人間と仙人が共に暮らす古代中国を舞台に、殷から周への時代の移り変わりを独自の解釈で描いた漫画「封神演義」。その響きからも、シリアスな歴史漫画をイメージさせるタイトルですが、藤崎竜氏の描く「封神演義」は、歴史もの?かと思いきや異能力バトル⁉︎と思いきやSF⁉︎と、原作にあたる中国四大奇書「封神演義」の日本語訳(安能訳)版を、さらに大胆にアレンジして、予想もつかない展開に読者を連れていってくれる最っ高に面白いマンガなのです。シリアスとコメディを行き来しながら「次はどうなる⁉︎」とストーリーを追いかけていくと、緻密に張り巡らされた伏線とその見事な回収劇に圧倒される、パーフェクトな全23巻。読み始めたら最後まで読んじゃうし、最後まで読んだら、もう一度最初から読み返したくなること間違いなしです!
そんな「封神演義」の主人公・太公望。見た目は青年ですが、元人間の現仙人で、年齢はなんと72歳。結構なおじいちゃんだからか、喋り方は「〜じゃのう」みたいな感じです。この太公望、すごく不思議な主人公で、多分この漫画の中でいちばん戦闘能力が高いというわけでもないし、いちばん頭がいいというのもちょっと多分違う(策士ではある)、すごく性格がいいというわけでもない(笑)。なのに、"この人についていきたい"と思わせる、ニュータイプのリーダーなんです。「封神演義」には魅力的なキャラクターがどんどこ登場するんですが、やっぱり太公望が好きだー!!ってなる。きっとなる。ということで、「封神演義」のストーリーをさらりとご紹介しながら、太公望の魅力を語っていきたいと思います!
【ここが好きだよ!太公望】失敗を真摯に見つめ犠牲にした命を忘れないところ
物語は、仙人界の偉い人・元始天尊から、太公望が「封神計画」を託されるところから始まります。この時代は仙人が普通に人と一緒に暮らしているんですが、中には悪い仙人もいて、その悪い仙人を人間界から一掃し人間界に平和をもたらす、そういう計画だと説明されます。いちばんの悪者は、殷の王様の妃であり傾国の美女と言われる妲己。その正体は妖怪仙人で、しかも仙人界でも最強の部類。王様も周囲も自分の意のままに操り、国をダメにしていく妲己の行いは極悪非道。表現もグロテスクで結構抉られるのでご注意を(でもなんだかんだ魅力を感じてしまうのが藤崎流妲己のすごいところなんですが)。
物語の序盤、太公望は、この妲己さえなんとかして倒せば人々の犠牲もなく「封神計画」を完遂できるのではと、策士らしく妲己の妹・王貴人を罠にはめて追い詰め、妲己に近づきます。が!そこは大ボス妲己、1枚どころか2枚も3枚も上手、逆に太公望は窮地に陥ります。恐ろしいのは妲己が太公望の弱点を見抜いているところ。太公望っていう人は、自分がこれで殺されるのであればその運命を受け入れてしまうであろうタイプ。ですが、自分のせいで人々が犠牲になるということには耐えられない。だから妲己は、太公望が自分に楯突いたことを理由に、罪もない一般の民衆(しかも太公望が人間であった時の同族・羌族の人々)を残虐な刑に処します。
ギリギリのところで誰か助けてくれたり、温情によってこんな大勢の命までは取られずに済んだりするんじゃないかと思いたいところですが、そうはならない。現実は冷酷です。これはこの「封神演義」の物語の中で、太公望にとって、おそらく忘れられない傷なのではないかと思います。ただ、この最後の太公望の目。自分が犠牲にしたものの大きさをちゃんと受け止め、死ぬことは贖罪にならないことを知り、なすべきことをなすための決意を新たにする大切なシーンです。この先の太公望がはちゃめちゃなことをしたり、犠牲が伴うことを知りながら進まなければいけない道を進む時、その心の中には彼らがいることがわかる。本質的には誰も犠牲にしたくないという優しさと、犠牲を胸に戦い抜く覚悟。これがあるからこそ、この場面で声をかけてくれた黄飛虎のように、彼を慕い、助けてくれる人が増えていくんですね。
【ここが好きだよ!太公望】自分がどう見られるかを気にしない!
