︎
何より痺れるのが、この「あたくしこそは孤独だわ‼︎」。いやこの言葉がこんなに似合う人います⁉︎ 彼女を慕う男性が、“王者の悲哀”と評するのですが、ぴったりすぎて怖い…! この後、岡の爆発的な成長によって、お蝶夫人は、“追い抜かれるもの”としての姿も見せてくれます。それが王者たるものかくあるべし、という見事な背中なんですね。最初は、よくいる“意地悪なお嬢様キャラ”にみえるかもしれませんが、その気高い生き方に心を震わされること間違いなしです。
「エースをねらえ!」には他にも魅力的なキャラクターがたくさん登場します。特に胸を打たれるのは、先達がみな、その背中からより高く飛び立つ者のための踏み台であろうとする姿勢。それは自己犠牲ではなく、より高い目標を共有しているから。岡ひろみが世界にはばたくことは、支えている人、応援している人、全員の喜びなんです。読者一人一人をこの“チーム岡ひろみ”に巻き込み、その感動をともに味わわせてくれる漫画、それが「エースをねらえ!」です‼︎ ぜひ試し読みから始めてみてください!
編集スガコ
生まれも育ちもBAILAな美容&インタビュー担当。コスメも人も深掘りしたい派。犬と猫、どっちも飼いたい族の犬飼い(ミニチュアシュナウザー)。漫画と本と映画と海外ドラマがあればだいたい幸せ。生涯の推しはレオナルド・ディカプリオ♡
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試し読みは2021年10月25日(月)~2021年11月7日(日)まで