アメリカはアワードシーズン真っ盛り! 1月5日(現地時間)にはオスカー前哨戦と言われる第82回ゴールデングローブ賞の映画・TV部門の授賞式が華やかに行われ、ここから3月に開催されるアカデミー賞授賞式まで数多くの有力な賞が発表されます。
そんなアワードシーズンを席巻しているのが、世界最高のクオリティを誇るディズニーの秀作群。特に、近年はディズニーの高品質ドラマが賞レースで存在感を増しており、今期は『SHOGUN 将軍』旋風が巻き起こっています。ディズニー作品が賞レースに強い理由は、どこにあるのでしょうか。話題のドラマシリーズの魅力とともに、20年以上にわたり映画・海外ドラマの最先端を取材&執筆している今 祥枝さんが解説します!
2025年1月5日(現地時間)にロサンゼルスで開催された第82回ゴールデングローブ賞の授賞式後の『SHOGUN 将軍』チーム。写真右からTVの部ドラマシリーズ部門の助演男優賞を受賞した浅野忠信、同主演男優賞を受賞した真田広之、同主演女優賞を受賞したアンナ・サワイ、共演者のコズモ・ジャーヴィス。@GG2025
『SHOGUN 将軍』『一流シェフのファミリーレストラン』…ディズニーのTVシリーズが賞レースに強い理由
ゴールデングローブ賞ほかで圧倒的存在感を発揮するディズニーブランドの現在を紐解く
ディズニーと聞けば、2024年も興行記録を塗り替えるほどの大ヒットを記録した『インサイド・ヘッド2』や『モアナと伝説の海2』(まだまだ記録更新中)といったアニメーション映画が、すぐに思い浮かびますよね。
一方で、昨年から世界中で熱狂の渦を巻き起こしているTVシリーズ『SHOGUN 将軍』もディズニー作品だと知って、意外に思った方もいるかもしれません。ハリウッドで制作された、日本の戦国時代を模した本格的な時代劇。プロデューサーを務める真田広之が戦国一の武将を演じて、戦乱の世に将軍の座をめぐる陰謀と策略が渦巻くエンターテインメント大作です。
作品のプロデューサーを務め、主人公の戦国武将・吉井虎永を演じ『SHOGUN 将軍』を大成功に導いた真田広之と、通訳の役割を果たすキリシタン戸田鞠子役のアンナ・サワイ。
『SHOGUN 将軍』は、昨年の第76回エミー賞で作品賞を含む18部門というエミー賞史上最多記録を樹立し、事前に開催されたクリエイティブ・アーツ・エミー賞でも最多14部門を受賞。真田の主演男優賞は日本人初のほか、技術部門を含めると史上最多9名の日本人俳優・スタッフが受賞するなど、とにかく記録づくめです。
さらに1月6日に開催されたゴールデングローブ賞授賞式では、真田、アンナ・サワイ、浅野忠信、そして作品賞の4冠という快挙! 映画部門も含めて、この日いちばんの盛り上がりを見せたのが"SHOGUNチーム"だったと言えるでしょう。近年勢いのある中国や韓国などのアジア勢の中では目立たなかった日本ですが、以前インタビューした際に真田自身が語っていたように、まさに「時代は変わった」ことを実感した瞬間でした。
もう一つ、記録を作ったドラマが『一流シェフのファミリーレストラン』です。シーズン2が対象となった昨年の第76回エミー賞では、コメディシリーズ部門で10冠に輝き、同部門での最多受賞記録を更新しました。
TV・配信シリーズはシーズンごとに評価されるので、毎年高い質を保ちながらシリーズが続くと連続してノミネートされる作品も少なくありません。『一流シェフのファミリーレストラン』の主演のジェレミー・アレン・ホワイトは、今年のゴールデングローブ賞では3年連続で主演男優賞を受賞する快挙を達成しました。
ほかにもマーベル・コミックスのキャラクターに基づく異色作『アガサ・オール・アロング』や、個性的な3人組が事件を解決する『マーダーズ・イン・ビルディング』など、作風の異なるディズニー作品が今期の賞レースでも目立っています。このような質が高くバラエティに富んだラインナップを可能にしているのは、ディズニーがそれぞれに優秀なクリエイターを擁する有力スタジオを多く抱えているから。
