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【イマドキ婚ルポ】事実婚や別居婚、友情婚。多様化する結婚スタイルを選んだ4組を取材

従来の婚姻スタイルにとらわれず、ライフスタイルに合った結婚生活を送る4組にインタビュー。それぞれが導き出したふたりらしい“結婚の形”とは!? 憲法学者木村草太さんが法律的な背景や、「同性婚」「夫婦別姓」についても解説。

目次

  1. 1.《事実婚》別姓で生活するため「ペーパー離婚」したふたり
  2. 2.《二拠点婚》東京⇔愛媛を行き来しながら「食」を追求するふたり
  3. 3.《別居婚》お互いの仕事を尊重し、土日だけ一緒に過ごすふたり
  4. 4.《友情婚》ともに“社会で生き抜くため”「交際0日婚」を選んだふたり
  5. 5. 憲法学者 木村草太さんに聞く「結婚と法律」のイマ

1.《事実婚》別姓で生活するため「ペーパー離婚」したふたり

DATA
□出会い 友達の友達
□交際期間 1年
□結婚 2019年に法律婚。2020年にペーパー離婚し事実婚へ

石井リナさん(33歳)

BLAST Inc. CEO

石井リナさん(33歳)

三澤亮介さん(32歳)

現代アーティスト

三澤亮介さん(32歳)

“夫婦別姓”を求めるふたりが対話を重ねることで導き出した事実婚という今できる最良の選択

三澤亮介さん(32歳) 石井リナさん(33歳)

法律婚による改姓で失われたアイデンティティー

世界で唯一、“夫婦同氏”の義務がある日本。石井さん、三澤さん夫妻は結婚1年目に“夫婦別姓”を選択するため、法律婚から事実婚に移行した。

石井 もともとは、お互いに夫婦別姓を希望していました。でも、事実婚では共同親権が持てなかったため、将来子どもができたときのことを考慮し、私が彼の姓に合わせる形での法律婚を選びました。ところが、公的書類の提出時や病院の受診時など、日常のあらゆる場面で、相手の姓で呼ばれるたびに、自分のアイデンティティーが失われていくのを感じたんです。また、女性のエンパワーメントを掲げる活動をしている自分自身が、家父長制に加担しているような感覚にもなり、耐えられなくなって、私からパートナーに「ペーパー離婚」を切り出しました。

三澤 リナを見ていて、僕も苗字が一緒であることがなぜ必要とされているのかと、モヤモヤが募っていました。別姓に戻すべきではと考えていた矢先だったので、提案に賛成しました。

現在、結婚して姓を変える人は、女性が圧倒的多数で、全体の約95%。ペーパー離婚という決断に対する周囲の反応は、男女間で違いがあったそう。

三澤 姓の変更に直面したことのある女性からの賛同が多く、改姓経験のない男性からは、「そうなんだ」といった薄い反応が目立ちました。自分ごととして捉えていない感じでしたね。

パートナーシップとは自立した大人同士が結ぶ契約

「事実婚」への移行にあたって、懸念したことはまったくなかったという。

石井 戸籍上の離婚で「バツイチ」になることは気にしなかったし、私たちの関係性についても不安はありませんでした。私はパートナーシップを、自立した大人同士が結ぶ契約だと考えていて、その時々で自分たちに合うスタイルを話し合い、選べばよいと思っています。今は、自分たちを大切にするために、「夫婦別姓」ができる事実婚を選びましたが、もし将来、法律婚のほうが、自分たちに適していると感じれば、またその選択をする可能性もあり得ますね。

三澤 僕は、どんな婚姻形態であれ、血縁関係のない人間と生きていくことの本質は、“心のつながり”だと思っていて。法によるしばりがない事実婚は、それがより試されている気もします。

従来の価値観に左右されないよいパートナーシップを結ぶコツは、“対話”。

石井 やっぱりお互いを尊重し、同じ方向に向かって足並みをそろえることは重要。私たちは、自分自身や社会のことなど、日々意見交換をしています。

三澤 意見が似ている部分もあれば、異なる部分もある。そこを認め合えば良好な関係が築いていけると思います。

2.《二拠点婚》東京⇔愛媛を行き来しながら「食」を追求するふたり

DATA
□出会い 浅野さんの弟の友人
□交際期間 1年
□結婚 2023年

浅野美奈弥さん(33歳)

「美菜屋」代表、モデル

浅野美奈弥さん(33歳)

若松優一朗さん(31歳)

みかん農家、「Tangerine」運営

若松優一朗さん(31歳)

“食”という共通点でつながったふたり。夢もビジネスも広がり続けるデュアルライフのあふれる可能性

浅野美奈弥さん(33歳) 若松優一朗さん(31歳)