その後、新たな思いで「封神計画」を進めるため、仲間を増やしに西へ向かう太公望。もともと太公望は自分が偉くなりたいとか、強くなりたいとかっていうことは思っていない風ではありますが、ここからはさらになんだか開き直ったかのよう。普通ならすごく冷酷な言葉の印象の「目的のためなら手段は選ばない」が彼にかかると「自分がどう思われようが計画がうまくいけばいい」という話になる。
これは大人気キャラクターの一人、哪吒を仲間に引き入れるところ。母親を人質にとり、精神的な揺さぶりをかけるところは、正義の味方には思えません! 相棒の空飛ぶカバ?もとい霊獣・四不象(スープーシャン)にも「すっかり悪役っスね」と泣かれてしまっています(笑)。
お次は、こちらも人気キャラクター、天才道士・楊戩との出会いのシーン(すいません肝心の楊戩が写ってないページで)。元始天尊には太公望をサポートするように言われてきた楊戩ですが、自分ではなく太公望に「封神計画」を託したことが最初はどうも気に食わない様子、太公望が信頼に足る人なのかテストしたいと言い出します。ここでも太公望は、関所を抜けようとする民衆ではなく関所の味方をして、「裏切り者!」と石を投げられています!(笑)
もうここだけ見ると、「なんなんだこの主人公は⁉︎」って感じですが、実際には、誰のことも傷つけず、哪吒、楊戩の信頼を勝ち取ることに成功してるんです。太公望にとってはそれだけが大事なことで、自分が悪く思われたり罵られたりすることなんて大した問題じゃないんですよね。たまに出番が少ないとか、主人公扱いしてもらえないと嘆いたりもしていますが、それはそれ(笑)。実際の世の中には、仕事がうまくいくことより、自分がいばりたいとかよく思われたい気持ちが先行する上司もたくさんいるわけですから、それに比べたらどれほど素敵なリーダーかっていう話。
【ここが好きだよ!太公望】それでもやっぱり優しいところ!
妲己との最初の戦いで大変な経験をした太公望。実はそれ以前にも、殷によって酷い目に遭っています。人間だった時の太公望は、姜族の呂望という青年だったのですが、両親をはじめ一族みんなを殷の軍隊に滅ぼされているんですね。だからこそ、妲己を倒し、悪い仙人のいない平和な人間界を作る「封神計画」を遂行する強い理由がある。殷には恨みがあるといってもおかしくないはずなんです。それでもやっぱり、どこまでも優しいのが太公望という人。
西へ向かう道中、殷の王様・紂王の息子である太子2人と出会った太公望。彼らの母は妲己に追い詰められ、自害。宮中から逃げてきたところ、妲己の差し向けた追手に殺されそうになり、太公望はこの2人を助けます。そこに現れたのが、その実力は妲己以上と言われる仙人界最強の道士・申公豹。殷の太子という責任のある身でありながら、国を民を見捨て、自分たちだけ助かろうとする姿勢を糾弾し、殷へ連れ帰ると言う。申公豹の話は、しごくもっともに思えますが、それでも太公望は太子を庇う。それも、その行いがいつか自分に跳ね返ってくことを分かっていながら。
この後も平坦ではない道のりが続きますが、太公望は優しさと覚悟を胸に、常に大きな目的のために“自分は何をなすべきか”を考え続けます。表面上はだいぶだらけたりふざけたりしていることも多いけど、みんなに慕われているのはそういう誠実さが伝わるから。と、だいぶマジメに語ってしまいましたが、「封神演義」はコメディ半分、テンポもよく、気構えずとも楽しく読み進められるお話。太公望が策士なのもあってか、バトルな展開でもパワー対パワーというよりは知略の部分が多いのも魅力です。ジャンプ史上屈指の構成・伏線回収のストーリーを、ぜひこの機会に堪能してください!
編集スガコ
生まれも育ちもBAILAな美容&インタビュー担当。コスメも人も深掘りしたい派。犬と猫、どっちも飼いたい族の犬飼い(ミニチュアシュナウザー)。漫画と本と映画と海外ドラマがあればだいたい幸せ。生涯の推しはレオナルド・ディカプリオ♡
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