100年の歴史を誇るディズニーの伝統と質の高いストーリーテリング、テクノロジーの進化、そして潤沢な資金力。そこにFXスタジオや20th テレビジョンといった、それぞれに卓越したノウハウを持ち、視聴者から絶大な信頼を得ているスタジオが加わることで、揺るぎない質の高さをベースとした、多様で革新的な作品が生まれているのです。
ゴールデングローブ賞授賞式での『SHOGUN 将軍』チーム
@GG2025
第82回ゴールデングローブ賞のTVの部ドラマシリーズ部門の主演男優賞を日本人として初受賞、プロデューサーとして作品賞を受賞し、2つのトロフィーを手にした真田広之。英語での受賞スピーチでは、若い俳優やクリエイターに向けて「決してあきらめないでください」と熱い思いがこもったメッセージが感動的だった。タキシードはブラックベルベットのラルフローレン。
@GG2025
第82回ゴールデングローブ賞のTVの部ドラマシリーズ部門の助演男優賞を日本人として初受賞した浅野忠信。受賞スピーチで「I'm very happy!!!!」とガッツポーツを取るなど喜びを爆発させて大ウケ! 会場にいた映画『リアル・ペイン~心の旅~』のキーラン・カルキン、ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』のエボン・モス=バクラックらも笑顔で大きな拍手を送っている姿が映し出された。タキシードはルイ・ヴィトン。
@GG2025
第82回ゴールデングローブ賞TVの部ドラマシリーズ部門の主演女優賞を受賞したアンナ・サワイ。日本人として同賞受賞は、1981年の島田陽子(『将軍 SHOGUN』まり子役)以来44年ぶりだ。受賞スピーチでは、落ち着いて関係者らに謝意を述べ、「私なら絶対にキャシー・ベイツさんに投票したと思う」とライバルへのリスペクトを語った。この日はディオールのカスタムメイドドレスにカルティエの3連チョーカーを合わせて、輝くばかりの美しさ!
歴史的快挙が続く『SHOGUN 将軍』の多層的な魅力
野心的で画期的! 本物志向とチャレンジ精神が生んだ新時代のドラマ
徳川家康ほか歴史上の人物にインスパイアされた「関ヶ原の戦い」前夜を描く。窮地に立たされた戦国一の武将・吉井虎永(真田広之)は、漂着した英国人航海士ブラックソーン(コズモ・ジャーヴィス、三浦按針ことウィリアム・アダムズがモデル)と出会い家臣とする。戦乱の世に渦巻く陰謀術数や心理戦が展開する中で、2人を待ち受ける運命とは……。真田の繊細な"静"の演技と威厳のある存在感はさすが!
すでにメディアを通じて、本作がいかに本物指向(オーセンティシティ)を極めているかは、多くの方が周知の事実ではないでしょうか。日本人役は日本人が演じ、セリフも7割が日本語で時代劇の言葉遣いも徹底しています。
もとより、ドラマを未見でも場面写真をいくつか見るだけで、これがハリウッド制作でカナダで撮影した作品だとはにわかに信じられないものがありますよね。これまで20年以上もハリウッドで活躍し、なるべく正しい日本文化の描写を実現するために尽力してきた真田の思いが結実した映像世界は、全10話にわたってどこの国の作品を観ているのかと思うほど、セットや衣装から俳優の所作などすべてが本格的です。
ハリウッドにおけるアジアの才能の台頭は近年、韓国を筆頭に勢いがありますが、ここまで日本人と日本文化を主体とする作品を作ることが容易であったはずはありません。あえてネームバリューのあるハリウッドスターは起用せず、日本人のキャラクターをしっかりと掘り下げ、番組の宣伝も真田やサワイらを全面に出す。正直なところ、「随分と思い切ったことをするな」と感心したものでした。何しろ、私の20年以上のキャリアの中でも前例が思い当たらないので。
しかし、この大胆な戦略が、いかに社会の変化とマッチしていたのか、時代を先読みできていたのかは、本作の世界的なヒットが証明しているでしょう。
製作を手がけているのは、2010年代に現代のホラー人気をいち早く先取りした『アメリカン・ホラー・ストーリー』やトランスジェンダーの俳優を多数起用した『POSE』など、娯楽性とメッセージ性を兼ね備え、クリエイター重視の作品作りで定評があるFXスタジオ。『SHOGUN 将軍』の成功は、このFXのチャレンジ精神と英断があってこそだと言えます。