二拠点生活をかなえた仕事の仕組みづくり

東京でケータリングサービス会社「美菜屋」を経営する浅野さん。パートナーの若松さんは、愛媛県・宇和島市で祖父母のみかん農家を継ぎながら、みかんジュースブランドを手がけている。

浅野 弟の友人だった彼とは、お互いに食をなりわいにしていることもあり、すぐに意気投合。将来のビジョンが似ている上に、友達感覚で何でも話せるので、ふたりとも自然に「一緒になりたい」と強く想うようになって。出会って半年後には結婚を決めました。事実婚も検討しましたが、親戚が少ない私は、「いつか家族を築きたい」と漠然と考えていたのもあり、また、物理的な距離があるので法的にも夫婦になっておいたほうが困難を乗り越えやすいのではないかと思い、法律婚を決めました。

ともに経営者。二拠点生活を決心する際、そこはネックにならなかったのか。

浅野 お互いにフットワークが軽いので、距離を結婚のハードルとして捉えていなかったし、何か不都合があれば、そのときに対策を考えればいいと思っていました。あとは、創業時から“私が現場にいなくても回る”組織づくりを目標にしていたので、それが二拠点婚をかなえてくれたと思います。

若松 今、二拠点生活をする上で、その部分にはすごく助けられています。

都会と地方のいいとこどりでワークライフバランスが整う

現在の生活スタイルは、基本的に浅野さんが1週間おきに愛媛に通い、若松さんは、農業というフィジカルな仕事柄、月1回2〜3日ほど、仕事に合わせて上京している。

浅野 一カ月のうち半分は愛媛で過ごし、彼の実家の農作業やジュースの事業を手伝っています。周りからは、「ハードな生活だね」と言われることもありますが、どちらの場所にも自分のやりたいことがあるから、移動もまったく苦じゃなくて。それに、スピーディな東京での生活だけだと疲弊しますが、海も山もある自然豊かな愛媛での生活も楽しめるほうが、私にとってはバランスがとれてすごくいいんですよ。

若松 僕もそう。彼女が東京にいるおかげで最先端のカルチャーに触れられたり、面白い人と出会えたり。地元では得られない刺激があるので、仕事へのモチベーションも上がります。東京も自分のもうひとつのホームだ、と思えることが嬉しいんです。

ふたりにとって、いいことずくめの二拠点生活。今後のライフスタイルや働き方の展望は?

浅野 もし妊活を始めるとなった場合、どう暮らしていくかは悩み中。夫婦で話し合い、自分たちなりの答えを見つけたいです。仕事面では愛媛にお弁当屋さんを出店するのも素敵だなと思っているところ。地元でとれる新鮮な食材の美味しさを生かしたいです。

愛媛での生活はこんな感じ

若松さんの実家であるみかん農園で畑作業に勤しむ。9〜3月が収穫シーズンで、浅野さんも繁忙期は愛媛に長期滞在。
若松さんの実家であるみかん農園で畑作業に勤しむ。9〜3月が収穫シーズンで、浅野さんも繁忙期は愛媛に長期滞在。

若松さんの実家であるみかん農園で畑作業に勤しむ。9〜3月が収穫シーズンで、浅野さんも繁忙期は愛媛に長期滞在。

リノベーションした愛媛の自宅。同じ敷地内に3世帯が暮らしている。

リノベーションした愛媛の自宅。同じ敷地内に3世帯が暮らしている。

従来の婚姻スタイルにとらわれず、ライフスタイルに合った結婚生活を送る夫婦にインタビュー。それぞれが導き出したふたりらしい“結婚の形”とは!? 今回は、キャリアを積むために別居婚を選んだふたりに話を聞いた。

3.《別居婚》お互いの仕事を尊重し、土日だけ一緒に過ごすふたり

DATA
□出会い 大学時代の同級生
□交際期間 2年
□結婚 2019年

土井陽菜花さん(32歳)

会社員 スーパーバイラーズ

土井陽菜花さん(32歳)


土井悠路さん(32歳)

公務員

土井悠路さん(32歳)

キャリアを積むために別居。ゆるやかなルールを設けてお互いに関心を持ち続ける

土井悠路さん(32歳) 土井陽菜花さん(32歳)

別居婚には“信頼・寛容・執着”3つのほどよいバランスが大切

千葉と東京の近距離別居婚を始めて6年目を迎える土井さん夫妻。

陽菜花 結婚2年目のとき、私が希望どおりの仕事ができる会社に就職が決まって。お互いの職場の中間地点で一緒に暮らすことも考えましたが、通勤に時間をかけることのメリットを感じられず、千葉への単身赴任を選択しました。繁忙期は隔週、余裕がある時期は毎週、金曜日の夜に夫が暮らす東京の家に帰り、日曜日の昼に千葉に戻る生活。週末に一緒に過ごすときは、ブランチするお店を探しながら散歩を楽しんでいます。

