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ヤマザキマリさんに聞いた「結婚って本当に必要ですか?」国際結婚を経て見えた、理想の家族のかたちとは

イタリアを始め世界各地で暮らし、様々な結婚観に触れてきたヤマザキマリさん。今だからわかる、結婚の理想とリアルって? 日本社会の刷り込みについても伺いました。

ヤマザキマリさん

“人生に絶対必要なものでもないし、失望するほどでもないものが結婚です”

ヤマザキマリさんインタビュー

「自立してから結婚を考えろ」が母親の口癖だった

――「結婚が必要か・必要じゃないかは、本人の判断や価値観次第。私は、チャンスがあるなら、やってみてもいいんじゃない?と思っています。人間は特殊な生物ですから、生まれてきたからには“絶対にやらなきゃいけないこと”だとはまったく思いません」と語ってくれたヤマザキさん。ニュートラルな結婚観は、実家の影響も大きいとか。

「私の母は地方の交響楽団でヴィオラ奏者をしていました。最初の夫(ヤマザキさんの父親)とは死別、後に再婚した夫とは離婚しています。そんな彼女の口癖は『結婚は、自分が経済的に自立してから考えることよ』でした。バイラ世代の皆さんからしてみると当たり前の感覚かもしれませんが、これ、私が子どもだった40年以上前は、母親から娘へ伝える結婚観としては、かなりアヴァンギャルドな意見だったんですよ。でもそのおかげで私は、結婚に対して希望的観測をまったく抱かず、それが人生において絶対に必要なこと、などとはいっさい考えずに育ちました」

共同体の一種の形として、結婚を受け入れてみた

――そんなヤマザキさんは、10代半ばで単身イタリアへ。10代後半から11年間同棲した相手と息子をもうけたのち、シングルマザーに。そして35歳で12歳年下のイタリア人の比較文学研究者と結婚した。夫は研究で世界中を飛び回る生活をしているため、ヤマザキさんと常に一緒に暮らしているわけではないが、これも結婚のひとつのかたち。

「夫のベッピーノは、不思議な縁が重なって出会った人ですが、興味や好奇心といった知性のベクトルが似ていたこともあり一緒にいても負荷はなく、だったら家族という関係でもいいんじゃない? という動機で結婚をした相手です。息子も懐いていたし、何より私自身も彼と話をしていると面白いことばかり。3人が共同体となるには、私がベッピーノを養子に迎え入れるか?とも考えたのですが、手っ取り早いのは結婚かなと。燃え上がるような大恋愛の末に結ばれた関係ではありませんが、人として、それぞれ選んだ仕事や生き方へのリスペクトだけはお互い抱き続けています。距離があっても必要なときこそ一緒になればいい、くらいがちょうどいい。地球上には、いろんなパターンの結婚があるんだと知っておくのもいいのかもしれませんね」

――そして「日本の場合は、大人の女性が選ぶことのできるルールや価値観の種類が、まだ少ないのかも」と。

「“30代で結婚していないと変な人と思われるかな”……みたいな風潮は、さすがに減っていると思いたいですが、日本人の結婚観や家族観は、まだ明治維新と江戸時代ぐらいの感覚を行ったり来たりしているように感じることはあります。制度は西洋式を取り入れているけれども、潜在意識には古来からのものが残っていて、そのしがらみに囚われている……。それと、これは戦後アメリカから大きく影響された思想だと思うのですが“大恋愛の末結婚!”“結婚式が人生最大のクライマックス!”という考えも、根強い気がしますね。もちろん、ラブラブな結婚パーティでもなんでもやってください(笑)。ただ、結婚というイベントは人間がつくったおまつり。本質的な意味は、他人同士が一緒になり、これから家族をつくります、という告知の儀式です。結婚で人生が薔薇色になる、結婚は人として感じられる最高の幸せ、というイメージは社会的に刷り込まれている価値観のひとつにすぎないのです。まずこうした既成概念を取り払い、結婚というものをいま一度じっくり考えてみてください。それでもする・しないは個人が決めることかなと思っています」

“「予定調和」な考えを捨て、結婚という冒険を楽しめば、見えてくる世界もある”

結婚は予定調和がきかない最たるもののひとつです

――さらにこんな意見も。

「結婚したいと思っている人は、結婚こそ、人生で最も予定調和がきかないもの、くらいの覚悟をしていたほうがいいでしょう(笑)。結婚を決めても舞い上がってばかりいないで、その関係はどこかで解消する可能性があることも念頭に置いておきましょう。だったらしないほうがいい、ではなく、人の一生とはそもそもそういうものなのです。理想、失望、夢、現実、このすべてを避けていてはそれこそいい人生は送れません。私ごとですが、イタリア人との国際結婚というと「あらすてき」と捉える人もいますが、夫と一緒に迫力満点の姑と、彼女が率いる大家族がついてきますからね(笑)。さらに私の場合、夫の仕事の都合で世界を転々としました。そのこと自体は楽しめたけど、お湯につかれないライフスタイルはつらかった(笑)。湯船への愛と渇望が『テルマエ・ロマエ』執筆の原点のひとつなんです。ただしこれは、あくまでもヤマザキマリの結婚体験。運命の流れに身を委ねていたら色々な展開が起き、視野も広がり、自分の懐が大きくなった、という個人的な実感はあります。人の数だけ結婚観や結婚生活がありますし、大前提としてヤマザキマリの生き方は、ジョン万次郎も驚くぐらいの、荒波の中を漂う航海ですから、真似はしないように(笑)。あなたにしかわからない自分という性格としっかり向き合った上で、色々やってみてください。潰しもやり直しもなんでもありです。怯んで立ち止まっているのが人生にとっていちばんの損だと思います」

ヤマザキマリ

ヤマザキマリ


漫画家・文筆家・画家。1967年生まれ。’97年に漫画家デビュー。’10年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞受賞。第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。同作品は、現在も世界各地で翻訳出版中。エッセイなどの著書も多数。

撮影/ノザワヒロミチ 取材・原文/石井絵里 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載

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