一方で、「日本の時代劇」に最大限の敬意を払いつつ、スリリングで次の展開が読めない『ゲーム・オブ・スローンズ』のような歴史ファンタジー的な楽しみ方もできるところが本作の強みでしょう。だからこそ、海外の視聴者にとって新味が強くも入りやすく、日本人にとっては見慣れた時代劇にハリウッドのスケールの大きさと欧米の視点が融合した世界が、ある意味で"新感覚の時代劇"に映るのではないでしょうか。
日本独特の文化や精神を万人の胸に響く普遍的なメッセージとして描き、どの国の人にとっても楽しめるエンターテインメントに昇華している本作は、まさに伝統と革新が生んだ新たな時代を象徴する作品なのです。
伊豆を支配する武将・樫木藪重(浅野忠信)。吉井虎永の家臣だが、時勢を読んでうまく立ち回ろうとする野心家だ。残忍で民衆には恐れられているが、浅野の悪びれないひょうひょうとした演技が印象的で、「ヤブシゲ」として海外でも非常に人気の高いキャラクターだ。
カナダ・バンクーバーのセットで撮影中の真田広之。本格的な日本の時代劇を作るためには高度なテクノロジーも欠かせない。劇中では、闇夜の合戦や嵐の海での攻防戦から大きな地震まで、ディズニーの資本力があってこその大掛かりなセットでの撮影と最新のVFXを組み合わせたスペクタクルなシーンに圧倒される。
ステレオタイプではない女性たちの生き様が伝える現代性
鞠子役で国際的に大ブレイクを果たしたアンナ・サワイの熱演は必見! ニュージーランド生まれ、東京育ちのサワイは、映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のほか、現在は秀作ドラマ『パチンコ - Pachinko』やドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』では主演を務めている。今後の活躍も期待大。
戦国時代の武将たちの権力争いの物語は男性のものであって、女性は脇役と考える人がほとんどだと思います。しかし、『SHOGUN 将軍』に登場する女性たちは、時代に翻弄されながらも主体性を持ち、それぞれに一本筋の通った生き方を見せてくれます。
中でも、もう一人の主役と言えるのがアンナ・サワイが熱演する戸田鞠子です。鞠子は、明智光秀の三女で後に細川ガラシャと呼ばれる明智たまにインスパイアされたキャラクター。本作では虎永の家臣・戸田広勝の妻で波乱に満ちた過去を持ち、敬虔なキリシタンです。語学に堪能で、虎永から漂着した英国人航海士・ブラックソーンの通訳を任命されます。
威圧的な夫に従順である一方、聡明で冷静沈着な鞠子は虎永の信頼も厚く、虎永と戦国の世の命運の鍵を握るのも、実はこの鞠子です。終盤では一世一代の壮絶な展開が待ち受けているのですが、そのエピソードが配信された日は、SNS上では「今年のエミー賞はアンナ・サワイに決まりだ」など絶賛の声が、特に海外の視聴者の間で相次ぎました。自らの運命を受け入れつつ、それに抗うかのように熱い心を持ち、自らの使命を全うする鞠子の生き方は力強く、あっぱれ!と拍手をしたくなる痛快さがあります。
ほかにも海外で人気が高かったのが、穂志もえかが演じる、虎永の忠臣・戸田広松の孫娘である宇佐見藤です。藤は戦国時代の女性が戦略的な道具として政治に使われた事例として描かれたキャラクターで、冒頭から夫が切腹を命じられ、乳飲み子の息子も命を絶たれるという悲劇に見舞われます。そんな藤をさらなる苦難が襲う展開に、その可憐で健気な様子から海外では「フジサマを救え!」といったポストも目につきました。
武士の娘である藤は見た目のかよわさとは裏腹に、誇り高く聡明で、薙刀の腕もかなりのもの。決して受け身なだけでなく、与えられた境遇の中で自らの信念を貫き、嵐にも負けず凛と咲き誇る一輪の花のように、鞠子やブラックソーンらと関わりながら過酷な現実に向き合う姿に心打たれます。