別居生活には、いくつかの暗黙のルールを設けているという。

悠路 ひとつ目は、生存確認も兼ねて毎日電話をすること。ふたつ目は、門限0時。遅くなる場合は、相手に一報を入れることにしています。あと、安否確認にも待ち合わせにも便利な位置情報アプリ「Life360」も利用して、お互いに余計な心配をさせないよう心がけています。別居生活は、信頼と執着、そして寛容さのバランスが重要。信頼が土台にあり、ある程度の執着を持ちつつ、それが行きすぎないように注意することが、うまくいく秘訣だと思います。

離れて暮らしているからこそ気にせず仕事に打ち込める

別居婚にはメリットもあれば、デメリットもあると語る陽菜花さん。今後のライフプランは?

陽菜花 メリットは、自分の時間をしっかりととれるので、落ち着いて仕事ができること。平日の生活リズムのズレが気にならない点はいいですね。デメリットは、とにかく寂しい! その日あったことを気軽に話せないのは、別居婚のつらい部分です。今後も今の会社でキャリアを積んでいきたいと思っていますが、ふたりで暮らすこともあきらめたくなくて。東京支社への転勤や、リモートワークができるような仕組みづくりなど、少しずつ会社にも働きかけていけたらと考えています。

従来の婚姻スタイルにとらわれず、ライフスタイルに合った結婚生活を送る夫婦にインタビュー。それぞれが導き出したふたりらしい“結婚の形”とは!? 結婚への見えないプレッシャーから解放されるために「友情婚」を選んだ二人にフォーカス。

4.《友情婚》ともに“社会で生き抜くため”「交際0日婚」を選んだふたり

DATA
□出会い 専門学校時代の同級生
□交際期間 0日
□結婚 2024年

なかばさん(31歳)

会社員

なかばさん(31歳)

たなかさん(31歳)

会社員

たなかさん(31歳)

世間や社会から押しつけられる結婚への目に見えないプレッシャー。そこから解放されるために手を取る

たなかさん(31歳) なかばさん(31歳) 

関係をいつ解消してもいい。軽い心持ちでした友情婚

学生時代の友人であるふたりは、恋愛感情や性的なつながりを持たない婚姻の形「友情婚」を選択した。

なかば 世間と社会の両方から、“結婚していないこと”に対するプレッシャーを感じていました。それもあり婚活をしていましたが、しっくりくる人に出会えない。そんなときに、映画『正欲』を観て、「友情婚」というスタイルを知り、コレだ!と。学生時代の友人で、何でも気楽に話せた彼のことが思い浮かんで、10年ぶりにごはんに誘ってみたんです。

たなか 最初に連絡が来たときは、マルチ商法の勧誘かと思ったけれど(笑)、会って話していくうちに、「お互いに30歳まで独身だったら結婚するのもアリだよね」と過去に話していたことを思い出して。僕も、世間からの“結婚の圧力”に煩わしさを感じることがあり、恋愛には興味がないけれど友情婚なら挑戦してみてもいいなと思い、再会して5時間後には婚姻届を出しました。

なかば 同居もしませんし、もしうまくいかなければ、離婚して元に戻ればいい。それくらいの軽い気持ちでした。翌日には指輪を買いに行き、「月1回は会う」「世帯が一緒になるので、借入時などは事前に報告する」というルールだけは決めました。

自立した大人同士の協力関係が生む安心感

結婚をしたことで、生活やメンタルにポジティブな変化があったそう。

たなか 結婚をしているというだけで、あらゆる場面で信用を得やすくなりました。また、自分が倒れたときに病室に来てもらえる存在ができたことは安心感につながっています。

なかば 私は、親友に近い感覚の結婚相手がいるおかげで、将来や老後を考えて不安になることがなくなりましたし、仕事に対するモチベーションも上がった。今後もお互いの気持ちを尊重して、協力し合いたいです。

従来の婚姻スタイルにとらわれず、ライフスタイルに合った結婚生活を選択するケースが増えている。そんなイマドキな結婚スタイルが成り立つ法律的な背景や昨今議論になっている「同性婚」「夫婦別姓」について、憲法学者の木村草太さんに伺いました。

5. 憲法学者 木村草太さんに聞く「結婚と法律」のイマ

【インタビュー】イマドキな結婚スタイルが成り立つ法律的な背景は?

