恋愛や婚活だけは努力しても報われない…(涙) そんな恋愛迷走ぎみな女子、多すぎやしませんか!? そもそも恋愛に努力は必要ないの? それとも今までの努力の方向性が間違っている!? そんなお悩みに苫野一徳先生が哲学の視点からアドバイス。
哲学的にはどうなんですか?
哲学者・教育者
苫野一徳先生
とまの いっとく●兵庫県出身。熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授。熊本市教育委員。著書に、あらゆる愛の形を明らかにした『愛』(講談社)などがある。
人との〈対話〉を通じて、自分を知ることが豊かな関係性を築く第一歩
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、恋に落ちることに関しては努力は不要。でも、その恋を継続して豊かな関係性を築くためには努力が必要だと言えるでしょう。そもそも恋とは何か。私は、「自己ロマンの投影とそれへの陶酔」であると言っています。人は皆、人生の小さな挫折を通じて“こうだったらいいな”というロマンを育みます。そのロマンをそのまま投影したかのような相手に出会うことで恋に落ちる。でもそれはいわば幻想のようなものですから、「こんなはずじゃなかった」ともろくくずれてしまうことも多い。
そこで大事になってくるのが、私の師である竹田青嗣の理論、「自我のエロス」から「関係のエロス」への展開です。恋のロマンを含め、誰しもが持つ自己中心的な欲望=「自我のエロス」。それを超えて、相手との関係そのものに喜びを感じたい、そのために努力したい、そう思えるかどうか。もし恋人との関係に悩んでいるのであれば、“一緒にいることそれ自体に幸せを感じるか”を問うてみてください。一方が尽くすでも依存しあうでもなく、ともに過ごす喜びを味わうことが「関係性のエロス」です。この関係は、必ずしも恋から始まる必要はありません。大人になると経験から現実を知りロマンを抱くことがどうしても少なくなる。そしてもちろん、誰もが恋をする必要もありません。ときめきはなくとも、お互いを尊重しあい、慈しむことができたら素敵なことです。
ジャン=ジャック・ルソーの言葉で「不幸の本質とは、欲望と能力のギャップにある」という鋭い洞察があります。人は欲しいもの(この場合は恋愛や結婚)が手に入らないと不幸を感じやすい。では、どうしたらこの不幸から逃れられるのか、答えは3つ。「能力を上げる」「欲望を下げる」、そして「欲望を変える」ことです。前2つは少々大変ですが、欲望を変えることは意外とできるんです。いつも苦しい恋愛ばかりしてしまう人は、自分の本質的な欲望=自己了解がズレている場合も多い。自分が本当は何を求めていて、どうありたいのかを理解すること。それには映画観賞や読書もいいですが、いちばんは対話を通じて他者と価値観や感受性を交換することです。“誰かといい関係性を築けた”という成功体験は人間関係のいい土台づくりになります。直接的な恋愛の成果をすぐに求めるのではなく、様々な人とのコミュニケーションを楽しむ。それは、自分を知り、幸せな関係を築くための大切なプロセスです。
イラスト/五月女ケイ子 取材・原文/谷口絵美 ※BAILA2022年2月号掲載