出番は多くはないのですが、巧みな演技で多くの視聴者を魅了したのが亡き太閤の側室・落葉の方を演じる二階堂ふみです。織田信長の妹のお市の方の娘・茶々、後の淀殿にインスパイアされたキャラクターで、本作では太閤の子を産んだ唯一の女性として大きな政治的影響力を握っています。
妖艶な魅力を持つ落葉の方はいわばジョーカーで、虎永を執拗に追い詰めていく策略家でもあります。夫を失い、保身のために策を弄する落葉の方は、文字通り虎永の命運を握る興味深い人物なのですが、二階堂の目で物語る演技に「視線だけで、これほど多くの感情のレイヤーを伝えることができるとは!」といった賞賛の声がSNS上でも多く見受けられました。虎永を演じる真田との緊迫感あふれる共演シーンも見ものです。
ほかにも、戦国時代に存在した遊女たちの姿も描かれます。その一人が、向里祐香が演じる伊豆でいちばんの遊女・お菊です。この時代には街道を行き来し、街道沿いの市街地に定住する自律的な遊女の集団が生まれ、リーダーも含めて女性だけで構成されていたものの、戦国時代末期になると男性の「経営者」が登場するようになるという背景があります。
数々の男たちを虜にするお菊もまた聡明な女性で野心家であり、藪重(浅野忠信)の甥・樫木央海(金井浩人)に近づきながら、過酷な世をサバイブしようと全力を尽くす女性を体現して印象に残ります。
このように、本物指向に徹して本格的な日本の時代劇でありながら、ステレオタイプな悲劇の女性キャラクターを描くのではなく、現代の視点で再解釈された女性像は力強く見応えがあります。
可憐で健気な藤さまは、思わず応援したくなる! 演じる穂志もえかは、2018年の『少女邂逅』で映画初主演。ほかに『湖の女たち』など。
抜け目のない落葉の方は、五大老の一人である石堂和成(平岳大)をそそのかし、自分と息子の身に危険を及ぼしかねない虎永に敵意を向ける。演じる二階堂ふみの顔のクローズアップが映し出す複雑な感情の揺らぎが、なんともドラマチック。
お菊を演じる向里祐香は、多くのCMやMVに出演するほか2022年公開の映画『愛なのに』での演技が高く評価された。『TOKYO VICE』『INVASION』で海外進出も果たしている。
賞レースを席巻中! 話題のドラマシリーズ3選
『SHOGUN 将軍』以外にも、今期の有力な賞レースでノミネートされている、ディズニープラスで見られるドラマはたくさんあります。その中から、直近の第82回ゴールデングローブ賞にもノミネート(受賞も含む)された3作品をクローズアップ! 女性キャラクターに注目しながら作品が評価されている理由を解説します。
ドラマ『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン3
2022年8月にシーズン1の配信が始まって以来、当初は業界人の間で絶賛評が相次ぎ、人気に火がつくと同時に賞レースの常連となっているのが『一流シェフのファミリーレストラン』です。
主演のカーミーを演じるジェレミー・アレン・ホワイトは、本作の演技で2度のエミー賞、3度のゴールデングローブ賞に輝いて賞レースでは無双状態。ドラマ『シェイムレス 俺たちに恥はない』や、2024年の映画『アイアンクロー』の演技も高く評価された。新作『Deliver Me From Nowhere(原題)』では主役のブルース・スプリングスティーンを演じる。
舞台は、シカゴにあるイートイン・デリのイタリア風ビーフ・サンドイッチ店「ザ・ビーフ」。世界的に有名なレストランの新鋭シェフだったカルメン(通称カーミー)は故郷のシカゴに戻り、自ら命を絶った兄マイケルが経営していたこの店を継ぐことにします。クセ者ぞろいの従業員たちに手を焼きながら、若きシェフのシドニーらを新たに雇い、店を立て直すべく奮闘します。
チームビルディングものとしては王道の設定ですよね。しかし、この普遍的な物語が『SHOGUN 将軍』と同じFXスタジオの手にかかると、古今東西の同種の作品のいずれとも異なるオリジナリティにあふれた名作に。