「実は、柔軟な日本の婚姻制度が多様な家族に対応するためのカギ」

近年、事実婚、別居婚、友情婚など、従来の枠にとらわれない多様な家族の形が顕在化しています。実は、日本の法律はそれらに対応する柔軟性を持っており、非常に先進的だと言えます

たとえば、欧米圏をはじめとした諸外国は、婚姻・離婚の手続きが厳格ですが、日本では合意して役所に書類を出すだけで即時成立します。また、民法には夫婦の同居義務の規定がありますが、これは抽象的な義務で、夫婦間の話し合いで同居/別居を自由に選択できます。夫婦の性交渉の義務もないので、友情婚も自由です。

日本の婚姻制度にはこのような一定の柔軟性があるのですが、「選択的夫婦別姓」と「同性婚」については、依然として認められていません。これらを実現させるためには民法の改正が必要で、各問題の背景を注意深く見なくてはなりません

まずは「夫婦別姓」。強制的な同氏を維持したい側の主張としてよく挙げられるのが、「家族の一体感」です。しかしこれは表面上の理由にすぎず、真の理由は伝統的な家族観やジェンダー観に基づく心理的な要因で、具体的には「自分の妻や子どもが別姓を選ぶことへの恐れ」がその背景にあると考えられます。

また、「同性婚」は約10%、すなわち約1000万人の有権者が強く反対していると想定されており、政治家側も選挙に必ず行く反対派の意見を重視しているというのが、民主主義国家である日本の現状です。

こうした状況を変えるためにできることは、やはり「選挙に行くこと」。そして「立法機関で意思決定をする地位にある人のジェンダーバランスを整える」ことが重要だと思います

憲法学者木村草太さん

ちゃんと知っておきたい【イマドキ婚Q&A】

Q.「法律婚」と「事実婚」にはどういった違いがありますか?

A.事実婚は法的な夫婦関係ではないので相続権がなく、子どもの親権は原則母親に

事実婚では法律婚で得られる法的保護や効果を基本的には得られません。たとえば、“配偶者の相続権がない”“子どもが生まれた際に婚外子扱いとなり、父親は認知の手続きが必要”などです。しかし近年は事実婚を選んだカップルも公営住宅に申し込めるなど、法律上の夫婦と同じ権利を与える動きもあります。

Q.「同性婚の法制化」に関する現在の焦点は?

A.国側の“生殖関係の有無”という主張にある矛盾が争点

現在、国側は同性婚を認めない理由として「婚姻は生殖関係を保護するためのもの」と説明しています。しかし、この理屈は子どもを産まない異性カップルも結婚できる現状と矛盾します。生殖関係の有無で婚姻を区別することは合理的な理由ではないということを、同性婚実現に向けて追及していきましょう。

Q.現在の「夫婦同氏制度」の背景にはどういった歴史がありますか?

A.戦後、それまでの「家制度」が崩壊し、夫か妻どちらかの氏を選択することに

明治31年に施行された明治民法では、妻が夫の家に入る、すなわち入籍して「家」の氏を称することで、同氏になるという決まりでした。しかし昭和22年に改正された民法では、男女平等の理念に沿って、婚姻時に夫婦単位で新たな戸籍をつくり、どちらかの姓を名乗ることに。その仕組みは現在も継続中です。

Q.「選択的夫婦別姓」はどうすれば達成できるのでしょうか?

A.公的機関で公認されている通称使用。そのダブルスタンダードを指摘すべき

現在、日本の民法では旧姓の通称使用は認めらていません。しかし、国会をはじめとし、多くの公的機関で通称使用が公認されています。選挙に行った上で、こういった実態と法律との間に生じている矛盾を指摘していくことが、“選択的夫婦別姓”を実現させるアクションのひとつになるでしょう。

Q.結婚の形が多様化しているからこそ「プレナップ(婚前契約書)」はつくっておくべきですか?

A.法的な効力を持つかは不明。婚前契約をしても相手が怒れば離婚に

民法755条の“夫婦財産契約”(財産の管理方法、離婚後の財産分与など)以外の婚前契約が、法的に有効かは微妙な問題。たとえば、夫婦間で“浮気してもOK”と約束していたとしても、現在の法律では浮気された側が離婚請求できます。もし約束が有効となっても、相手が怒れば離婚に至るのではないでしょうか。

木村草太さん

憲法学者

木村草太さん


憲法学者。東京大学法学部卒業。現在は東京都立大学で教授を務める。『平等なき平等条項論』(東京大学出版会)、『ほとんど憲法』(河出書房新社)、『「差別」のしくみ』(朝日新聞出版)など著書多数。

撮影/森川英里 取材・原文/海渡理恵 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載

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