ニュースやSNSなどでよく見聞きするキーワードの中から、バイラ世代が知っておきたい10のキーワードをピックアップ&家族社会学者である永田夏来さんの視点から鋭く解説!
永田夏来さん
兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授。家族社会学の観点から、結婚・妊娠・出産と家族形成についての調査研究を行う家族社会学者。著書に『生涯未婚時代』(イースト・プレス)など。
【共同親権】反対の声が増加中!
離婚後の父と母、それぞれに親権を認める制度で、2026年までに施行される見通し。しかし、裁判でDV等が立証できない場合は加害者が共同親権を持つ可能性や、父母の所得を合算することで支援の対象外となり、ひとり親の貧困が加速するなどの懸念も。ネットを通じた反対署名は22万筆を超えた。「そもそも離婚にまつわる話し合いが成立しにくいとされる日本では時期尚早。制度が生活の実態に即さず、運用の仕組みがまったく整っていない状況では混乱が起きるだけだと思います」(永田さん、以下同)
【生涯未婚率】2030年には約2割に
45〜49歳と50〜54歳の未婚率の平均値から計算した、50歳時点での未婚率。総務省の調べによると、1980年までは男女とも5%未満と低く、日本は「皆婚社会」といわれてきた。しかし、1990年以降急激な上昇を示し、2015年には男性23.4%、女性14.1%に。
「結婚経験を持たない中高年に加えて、結婚を人生設計に組み込まない若い世代も登場してきています。私たちは、恋愛や結婚、家族についての画一的な『あるべき姿』や社会の仕組みそのものを再検討する必要があるのではないでしょうか」
【同性婚】実現しないのはなぜ?
日本はG7で唯一、同性同士の結婚(同性婚)が認められていない。全国5カ所で同性婚(結婚の平等)を求める裁判が行われ、4つの判決で「同性婚を認めないことは違憲」と判断が下された。
「いまだに認められていないのは、遅すぎますよね。選択的夫婦別姓も同性婚も、やらない理由を挙げるほうが難しいくらい。これは私の友人の言葉ですが、『家族や子どものことを考えるのは未来を考えること』。高度経済成長期の経験や家制度の幻影にとらわれて、未来志向での政治的判断ができていないことの弊害だと思います」
【国際カップルの子どもの権利】約10万人の子どもに影響
納税などの義務を怠った外国人の永住許可を取り消せるようにする法案が国会に提出された。たとえば税金や社会保険料の滞納、在留カードの不携帯なども取り消し対象になる懸念が。親の永住許可と連動して子どもの永住許可が取り消される場合もあるため、子どもの将来にも深刻な影響が生じかねない。「親が在留資格を失った、あるいは離婚したときに子どもの権利をどうするのか、が争点になっています。“子どもが強制送還されるのが怖くて離婚ができない”といった声も上がっており、これは制度に合わせて人間関係がゆがめられている状況。国際化や移動の自由化が進んでいる今、子どもの権利を積極的に守る姿勢を示し、実情に合わせて制度を変えていくのが本来のあり方だと思います」
【奨学金の対象拡大化】なぜ特定の学部だけ?
2024年度から奨学金制度が改正。返済不要の奨学金は世帯年収380万円未満が対象だったが、3人以上の子どもがいる場合は世帯年収600万円までが対象に。また、子どもの数にかかわらず私立大の理工農系学部に通う学生には文系学部との平均的な差額(約30万円)を支援。
「“対象拡大”というと響きはいいですが、特定の学部や金額ありきのため、新たな対象者は多くありません。本来であれば地域ごとの特徴や実情に合わせて選択できるよう制度設計するのが奨学金の軸なので、この改正は政府の人気取りのためと感じてしまいます」(永田さん、以下同)
【こどもまんなか社会】本当に子どものため?
子どもの利益を最優先に考えた取り組みや政策を、国の中心に据える社会目標のこと。今後の子ども政策の基本理念を示す「こども基本法」が2023年4月に施行され、施策の立案と実施を担う「こども家庭庁」も創設された。「子どもが安心して育つ環境を整えようといった話なら面白いのですが、実際は合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数)をいかに上げるかという、ポイントがズレた机上の空論になっているのが残念です」(永田さん、以下同)
【子連れ様・子持ち様】SNS発のネットスラング
SNS上などで使われる、幼い子どもを持つ子育て世代を揶揄する言葉。「これまでも、『ベビーカーが邪魔』や『子どもの発熱で帰宅した人のフォローをするのは私。このモヤモヤをどうすれば……』といった声はありましたが、そもそも女性を想定した負のレッテルになっていることが問題。『時短勤務で周りに迷惑をかけてしまう』と萎縮する女性も多いけれど、はっきり言えば、迷惑をかけているのは妻側の職場の制度にタダ乗りしている夫側の職場です。これは労働問題として考えるべき」
【異次元の少子化対策】財源の根拠にも注目を
2023年1月に岸田首相が検討を表明した少子化対策。児童手当の所得制限撤廃などを盛り込んだ「こども未来戦略」を閣議決定。財源確保のため「子ども・子育て支援金」として一人当たり月平均500円弱が公的医療保険と併せて徴収される見通し。
「少子化対策は注目を集めやすいので、選挙などのタイミングで話題作りに使われがち。少子化が待ったなしの状況であるのは確かですが、子育て世代の不安も含めた困りごとへの想像が届いていないと感じます」
【選択的夫婦別姓】できないのは日本だけ!
名字を変えずに法律婚ができる制度。片側が名字を合わせなければ法律上の結婚ができない国は日本だけ。2024年4月に行われたNHKの世論調査では62%が導入に賛成。
「反対派は『家族や家制度が破壊される』と言いますが、それは誤解。代々続く戸籍に妻が入ることで姓が変わる=家に属するという戦前の家制度は、戦後の法改正ですでに解体され、結婚後は新たな戸籍を作る形へ変化しています。今さら『家』を理由にするのは過剰な意味づけでは?と思います」
【子どもの相対的貧困】次世代にも連鎖しやすい
厚生労働省の調べでは、日本の17歳以下の子どもの貧困率は11・5%(2021年)。約8・7人に一人の子どもが貧困状態にあるといわれ、貧困は次の世代に連鎖する可能性も。
「子どもの貧困問題は、衣食住に困るレベルの貧困ではなく、周りの大多数に比べて貧しい状態が問題視されていて、これを『相対的貧困』といいます。また、世帯年収が高い東京と、地方の過疎地域では、子どもにかけられる教育的投資や環境に大きな差があるなど、格差の広がりも問題として挙げられます」
コラージュ制作/花梨〈étrenne〉 取材・原文/国分美由紀 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載