何よりも魅力的なのは、個性的な登場人物たちの人間模様です。主演格にして番組の原動力として人気を牽引するのが、ジェレミー・アレン・ホワイトが演じる天才シェフのカーミーです。トラウマを抱え、繊細な性格である一方で、ミステリアスで人を魅了せずにはいられないカリスマ性がある。問題の多い性格ではあるけれど、料理に向かう真摯な姿にはぐっと熱いものが込み上げてくるものがあり、アレン・ホワイトは本作で大ブレイクを果たしました。
スーシェフ(副料理長)のシドニー(アヨ・エデビリ)、荒っぽくもピュアな一面を持つリッチー(エボン・モス=バクラック)など、各登場人物たちがそれぞれにキャラ立ちしており、それぞれを中心にしたエピソードも。彼らが葛藤しながらも一つの目標に向かう姿を、怒涛の会話劇とスタイリッシュな映像美で描く本作は、誰にとっても甘くない人生の哀歓を伝えて胸に迫るものがあります。
特に最新のシーズン3では、ここからが人生の本番という若いシドニー、決して楽ではなかった人生も後半に差し掛かって新たな世界に飛び込むベテラン店員のティナ(ライザ・コロン=ザヤス)、カーミーの姉で臨月のナタリー(アビー・エリオット)、そしてカーミーらと確執のある母親ドナ(ジェイミー・リー・カーティス)ら、それぞれに生き方の異なる女性たちのエピソードが充実しています。
例えば、ティナの過去を描いたシーズン3の第6話「ナプキン」は、思わず涙が込み上げてくる出色の出来。シドニー役のエデビリが監督を務め、これが初監督とは思えない手腕を発揮しています。
昔からよくある題材に正面から挑み、今の時代における最先端の娯楽として、一級の作品に昇華する。FXスタジオがTV業界で長きにわたって培ってきたノウハウと、アートハウス系の映画を観るかのようなエッジの効いた作風が融合した本作は、映画ファンにこそおすすめの人間ドラマの秀作です。
古株の店員ティナ(写真左)と新参者の才能ある料理人・シドニー(写真右)。二人は反目しながらも、互いの存在を認め合っていく。シドニー役のアヨ・エデビリは、本作でゴールデングローブ賞とエミー賞を受賞。ティナ役のライザ・コロン=ザヤスもエミー賞を受賞している。
カーミーの亡くなった兄マイケルの親友でサンドイッチ店を切り盛りしてきたリッチー(写真左)は、カーミーの登場により自身の存在価値に焦りが生じる。カーミーの姉で店の共同オーナー・ナタリー(写真右)は、カーミーの精神面も心配するしっかり者だ。リッチー役のエボン・モス=バクラックは、本作で2度のエミー賞を受賞。ナタリー役のアビー・エリオットも好演。
ドラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』シーズン4
2021年8月に配信開始された直後から絶大な人気を獲得し、賞レースの常連となっている『マーダーズ・イン・ビルディング』。ディズニーが誇るスタジオの一つ、20th テレビジョンの大ヒット作です。
オリヴァーとチャールズとともに、殺人事件の解決に挑むメイベル。演じるセレーナ・ゴメスは、2007年に『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』シーズン2から3にかけて出演し、『ウェイバリー通りのウィザードたち』で大ブレイク。新作は話題の映画『エミリア・ペレス』。2024年12月には音楽プロデューサーのベニー・ブランコと婚約を発表し、公私ともに絶好調だ。
ニューヨークの瀟酒なアパートに住む、高齢男性オリヴァーとチャールズ、30代のメイベル。実は犯罪マニアという共通項がある3人が、殺人事件の捜査をPodcastで実況しながら解決していくことになるミステリーです。
1シーズン10話(1話40分程度)ごとに一つの事件を解決していくスタイルで、純粋に謎解きの面白さがあると同時に、もろもろの気の利いた小ネタから衣装やプロダクションデザインの楽しさも加わり、大人の満足度の高いライトな娯楽作に仕上がっています。
当初はアパートが舞台の中心でしたが、シーズン3ではブロードウェイで事件が起き、今期の賞レースの対象となっているシーズン4ではハリウッドも登場。前シーズンから出演しているメリル・ストリープをはじめ、エヴァ・ロンゴリアからロン・ハワード監督までゲスト出演も華やかで、ハリウッドの業界ジョークも冴えわたります。
キャスティングがまた絶妙で、マーティン・ショートとスティーヴ・マーティンというアメリカのエンターテインメント界のレジェンド俳優たちを向こうに回し、あちらこちらへと脇見に逸れていく彼らをぐいっと引っ張っていくセレーナ・ゴメスの存在感が際立っています。
ゴメスといえば、ディズニーチャンネルの大ヒットシリーズ『ウェイバリー通りのウィザードたち』のアレックス役で一躍人気スターに。歌手としても活躍しており、俳優として順調にキャリアを重ねながらプロデュース業でも才能を発揮し、本作でもプロデューサーとして手腕を奮っています。今年のゴールデングローブ賞では最多受賞した新作映画『エミリア・ペレス』(3月28日公開)での演技も高く評価されて、映画とTVの両部門で演技賞にノミネートされる快挙。
私はこのシリーズを観ると、いつも純粋にアメリカのエンターテインメントのお家芸であるコメディの手慣れた作りに感心してしまうのですよね。楽屋落ちやオフビートな笑いの粋さもさることながら、殺人事件の謎解きにのめり込む人々の姿をおもしろおかしく描いているようで、そこから浮かび上がるのは現代人の孤独のようにも感じられて一抹の寂しさも。
伝統的なジャンル作品のよさはマックス。同時に、事件が解決しても何かしら胸に残るものがある余韻も含めて、アメリカのTV業界の人材の豊富さ、層の厚さを感じさせるハイレベルなシリーズです。
ドラマ『アガサ・オール・アロング』
今更説明するまでもないかもしれませんが、マーベル・コミックスを原作とする映画やTVの制作を手がけるマーベル・スタジオもディズニーが擁するスタジオの一つです。
『アガサ・オール・アロング』はエリザベス・オールセン主演のマーベルドラマ『ワンダヴィジョン』のスピンオフ作品で、同作に登場した魔女アガサ・ハークネスを主人公にしたダーク・ファンタジー。『ワンダヴィジョン』で魔力を奪われ、おせっかいな一般人アグネスとして生きることを強いられていたアガサが、記憶を取り戻し、突破すれば望みが叶うという伝説の"魔女の道"の試練に、謎の少年と連れ立ち挑む旅路が描かれます。
魔力を奪われた本物の魔女アガサ・ハークネスと謎の少年が、望みを叶える"魔女の道"の試練に挑む旅に出る。演じるキャスリン・ハーンは、人気ドラマ『女検死医ジョーダン』や映画『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』など、多くの作品に出演するベテランだ。
全10話でコンパクトにまとまっており、SF色は弱めで一風変わったミステリーとして展開する物語は、驚きのツイストもよく効いていて楽しみやすい作り。何より、主演のアガサを演じるキャスリン・ハーンはハマり役で、本来悪役であるアガサの知られざるバックグラウンドが明かされる本作では、どこか憎みきれないユニークなキャラクターを生き生きと演じていて魅力があります。
この種の作品は賞レースとは無縁に思えるかもしれませんが、マーベル・スタジオの作品には前述の『ワンダヴィジョン』やアンソニー・マッキーとセバスチャン・スタン共演の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』、トム・ヒドルストン主演の『ロキ』やパキスタン系アメリカ人の女性ヒーローを描いた『ミズ・マーベル』など、批評家に高く評価されている意欲作が少なくありません。
特に、配信シリーズでは女性を主人公にしたシリーズに力を入れています。『キャプテン・マーベル』でMCUシリーズに女性ヒーローの主演映画が公開されたのは2019年のこと。それから4〜5年の間に、男性ヒーローが優位だったMCUにおける女性キャラクターの役割は、配信シリーズを原動力として加速度的に進んでいるのです。
ディズニーの傑作ドラマ4選で女性の生き方を考える
ディズニーの公式動画配信サービス、ディズニープラスでは、『SHOGUN 将軍』をはじめ豊富なアーカイブがずらり。エミー賞やゴールデングローブ賞を賑わせたドラマの中から、女性の生き方について考えさせられる4作品をピックアップして見どころを紹介します!
ドラマ『ベター・シングス』(2016‐2022年・5シーズン全52話)
クリエイターとして手腕を発揮し、主演のシングルマザーのサムを熱演したパメラ・アドロン(写真左)、難しい年頃の娘マックス役のマイキー・マディソン(写真右)は映画『アノーラ』で賞レースを席巻中。FXスタジオの作品から羽ばたいた才能は多い。
シングルマザーのサムと反抗期の3人の娘、そして向かいに住むお節介な母親との日常を描いた全5シーズンのコメディドラマ。ささいな出来事でも積み重なれば、大きなストレスになるというもの。元夫や母親、ママ友の存在から娘たちに頭を悩ませるサムの姿は、誰にとっても他人ごととは思えないリアリティがある。それもそのはず、サム役のパメラ・アドロンはクリエイターとして脚本、監督、プロデューサーも手がけており、自身の体験を反映しているそう。このような新たな才能にも思い切って機会を与えるのも、制作を手がけるFXスタジオならではと言えるだろう。
ドラマ『バツイチ男の大ピンチ!』(2022年・1シーズン全8話)
離婚した夫婦、トビーとレイチェル。トビー役のジェシー・アイゼンバーグ(写真左)は『ソーシャル・ネットワーク』などの俳優として知られるが、作り手としても活躍。映画『リアル・ペイン~心の旅~』(1月31日公開)では監督・脚本家を務めて賞レースを賑わせている。
ニューヨーク市に住むユダヤ人の医師トビー(ジェシー・アイゼンバーグ)は、離婚した寂しさから出会い系アプリにのめり込む。そんな中、芸能エージェントの元妻レイチェル(クレア・デインズ)が失踪し、2人の子どもたちの面倒を見ることに。ドラマはトビーが悪戦苦闘しながらレイチェルとの日々を振り返る姿をおもしろおかしく描くが、後半でレイチェルの視点に転じる構成が肝。トビーの目から見た妻とレイチェルから見た夫の姿に、どれほどの乖離があるのか。そしてレイチェルがずっと口に出せなかったお産にまつわるトラウマが明かされるとき、結婚の難しさ、男女のすれ違いについて考えずにはいられない。デインズの渾身の演技が涙を誘う。制作は、数々のヒット作を手がけるディズニーの子会社ABCシグネチャー。
ドラマ『パム&トミー』(2022年・1シーズン全8話)
世間の注目を集めるセクシーモデルで俳優のパメラ・アンダーソンとバンド「モトリー・クルー」のメンバー、トミー・リーのカップル。リー役のセバスチャン・スタン(写真右)は、『A Different Man(原題)』で第82回ゴールデングローブ賞を受賞。映画『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』が1月17日より公開。
往年の大ヒットドラマ『ベイウォッチ』のモデルで俳優のパメラ・アンダーソン(リリー・ジェームズ)と、ヘヴィメタル・バンド「モトリー・クルー」のトミー・リー(セバスチャン・スタン)。1995年に出会い、1週間足らずで結婚した2人が新婚旅行中に撮影したセックステープが何者かによって盗まれ、インターネットに公開されたことから起こった騒動の顛末を実話に基づき描く。特にセクシーな容姿で人気のあったアンダーソンは徹底的にネタにされ、嘲笑の対象となってしまったインターネット黎明期の事件。こうしたケースにおいていかに女性の立ち場が圧倒的に不利であるのかを思い知らされると同時に、今の時代にも通じる多くの問題提起が優れている。制作はディズニーが擁する米Hulu。
ドラマ『アンダー・ザ・ブリッジ』(2024年・1シーズン全8話)
自身もトラウマを抱える作家レベッカは、14歳の少女殺害の犯人を突き止めるべく交友関係のあった少女たちの本音に迫る。映画『ビースト』やドラマ『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックスがマジで最高だった頃』のライリー・キーオが好演。
1997年にカナダのBC州バンクーバー島で起きた、14歳の少女リーナ・ヴァークの殺人事件を扱った作家レベッカ・ゴッドフリーの著書に基づき全8話でドラマ化。友人たちとパーティに参加したまま帰らぬ人となったリーナに、何があったのか? この地で育ったゴッドフリーは久々に実家に戻り、地元警察官カム・ベントランドと再会し、自らのトラウマに向き合いながら、事件に関わりがあると考えられる少女たちに話を聞いていく。先住民が多く居住していたこの地の歴史的な背景や移民の問題を盛り込んだ意欲作。ベントランドを演じるのは、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のネイティブアメリカンの俳優リリー・グラッドストーン。制作は、ディズニーの子会社ABCシグネチャー。
ディズニープラスで独占配信中! 作品情報
『SHOGUN 将軍』
© 2025 Disney and its related entities Courtesy of FX Networks
『一流シェフのファミリーレストラン』
© 2025 FX Productions, LLC
『マーダーズ・イン・ビルディング』
© 2025 20th Television. All Rights Reserved.
『アガサ・オール・アロング』
© 2025 MARVEL
『ベター・シングス』
© 2025 FX Productions, LLC. All rights reserved.
『バツイチ男の大ピンチ!』
© 2024 ABC Signature. All rights reserved.
『パム&トミー』
© 2025 Disney and its related entities
『アンダー・ザ・ブリッジ』
© 2024 ABC Signature. All rights reserved.